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U-20女子ワールドカップで悲願の世界一をめざす。ヤングなでしこの現在地

松原渓スポーツジャーナリスト

【4ヶ月半後に迫ったU-20女子ワールドカップ】

U-20日本女子代表候補合宿が、新潟県十日町市で6/20〜22日の3日間の日程で行われた。

このチームの目標は、今年11月にパプアニューギニアで行われるU-20女子W杯(ワールドカップ)で優勝し、世界チャンピオンになることだ。

チームを支えるのは2013年のAFC U-16女子選手権を制し、2014年のU-17女子W杯では世界一にも輝いた新・黄金世代。一時代を築いた2011年〜2015年のなでしこジャパンに続けとばかりに、才能を秘めた原石たちが、次々に頭角を現している。15歳以下からこの年代を指導し、多くのタレントを引き上げてきた高倉麻子監督は、4月になでしこジャパンの新監督に就任。U-20代表との兼任という形で指揮に当たっている。

20歳以下の選手たちにとっても、これは嬉しいニュースに違いない。

「ずっとなでしこを目指してやってきたので、可能性はちょっとだけ広がったかな、と感じています。高倉監督には下の年代からずっと見てもらっていて、やりたいサッカーも理解しているつもりですし、上手く表現していけると思っています」

そう話し、旺盛な意欲を見せるのはMF長谷川唯だ。育成年代では飛び級で上のカテゴリーの国際大会も経験するなど、経験の厚みはチームでもピカイチ。U-20日本女子代表のチームメイトでもある籾木結花、隅田凜らと共に、なでしこリーグの首位を走るベレーザの中心選手でもある。同じように、今回の合宿に選ばれたメンバーは皆、それぞれに高い意欲を3日間の中でアピールした。

高いモチベーションで取り組む長谷川唯
高いモチベーションで取り組む長谷川唯

高倉監督はこの合宿の位置づけについてこう話す。

「戦術面の確認をしながら、どの選手が戦力として力になるかを見極めたいと思っています。新しい選手もいますし、最後までコンディションの良い選手を見極めて選びたいです。あくまでもU-20W杯での世界一を目標にしていますけれど、そこを通過点に、各選手はフル代表に入っていくことが目標ですから。それぞれの立場で、『上に行くんだ』という強い姿勢を見せてほしいなと思います」

【「思考を止めない」ためのトレーニングとは】

高倉監督と大部由美コーチが取り入れた練習メニューは、今回もバラエティに富んだ内容となった。

このチームのサッカーはボール人もよく動き、目まぐるしく状況が変化するため、選手はその瞬間、瞬間で「判断を変える」ことが求められる。相手の守り方によっては、パスの出しどころをギリギリで変えることも必要だし、受ける味方が取るべきポジションも刻々と変わる。ボールが10cm動いたら、離れた味方のポジショニングも微妙に変化しなければならない。指揮官は、その「10cm」に徹底してこだわりを見せる。

ギリギリで「判断を変える」ためには、常に先を予測しておく必要がある。そういった予測の質や動きの質を高めるために、練習メニューには様々な”特別ルール”が加えられる。たとえば、ミニゲームの中でビブスの色の種類を増やしたり、ボールの数を増やしたり。ゴールの数が増えることもある。実際のゲームではあり得ないことだが、攻守において選択肢を増やすことで、個々の予測力や想像力が試される。複雑な制限が重なることもあるが、「ルール説明は一回だけ」(高倉監督)。選手は高い集中力を維持しながら、次々に与えられるメニューを消化していった。

「頭を使っていないと身体能力の高い選手たちには勝てないので、こういう練習は日本にとってすごく大事だと思います。私たちにはパワーやスピードがない中で、頭を使った技術、ボールを使う技術も突き詰めていきたいです」(籾木結花/ベレーザ)

「90分間の中ではボールがないところでの動きがほとんどですが、そういう場面でも気を抜かないでずっと頭を回転させなければいけないと感じました」(塩越柚歩/浦和L)

プレーの最中も、高倉監督と大部コーチが各選手に細かく声をかける。たとえば、狭いスペースでテンポ良く崩した場面でも、「狭い!逆サイドは見えている?」と指示が飛ぶ。ボールを持った選手がどこを見て、どれだけの選択肢を持ってプレーできているのか。逆サイドのポジションの選手は味方の動きを予測したポジショニングを取れているか。思考まで連動できているか、といったところにまで、コーチ陣の目は及ぶ。

初日は久しぶりに集まったメンバー同士で感触を確かめ合うようなぎこちなさも見られたが、2日目には動きの質もぐっと上がり、狭いスペースではこちらの目が追いつかなくなるほど速いテンポでパスが回るシーンも出てきた。味方に対し、厳しい声で要求を伝え合う場面も見られた。元々、ポテンシャルの高い選手たちの集まりである。要求したことを理解する力は高いのだ。

さらに今回、元日本代表の宮本ともみさんがコーチとして合宿に参加した。宮本さんはボランチとして、3度のワールドカップとオリンピックに出場した経験がある。現在は解説者として活躍する傍ら、指導者として高校生年代の育成にも携わっており、選手への声のかけ方も明確で具体的だ。選手たちが宮本コーチのアドバイスに聞き入る場面も見られた。

