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NEC不振の理由

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

つらいノーサイドである。トップリーグのNECが王者パナソニックに21-44で完敗した。終了直前にもトライを許し、ユニークな天然パーマの瀧澤直主将は顔をゆがめた。

「王者に王者たる試合をさせてしまったのが、ひとりのラガーマンとして一番悔しい。もっと相手が焦るような試合運びをして、ひと泡吹かせたかった。チームとしてこだわりきれないところが多かった」

これでファーストステージA組のNECは1勝5敗の勝ち点9となり、各組上位4チームで争うセカンドステージの上位グループ(8チーム)進出は絶望となった。2009年度(10位)以来の9位以下が確定したことになる。相澤輝雄総監督は「非常に残念な結果です」と漏らした。

はっきり言って、戦力的にはパナソニックのほうが上だった。でも勝負はわからない。番狂わせを演じるための必須条件が、セットプレーの安定と接点でのファイト、ディフェンスである。とくに王者を慌てさせるためには、FWが接点で優位に立つしかなかった。

キックオフで、この日のNECの弱さが出た。パナソニックボール。SOバーンズが蹴り込んだボールは大きめで、跳び上がったロック廣澤拓の頭上を超えた。これがサポートプレーヤーの右プロップの土井貴弘の右足にあたり、ポーンと浮き上がった。

このこぼれ球へのNEC選手の反応が鈍い。フランカーの村田毅が取りそこね、パナソニックの左プロップ稲垣啓太に取られてしまう。相手の連続攻撃を受ける羽目になった。ここは是が非でもNECボールとすべきシチュエーションだった。

王者を慌てさせるためには「先手必勝」が大切である。この1週間、ディフェンス強化に徹してきた成果だろう、個々のタックルは厳しかった。組織としても機能していたが、時にぽっかり穴があく。前半5分。ラックから出たボールを、相手SHの田中史朗に無人の裏エリアにキックを蹴られ、WTB北川智規に先制トライを奪われた。

WTBネマニ・ナドロの動きの鈍さもあるが、他の選手の危機管理能力が希薄なのじゃないか。スクラムは悪くなかった。ただ、接点でやれている。強い時のNECの接点の厳しさとは程遠いものだった。

相手に半歩、差しこまれているから、視野のひろいSH田中―SOベリック・バーンズに余裕を与えてしまった。パナソニックに勝つためには、この一流のハーフ団にプレッシャーをかけないと話にならない。

NECはどこで勝負するのかといったら、やはりナドロだろう。でも、ナドロにいいボールが渡らない。これも前段の問題。接点の弱さが、結果的に、ナドロの持ち味を生かせないことにつながっている。

ラグビーはやはり、FWである。FWが前に出れば、いいカタチのトライも生まれる。後半25分のNECのトライはよかった。パントをWTB釜池真道がキャッチして、カウンターを仕掛けた。タックルされて、うまくダウンボール。これをロックのファウラ愛世が拾って、前に出た。

ラック。いいリズムでボールが左へ。勢いのあるライン攻撃となり、途中から代わったCTB森田茂希が抜けて内側にパス、CTB後藤輝也がポスト下に駆けこんだ。FWが前に出ていいボールを出せば、トライはとれるのである。

この試合は、NECのホームゲーム。試合前のイベントもあって、4253人(公式記録)が千葉・柏の葉公園総合競技場に集まった。子どもたちもわんさといた。秋晴れの下、「エヌ・イー・シー!(NEC)」の子どもたちの声がずっと、聞こえていた。

勝敗はともかく、その子どもたちの胸を打つことはできたのか。瀧澤は言った。「きょうはホームゲームなので、多くの方に“ウチ寄り”の応援をしていただいた。やっぱり見ている人に感動してもらいたい。“ラグビーっていいな”“次のNECの試合も見たいな”“秩父宮にも行ってみよう”って思ってもらいたいのです」と。

ファーストステージはあと1試合。セカンドステージの下位グループに回っても、NECのプライドをかけた戦いはつづく。覇気に満ちたプレーがあれば、子どもたちはきっと、またNECの応援にいくはずだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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