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未来のなでしこ黄金世代が作る「勝負に勝つ」サッカー ーーU-20日本女子代表合宿

松原渓スポーツジャーナリスト

高知県で行われた3日間の強化合宿

4月17日から20日にかけて4日間、U-20日本女子代表候補のトレーニングキャンプが高知県内で行われている。

集められた20歳以下の選手たちは、今年11月にパプアニューギニアで開催されるU-20女子W杯に出場する資格を持った選手たちだ。

3月の五輪予選ではなでしこジャパンが予選敗退という残念な結果に終わってしまったが、2020年の東京五輪で主力となり得る次世代の選手たちは、着実に力をつけている。

維新の革命児、坂本龍馬ゆかりの地で生き生きと汗を流したU-20日本女子代表に、女子サッカーの未来への希望を見る思いだった。

U-20日本女子代表合宿
U-20日本女子代表合宿

3月17日の組み合わせ抽選会で、11月に行われるU-20W杯の対戦相手が決まった。

日本は、ナイジェリア、スペイン、カナダと同じグループB。一言で言うと、「厳しいグループ」だ。

A〜Dの4つに分かれたグループの中では、アメリカ・フランス・ガーナ・ニュージーランドが同居するグループCに匹敵する激戦区と言える。

ナイジェリアやカナダは、U-20W杯では日本よりも実績がある。

ナイジェリアは過去7回出場して、準優勝が2回。カナダは同6回出場して、1回の準優勝経験を持つ。対する日本は、4回出場し、2012年に開催国となった大会での3位が最高位だ。スペインは過去1度の出場経験(GL敗退)だが、近年躍進を遂げており、日本が優勝した2014年の17歳以下のワールドカップでは日本と決勝を戦っている(日本が2-0で勝利)。

だが、当事者である選手はこの組み合わせを冷静に受け止めている。

長谷川唯選手(日テレ)は、対戦相手についてこう話す。

「(対戦相手への対策について)特にナイジェリアは個人の能力が高くて、フィジカル面では自分たちが負けてしまうところがあるので、(正面から)当たらないために、技術を活かしたサッカーや、相手の逆をとるサッカーをしたいです。そこまでしつこく粘り強いというイメージはなく、一発で裏を狙ってくるプレーも多いと思うので、技術で上回っていきたい」

各年代代表で飛び級も含めて多くの国際大会に出場してきた長谷川選手は、年代別代表でアフリカ勢との対戦もあり、フィジカルに長けたサッカーの怖さや、逆に日本が通用するポイントも”肌感覚”として理解しているのだろう。

今後、U-20の合宿はW杯本番直前の10月まで、2ヶ月に1回のペースで行われる予定だ。

そんな中、チームを率いる高倉麻子監督は、今回の合宿の位置づけについて

「攻守に渡ってチームのやり方を確認して、徹底していくこと。また、選手の選考という意味でも、競争しながらやっていくつもりです。いろんな選手を呼んで、いろんなポジションを試しながら、どんな組み合わせが良いのかを考えています。新しい選手も試しながら、プレーの「質」を上げ、攻守ともに戦術的なところを確認しながら研ぎすませていく作業にしたい」

と話した。

3月末に国内リーグが開幕し、既に主力として戦っているメンバーもいる。そのため、全員が集合したのは18日午後となったが、選手たちは短期間でも高いモチベーションで合宿をこなした。

”思考を止めない”アグレッシブなスタイルを体現する

トレーニングでは、高倉監督と大部由美ヘッドコーチがメニューを決め、様々な角度から選手たちを刺激する。

2人は1991年の第1回FIFA女子選手権(現在のW杯に当たる)などを共に戦った日本女子代表の元チームメイトであり、現役引退後は長く育成年代の指導に当たってきた育成のスペシャリストでもある。指導でもあうんの呼吸がチームを支えている。

このU-20年代では10代前半から関わっている選手も多く、個々の伸びしろや性格を把握し、多彩な練習メニューと言葉で選手たちの能力を引き出してきた。そして、ピッチに立つ11人全員が連動するアグレッシブなサッカーは、各年代の国際大会で結果を残してきた。

2013年のAFC U-16女子選手権では35得点1失点の圧倒的な成績で優勝(得点王:小林里歌子、MVP:杉田妃和)し、アジア女王の座を引っさげて望んだ翌年のU-17女子W杯(@コスタリカ)では、育成年代で初の世界一に輝いた(23得点1失点、MVP:杉田妃和、最優秀GK:松本真未子)。

そして昨年行われたAFC U-19女子選手権でも、U-16年代に続きアジアを制覇(12得点2失点、MVP:小林里歌子)し、今年のU-20女子W杯への出場権を得た。

そう、この年代は”黄金世代”となる可能性を充分に秘めた選手たちなのだ。

アジア女王として迎える今年11月のU-20女子ワールドカップでも、優勝への期待がかかる。

「ボールを動かしながらグラウンド全体を使って、全員で動きを止めない、思考も止めない。その中で選手たちの意図や意識が一致してくれば本当に面白いサッカーができると思いますし、どんなに強い相手にも止められないサッカーをしたいと考えています」(高倉監督)

毎日同じメンバーでトレーニングできるクラブチームと違い、短期間で連携を作らなければならない難しさは代表チームの宿命でもある。だが、このチームはW杯やアジア予選を共に戦ってきたメンバーも多く、戦術理解も早い。そして、基本的に技術力の高い選手が多い。そのため、お互いのプレーの特徴やクセを知っている選手同士、久しぶりに集まっても短期間で”感覚”を取り戻せるのも強みだろう。