「すごい方々からこうやって教えてもらえることは嬉しいです。経験者から学べることは本当に説得力があるし、細かいところもしっかり見られているなと思います」(塩越)

高倉監督、大部ヘッドコーチ、宮本コーチ。なでしこジャパンを作り上げてきた歴代のレジェンドたちでもあり、直に受ける言葉の重みも、選手たちに良い刺激を与えている。

【帝京長岡高との練習試合】

そして、2日目の午後には帝京長岡高校との練習試合が組まれた。新潟県内の強豪校でもある上、相手は3年生を中心とした1軍だ。U-20日本女子代表チームは昨年までは高校1年生と試合を組むことが多かったが、よりプレッシャーのかかる世界での戦いに向け、今年4月の高知合宿から、体格もスピードも数段上がる3年生との対戦に切り替えた。

日本は11月の本大会ではグループリーグで、ナイジェリア、スペイン、カナダとの対戦が決まっている。身体能力の高い男子高校生との練習試合は、身体能力に優れた強豪ナイジェリアとのシミュレーションという位置づけもある。とはいえ、さすがに相手は強く、速い。おそらくA代表の海外の強豪国レベルだろう。U-20代表チームは相手のパワーやスピードに苦戦。1対1で振り切られる場面は少なくなかった。

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試合は30分を3本戦って、0-0、0-4、0-2で合計0-6と敗戦。日本は2本目の途中でフィールドプレイヤー10人を入れ替え、2セットに分かれて45分間ずつをこなした(GK3人は30分間ずつの出場)。いずれも、ロングボールと個のスピードを生かした相手の攻撃に押し込まれる場面は多く、有効な攻撃の形は作れずに終わった。

結果だけ見れば一方的な試合にも見える敗戦だ。しかし、内容的には「大敗」という印象は受けなかった。それは、同じような状況、相手に対する戦い方のイメージが選手の間にしっかりと共有されていたからだ。

失点の場面こそ身体能力の差にやられた場面が多かったのは事実だ。ただ、これまでなら同じように相手の速いプレッシャーに対し、焦って自滅する場面もあったが、この試合では相手の激しいプレッシャーの中でもボールをキープし、日本の時間も多く作れていた。体をぶつけられても焦らず、しっかりと体を入れて対応し、素早く周囲がサポートに回る。ボールを回しながら攻撃の糸口を探るゲーム運びができたことは、個々の成長の証とも言える。

試合後、選手たちの口からは球際の寄せ方やビルドアップの質についての反省点など上がった一方で、ポジティブな言葉も少なからず聞かれた。1セット目に出場し、中央で相手のプレッシャーを上手く吸収してゲームを作ろうとトライした杉田妃和(INAC)の言葉には、自信も伺えた。

「前からガンガンくるチームで、プレッシャーは、今までやった相手の中でもトップレベルでした。ただ、スピードに慣れてきて、時間をかけずに早く(サポートの形を)作れれば自分たちでも回せるなと気づいてからは、上手く動かせるようになったと思います。以前に比べると、プレッシャーの中でも慌てなくなったのが一番の成長だと思うし、囲まれた状況でも自分でどうにか打開しようという選手が増えました。その中で良いサポートを作るという意識も高まっていると思います」

一方、低い位置で奪うことができても、効果的なカウンターやビルドアップに繋げられなかったことは、今後への修正点となるだろう。2セット目に出場し、相手の猛攻に体を張ったボランチの隅田凜(日テレ)は、攻撃面についての課題を挙げた。

「ほとんど守備しかしていないような試合だったんですが、要所では体を張れていたと思います。相手がすぐに蹴ってくる状況だったので、全体でプレスバックして、低い位置から守備を始めるという形で、あまり慣れていなかったのは難しかったです。そこから攻撃に移る時の切り換えの早さや、上がっていく攻撃の質を上げていきたい」

指揮官もプレッシャーへの対応には一定の手応えを見せつつ、今後に向けて攻撃面のイメージを膨らませる。

「相手が高校3年生ということでプレッシャーも強く、押し込まれる場面が多かったですけれど、ゴールキーパーからのビルドアップではわりと余裕を持ってプレッシャーをかいくぐりながらボールを動かせていました。ただ、受け身でばっかりもいられないので、ここから先が大事です。攻撃に移った時の最終的な精度やコンビネーションはもっとパワーアップしてほしい。対戦相手の強度も含めて、もう少し自分たちが主導権を握って試合ができる形も作りたい。うまく守備をして我慢しながら良い形で攻撃に移れるようにしたいと思います」

今回の合宿を通じて、守備面の手応えを口にした選手は多かった。しかし、すべてはチームの持ち味である攻撃につなげるため、である。攻撃で揮く選手も多いだけに、耐える時間の多い試合はストレスが溜まったことだろう。だが、これだけプレッシャーの強い相手にも攻撃の糸口を見つけることはできたという点で、得るものも大きい敗戦だったと言える。所属チームに帰って、それぞれの課題への継続的な取り組みに期待したい。

アジアから、世界へ。そして、年代別代表から、A代表(なでしこジャパン)へーー。

4ヶ月半後の本番、そしてその先の未来に向けて、選手たちは一気にギアを加速させていくはずだ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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