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最低賃金1000円など生ぬるい、もっと賃上げが必要である

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

時給1000円・・・これを、どういうふうに受け取ればいいのだろうか。

今年10月から改正された最低賃金が全国で発効されるが、まだまだ1000円にはほど遠いレベルでしかない。たとえば全国でも時給の高い東京都でも、これまでの907円から932円となるにすぎない。

それでも、「人手不足」として外食産業を筆頭にして時給1000円以上のところが増えている。それでも集まらない、というのが東京の実情だ。

しかし、改定されても沖縄は714円、鹿児島や大分、熊本、長崎、佐賀、高知などは715円でしかない。改定前は、600円台である。

ここから考えると、全国で最低賃金が時給1000円に到達するには、かなりの時間を要することはまちがいない。安倍晋三首相も昨年(2015年)11月の経済諮問会議において、最低賃金を2016年以降、毎年3%程度ずつ引き上げて、時給1000円を目指すと表明している。

その安倍首相発言からすれば、2016年の引き上げは「妥当」なのかもしれない。ただし、安倍発言のあった2015年の最低賃金は全国で798円で、これを毎年3%の賃上げが実現できたとしても、1000円に達するのは2023年のことになる。安倍発言は、それまで最低賃金は1000円以下に据え置くということにほかならない。

時給1000円だとしても、1日8時間働いて8000円、月に20日働けば16万円になる。年収にすれば、192万円である。

これが、学生アルバイトの場合であれば、「悪くないんじゃない」となるかもしれない。しかし現在の時給労働者は、学生アルバイトだけではない。アルバイトではなく、それを「本職」として、生活を成り立たせなくてはならない人も多い。

国税庁が発表している「民間給与実態統計調査」をベースにした2015年における日本人の平均年収は420万円となってる。これと比べれば、192万円という年収は、あまりにも低すぎる。社会人として家族を支えられるレベルではない。

しかも、時給1000円が全国レベルで実現する可能性のあるのは2023年である。それでも一般的な日本人以下であり、現状は、はるかに及ばないレベルなのだ。

繰り返すが、小遣い稼ぎの学生アルバイトなら、まだ許されるのかもしれない。それで生活を成り立たせなければならない立場の人にしてみれば、とんでもない状況なのだ。

日本経営者団体連盟(日経連=現在は日本経済団体連合)が1995年に発表した「新時代の『日本的経営』」で、新時代の労働者を1.長期蓄積能力活用型グループ2.高度専門能力活用型グループ3.雇用柔軟型グループの三つに分類している。1.だけが管理職などの基幹職で正社員とし、2.と3.は非正規雇用と位置づけている。当時、1.に含まれるのは全雇用者の3割といわれていた。

つまり雇用者の7割までを非正規としたいのが、産業界の意向なのだ。その非正規の少なくない部分が時給であり、それでも「人並み」に生活していけない時給1000円になるのは2023年だというのだ。まさに、多くの雇用者が「生殺し」にされる方向を産業界は目論んでおり、その方向に進みつつある。

時給1000円をマスコミは労働条件の改善のように報じているが、そんなものは改善でもなく進歩でもないことを再確認しておく必要がある。雇用者の賃金は、もっと上がるべきなのだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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