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W杯がやってくる ラグビー場に戻ろう! 

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

2019年に日本で開かれるラグビー・ワールドカップ(W杯)のPR活動の推進役「アンバサダー」に、W杯出場経験のある元日本代表選手6人が就任した。最年長の46歳、桜庭吉彦さんはかつてのラグビー人気を知る人々をターゲットとし、「子どもや孫を連れて、ラグビー場に戻ろう!」と訴えた。

「わたしの同世代、あるいは年上のラグビー経験者の方が、ラグビーのグラウンドに戻ってくれるような役割を果たしていきたい。なぜかというと、初めて参加したW杯(1987年)の時、小さい子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで、ラグビーを一緒に楽しんでいる雰囲気を非常に印象深く思っているからです」

ラグビーW杯は国を挙げてのビッグ・イベントである。正直、19年W杯の認知度はまだ、国内では低い。もちろん、ラグビーのオモシロさやW杯の魅力を若者や子どもたちに伝えるのが一番大事だが、桜庭さんはあえて、熟年世代にこだわった。

桜庭さんは新日鉄釜石のV7を知る、日本代表キャップ(国代表戦出場数)「43」の名ロック。現役時代には、国立競技場も満員の観客でにぎわっていた。

「国立に観衆がいっぱい入っていたことを知る年代が40歳以降だと思います。そういった潜在的なラグビー熱を持っている方を(ラグビー場に)呼び戻して、周りにいる子どもやお孫さんにラグビーの熱を広げていってくれれば、もっと盛り上がっていくのではないかと思います。ラグビー熱は完全に消えたわけじゃない。ちょっと風を送れば、もう一度(火を)噴くものもあるでしょう」

W杯アンバサダーは桜庭さんほか、大畑大介さん、元木由記雄さん、増保輝則さん、松田努さん、田沼広之さん。8月から、全国47都道府県を順次訪れ、W杯の普及・告知活動を行っていく。

桜庭さんが冗談口調で続ける。

「腰が痛いとか、ひざが痛いとか言いながら、ラグビーをやっている60歳、70歳のラガーマンもたくさんいます。何かきっかけがあれば、ラグビー場に戻ってきてくれる雰囲気がある。(W杯は)きっかけになりうる可能性が非常に大きいんです。各地を訪ね、一緒にラグビーをするだけでなく、観るだけでもいい。一緒に飲むだけでもいいと思います。酒場めぐり、名酒めぐりを通じて、W杯のよさを伝えるのです」

いいなあ、この人のキャラは。つい、好感を抱く。W杯には87年、95年、99年と3大会に出場した。一番の思い出はと聞けば、99年W杯の日本代表×ウェールズ戦、相手のチームカラーの赤で染まった敵地カーディフの盛り上がりである。

「街が真っ赤でした。もうゾクゾクして、がぜん、闘志が燃えてきましたね。日本でも、とくに釜石の場合はそういう風になりうる環境ってあると思います」

新日鉄釜石製鉄所勤務の桜庭さんは釜石シーウェイブスのディビジョンマネジャーを務める。実は被災地の釜石は19年W杯の試合会場を誘致しようとの動きがある。

「(W杯は)地域がひとつになれるいいチャンスだと思っています。いろんなハードルがあると思いますけれど、W杯は、復興に向かって、復興の先の目標に向かって、地域をひとつにしていく、きっかけになりうるイベントだと思います」

桜庭さんは、19年W杯で日本中を日本代表のチームカラーの桜色に染めたいという。奇しくも名前に「桜」が交じる。19年W杯の「桜満開」が切なる願いなのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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