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ラグビーレフリーたちの夢とは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

どの目も真剣そのものである。ラグビーの選手たちが日本代表としてワールドカップ(W杯)出場を夢見るように、レフリーたちも「世界」を目指して日々精進している。若手レフリーに目標を聞けば、短い言葉が返ってきた。「世界に出ます」と。

19、20日。東京都北区のナショナルトレーニングセンターで(NTC)で、若手のトップレフリーを対象とした『レフリー研修会』が開かれた。昨シーズンの試合のレフリングの検証から、共通課題の確認、グループ討議などが夜までつづく。もちろん、目的はレフリング技術のレベルアップである。

ラグビーに限らず、どの競技にも言えることだが、「レフリーのレベルアップなくして、競技力の向上もない」のだ。日本ラグビー協会審判委員会の岸川剛之委員長が説明する。「協会も選手もコーチもレフリーも、みんながひとつのチームになって、日本代表を強くしようという流れになっています。海外にレフリーを積極的に出して、海外の情報をできるだけ汲みあげるようにしています」と。

ただいま、トップクラスの日本協会公認のA級、A1級レフリーは20数名。全国にはざっと2000人強のレフリーがいる。レフリーを仕事としているプロ的なレフリーは、4、5人に過ぎない。ほとんどのレフリーが学校の教員など仕事を持ちながら、自分の時間を試合やトレーニングに充てている。

海外のトップレフリーは今や、プロである。W杯を見れば、日本人がレフリーを務めたのは1995年南アフリカW杯の斎藤直樹さんだけ。ラグビーがプロ化されてからは厳しくなり、99年英国ウェールズW杯で岩下眞一さんがアシスタントレフリー(タッチジャッジ)を務めたにとどまっている。

2019年W杯日本開催、20年東京オリンピック・パラリンピックを迎える日本にとって、喫緊の課題は日本人レフリーをどれだけ海外のビッグゲームに送り込めるかであろう。W杯のレフリーを務めるためには、南半球のスーパーラグビーや北半球のハイネケンカップ(欧州クラブ王者決定戦)などで実績を積むことが必須となっている。原則、ティア1(世界ランクトップ10以内)のチームの試合を吹くのはティア1の協会所属のレフリーに限られている。

「ティア1以外の国のレフリーがワールドカップで吹くのは至難の業です」と、岸川委員長は言う。「でも、日本で初、アジアで初のW杯ということを考えるとチャンスはあります。受け身で待つのではなく、チャレンジしながら、その機会を勝ちとっていくことを考えています」

そのためには、レフリーの環境改善や仕組み、体制づくりが求められる。どうやってレフリーに専念できる環境をつくっていくのか。国際ラグビーボード(IRB)や強豪国と連携した戦略も必要だろう。

なにはともあれ、まずはレフリー自身の技量アップがなければ話にならない。そのためのレフリー研修、ふだんの精進である。

岸川委員長が言う。「プレーヤーやレフリーの目標は一緒でしょう。日本代表が強くなって、ラグビーという競技が盛り上がって、ファンやプレーヤーがもっともっと増えていくことです」と。日本ラグビー界の発展のキーワードは「Together」である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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