身長が150cm台の小柄な選手も少なくないが、その身軽さは、豊富な運動量と俊敏性という武器で補う。

前線からのハイ・プレッシングでボールを奪い、少ないタッチで素早くボールを回す。ピッチの11人が常にサポートし合い、相手に間合いを詰める時間を与えない、アグレッシブなサッカーだ。

指揮官が選手に求める要求は高い。

「まずは、技術的なところがしっかりしているということ。それがないと周りが見えないこともありますし、あらゆる状況の中でいろんなアイデアを表現できる技術を持った選手を求めます。もちろんフィジカル面の速さや強さ、メンタル面のタフさも大切ですし、そういったすべての要素の中で選手を見ています。試合中の駆け引きは、自分のやりたいプレーを味方と合わせていくことでもあるし、相手との駆け引きでもあります。そういうことを理解して、局面を選べる選手を求めていきたい」

「技術」とは、もちろん、足元のテクニックだけを指しているわけではない。

「周りに目を配る」「目線を変えて相手を騙す」「体の向き一つで相手の逆をとる」これらもすべて鍛えなければならない「個の技術」だ。

それらの技術の質を高めることで、体格やパワーで劣る相手にも互角以上に戦えるということを証明したのは、他でもない、2011年以降のなでしこジャパンだった。

そして、下記の2点においては、このチームは本家(なでしこジャパン)にも劣らないレベルにまで高まっていると感じる。

スピーディなサッカーの中で正確な状況判断を重ね、難しい判断であってもそれを表現することができる「技術」。

そして、そのアイデアを合わせていく「組織力」だ。

トップ(なでしこジャパン)に入って、世界と戦うために必要なものは?

しかし、トップのなでしこジャパンに入った時に即戦力として戦えるようになるためにはまだ足りないものがあると指揮官は話す。

「なでしこジャパンの選手は、トップレベルで経験を重ねた中での駆け引きを知っています。90分間のゲームの中で、時間によってのプレーの選び方や、今は急ぐ必要がない、行く必要がない、あるいは行くべきだというポイントを知っているし、勝負所を非常によく理解している。だからこそ劣勢な試合でも耐えて、一つのセットプレーでゲーム自体に勝ってしまうという老獪さを持っています。このU-20の選手たちは非常に能力が高く、要求したことを表現できる力を持っていますが、勝負で勝ちに持っていける駆け引きはまだ足りないと感じます。一生懸命プレーするのは良いことですけれど、『ゲームに勝つ』というところを見据えてプレーを選んでいけるようになってほしい。ただ、それは経験の中で得ていくものでもありますし、実際経験がない中で求めすぎるのではなく、それをコントロールするのはこちら(指導者)でもあると思います。11月の本大会までにいろんな話をしながら、『勝負に勝つサッカー』を作っていきたいと思います」(高倉監督)

このチームは敗戦から学ぶのではなく、「勝負に勝つ」ことで強くなってきた。そのサイクルが、今後も継続されていくことに期待したい。

一方、他国に目を向けると、下の年代で大きな結果を残せなくても、18〜20歳を超えて一気に力を上げてくるチームも少なくない。

たとえばFIFAランク2位のドイツは、日本が優勝した2014年のU-17では予選敗退している。だが、トップチームは国際大会では表彰台の常連だ。10代後半ともなると、欧米特有のDNAで体格が大きくなったり、筋肉の質が変化したりと、フィジカル面の成長は理由の一つだろう。その他に、この数年間にどのような”ターニングポイント”が隠されているのだろうか。

「日本は元々足元が上手いし、早い年代から守備の約束事などの組織的な戦術を取り入れますが、他国は育成年代で守備を組織的にやるということについてはそこまで力を入れていない印象がありました。それをやり出して、組織が整備されてきて、肉体的にもぐっと上がる。そこで、日本がそれに抵抗しようとすると、壁にぶつかる。その壁に当たらないために、もっと技術的にも判断も質を上げないと足りないと思うんです」(高倉監督)

無い物ねだりをするのではなく、自分たちの武器を最大限に生かし、進化させていく。それこそが、再び日本が世界の頂点に立つために必要なことではないだろうか。

ピッチのあらゆる場所で常に数的優位を作り、局面ごとに1+1を3にも4にもしていけるチームワークと組織力。

その武器を磨き続けてきたこの年代が、再び世界の頂点に立つ日はそう遠くはなさそうだ。このチームの取材を続ける中で、その想いは日に日に強くなる。

代表に呼ばれ、刺激を受けたことで急激な成長曲線を描く選手もいる。本大会まであと6ヶ月半。

この合宿に参加した選手たちがどのような曲線を描いていくのか。楽しみでならない。

U-20日本女子代表
U-20日本女子代表

熊本県では、14日と16日に震度6を越える大きな地震があった。連日大きな被害が伝えられている。

「熊本を見舞った大地震については本当に大変な被害だと聞いています。被害者の方にはお見舞いの気持ちでいっぱいです。私たちは自分たちにできることを精一杯やって、みんなが勇気を持てるようにしたい。日本は強い国だと思うので、そういった精神的な強さを見せていけるようにしたいと思っています」(高倉監督)

様々な場所で立ち上がり、行動を起こしている人、自分なりの形で想いや物資を届けている人がいる。

私も、自分ができることを考え続け、それを実行していくことが大切だと感じる。

被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

また、被害に遭われた地域の一日も早い復旧をお祈りいたします。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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