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主婦を家から追い出すことに躍起になる政府・与党、産業界

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

2017年度の税制改正論議で焦点となっている専業主婦世帯を対象にした配偶者控除の見直しをめぐって、政府・与党は検討をすすめている。控除を拡大しよう、というものではない。

控除対象になっている配偶者(主婦)の年収上限を、現在の103万円以下から引き上げようというのだ。130万円か150万円いずれかの案を、政府・与党は実現しようとしている。いずれにしろ、引き上げることに変わりはない。

現在は主婦の年収が103万円以下ならば、夫の年収から38万円を引いて税負担を軽くすることになっている。この38万円の控除を受けるために、パートで働いている主婦は年収を103万円以下に抑える傾向が強い。これが引き上げられれば、パートの主婦は年収を増やせることになる。

つまり、主婦がパートで働く時間を長くできることになる。それによって、いちばん恩恵をこうむるのは、人手不足に悩む企業だ。配偶者控除の見直しは、企業のためでしかない。

さらに経団連(日本経済団体連合会)は、来年1月にまとめる春季労使交渉に向けた経営者側の基本方針(経労委報告)に、配偶者手当に関する項目を新たに設ける方向だという。どういうことかといえば、配偶者手当の廃止や削減を会員企業に呼びかける。

配偶者手当も、配偶者控除と同じく、主婦の年収が103万円を超えると支給しない企業が多い。そこで、配偶者手当を受け取るために、年収を103万円を超えないように抑えている主婦が多い。

その配偶者手当が廃止されれば、年収103万円以下に抑えておく意味がなくなる。それ以上に、削られる配偶者手当の分を主婦が稼がなければ家計が成り立たなくなってしまう。いずれにしろ、これまで以上に主婦は働かないわけにはいかなくなる。そして、企業は労働力を確保できるというわけだ。

これに先だって11月16日、国家公務員の配偶者手当を2017年度から段階的に減らす改正給与法が参議院本会議で可決され、成立した。減額される分だけ、国家公務員の配偶者も稼がなければならなくなったわけだ。これまた、企業にしてみれば労働力確保の可能性が広がったことになる。

主婦を企業の労働力に充てるために、政府・与党、産業界は躍起になっているわけだ。しかも配偶者控除の控除対象の上限を130万円か150万円かで迷っているところにも現れているように、正規雇用に充てる気はない。あくまでも、賃金の安いパートとしての労働力として利用しようとしている。

政府・与党や産業界の都合で、主婦は家から追い出されようとしているわけだ。パートやアルバイトなどの非正規雇用の労働環境が改善されることはなく、むしろ悪化する一方である。そういうところへ、主婦を追い込もうとする政府・与党や産業界の動きに疑問をもたないわけにはいかない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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