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こんな除染で「住め」と?

前屋毅フリージャーナリスト

■住民の再除染要望を無視

なにを今さら、という感じがぬぐいきれない。東京電力福島第一原発事故による放射能汚染を受けた場所から放射線物質や放射性物質が付着した物を除いて「掃除」する「除染」の問題だ。

原発事故で避難指示解除準備区域になっている福島県田村市都路町は、今年6月末に環境省直轄の除染を終えたことになっている。しかし7月11日付の『福島民報』は、「国が長期的な目標として年間追加被爆線量の1ミリシーベルト以下を達成できなかった地点が残り、除染の難しさが浮き彫りになっている」と伝えている。

つまり、掃除したつもりだったが、掃除しきれていなかった、というわけである。掃除が手抜きだったのなら、やり直せば済むことだ。実際、住民からは再除染を望む声があがっているというが、そう単純なことではない。

屋根瓦など表面に凹凸があり、凹部分に深くはいりこんだ放射性物質は簡単にとりのぞくことはできない。高圧洗浄しても完全に取り除けないことは、国も福島県も各自治体もじゅうぶんにわかっている。林や森などのような場所にはいりこんだ放射性物質を取り除くなど大難題でしかない。

だから環境省は、早々に再除染に応じない方針を示している。やってもムダなことがわかっているからにほかならない。

除染作業をやればきれいになって原発事故前と同じ暮らしができると信じこまされてきた住民にしてみれば、裏切られた気持ちだろう。「除染=元どおりになる」が幻想だったことにも気づいたにちがいない。

■除染作業が新たな汚染に

7月11日には、日本原子力研究開発機構が発注した除染モデル実証事業を請け負った中堅ゼネコンの日本国土開発が、福島県南相馬市で行った汚染作業で生じた汚染水340トンを、あろうことか農業用水に使う川に流していたことがわかった。この水を使って育てられた農作物を食べれば、内部被爆の可能性が高くなる。

このニュースを配信したのは共同通信社だったが、12日付の紙面で記事にしたのは、首都圏で目についたかぎりでは『東京新聞』だけだった。同紙は、「原子力機構は、川に流すことを知りながら、排水経路に触れていない国土開発の計画書を了承、地元に提出していた」と伝えている。人への影響などお構いなしにすすめられているのが、汚染作業の実態なのだ。

原子力機構の例が特殊なわけではない。除染作業と称して道路などを高圧洗浄する作業が福島県内で行われているが、そこで使われる水は「流れるまま」である。A地点で使われた水は放射性物質を含んでB地点に流れる、ということになっているのだ。

除去できないどころか、汚染をひろげているだけ、というのが除染の実態である。それで安全宣言し、住民を元どおりに住まわせようというのだから、残酷な話でしかない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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