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ロシア企業、キプロスの資本規制や銀行部門縮小で打撃―訴訟頻発も

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

地中海の小国キプロスの欧州債務・金融危機は、ユーログループ(ユーロ圏17カ国の財務相で構成)が25日未明の緊急会合で、キプロス2位のライキ銀行の解散と最大手行キプロス銀行のリストラを条件にキプロスへの100億ユーロ(約1.2兆円)の金融支援の開始で最終的に合意したことで、ようやくデフォルト(債務不履行)、そして、ユーロ圏離脱という最悪の事態を回避する見通しとなった。しかし、キプロス政府と議会はすでに預金引き出しや送金など資本規制を決めているため、ロシア経済に悪影響が及ぶことが懸念されている。モスクワ・タイムズ(電子版)が24日に伝えた。

ロシア金融大手ズベルバンク(ロシア連邦貯蓄銀行)のヘルマン・グレフCEO(最高経営責任者)は地元テレビ局「ロシア24」のインタビューで、「もし、キプロスが資本規制で、ロシア資本のキプロス経由での双方向の移動を制限するようなことになれば、ロシア企業に深刻な打撃を与え、すべての投資家はキプロスを離れることになる」と警告している。

米証券大手モルガンスタンレーは先週発表した顧客向けリポートで、ロシアの対内投資と対外投資の25%がキプロスを経由しているとし、実際、2007-2011年のロシア企業に対する外国からの融資額は全体の24%に相当する2030億ドル(約19.3兆円)で、これらの融資はすべてキプロス経由だったとしている。その上で、キプロスの銀行部門が縮小すれば、ロシア企業は他に借入先を模索しなければならなくなる、と警告している。

また、ロシア中央銀行のアレクセイ・シマノフスキー第1副総裁は先週末、記者団に対し、「(キプロス危機は)ロシアの銀行システムや個別の銀行に対する脅威はない」と述べたが、ロシア2位の国営金融大手VTB(対外貿易銀行)は最悪のシナリオとして、数千万ユーロ(数十億円)の損失の可能性を指摘している。

大口預金のヘアカット差し止め訴訟の頻発の恐れ

一方、ユーログループとの最終合意では、ライキ銀行の10万ユーロ(約1230万円)超の大口預金42億ユーロ(約5200億円)をバッドバンクに移して完全に清算し、10万ユーロ未満の預金はキプロス銀行に移すこと、他方、キプロス銀行の10万ユーロ超の預金を凍結し、自己資本強化のため資本注入される過程で大幅にヘアカット(40%くらい)することになったが、ノーボスチ通信の25日付電子版によると、キプロスのロシア経営者協会のユーリー・ピャーニャク氏は、「大口預金の強制的なヘアカットはまるで窃盗が合法化されたのに等しく、多くの国際条約に違反する行為だ。もし、ヘアカットが実行されれば、多くの訴訟が起こり、多くの裁判で勝訴するだろう」と述べており、大口預金のヘアカット差し止め訴訟に発展する恐れが出てきた。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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