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日本の教育現状を示す所沢市住民投票

前屋毅フリージャーナリスト

埼玉県所沢市の住民投票は、教育をめぐる日本の状況のひとつの典型だといえそうだ。航空自衛隊入間基地に近い防音校舎の小中学校にエアコンを設置すべきかどうかの住民投票が、2月15日に行われた。その日に開票が行われ、設置への賛成が5万6921票で反対の3万47票をうわまわる結果になった。

しかし、「市長や市議会が結果の重みを斟酌しなければならない」という市の条例を行うためには、「多数票が投票資格者の3分の1以上の場合」という定めがある。投票資格者は27万8248人で、5万余りの賛成票では、これを満たさない。これによって、エアコンは設置されない可能性が高くなった。

そもそも決まっていたエアコン設置について中止の方針を決めたのは、2011年秋の選挙で当選した新市長だった。理由は、市の財政が苦しいということだそうだ。それに住民から反発の声があがり、今回の住民投票となったわけだ。結果からみれば、新市長の方針を住民が支持したことになる。

防音校舎は、当然ながら、窓などを閉め切っておかないと効果はない。真夏になれば、締め切った教室が、どういう状態になるのか、簡単に想像できる。所沢の住民は、子どもたちに「そんな環境でも勉強しろ」と突きつけたことになる。

そんな学校に自分の子どもたちが通っていない親にしてみれば、そんなことは「よそ事」でしかないのだろう。すでに学校に通う子どもがいなかったり、子どものいない大人にしてみれば、さらに「よそ事」でしかないのかもしれない。それは、31.54%という投票率の低さに顕著に表れている。自分に関係ないことでおカネが使われて、それで税金が高くなったんじゃたまったものじゃない、という気持ちもあったかもしれない。

もちろん、税金が高くなるのは好ましくない。だからといって、子どもたちに劣悪な学習環境でもがまんしろ、というのは酷すぎる。「昔の環境はもっと悪かった」と言いたてる方々もいるかもしれませんが、昔の木造校舎と違ってコンクリート校舎は密閉性が高いぶんだけ暑い。防音校舎となれば、なおさらのはず。飛行機の騒音で声も切れ切れでは、授業にならない。

子どもは国のタカラとか、少子高齢化だから子どもを大事にしなければ、などのお題目はとなえながら、財政難という理由だけで簡単に教育関連の費用を切っていく政治の姿勢も酷すぎる。いったい、子どもたちを何だとおもっているのか。

財政難ということで子どもを切り捨てる政治、そして他人の子どものことなど関係ないという住民、これは所沢市だけの問題ではない。まさに、日本の子どもたち、教育への姿勢であると再確認しなければならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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