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帝京大新主将の覚悟とは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

大学選手権6連覇の帝京大のケレンミのない挑戦が終わった。ラグビーの日本選手権準々決勝、24-38で試合終了。トップリーグ(TL)3位の東芝に敗れたが、約1万4千の観客の心をつかんだ。

試合後、スタンド前に整列した帝京大の選手は多くが泣き崩れていた。来季の新主将に決まった3年生のフッカー、坂手淳史は涙を懸命にこらえていた。でも泣いた。「泣かないでおこうと思っていたんですが、少し涙が出てしまいました。やっぱり勝つつもりでやってきたので、悔しい思いがありました」

泣くほど悔しかったのは、本気でTL3位に勝ちにいったからである。セットプレー、モールではやられたが、ブレイクダウンではよくファイトした。奪ったトライが4つ。バックスのスピード、決定力では、上だったかもしれない。

「フィジカルの部分では負けていなかった。トップリーグとの差は縮まっている」と坂手は振り返る。「ただ相手はジャッカルの部分ではうまかった。トップリーグの強さであったり、経験値であったり、熱さというものを思い知らされました。僕はフッカーなので、スクラム、ラインアウトはもっともっと成長しなくてはいけない。そこで互角に戦えれば、十分勝負になると思います」

今季は圧倒的な強さで大学選手権6連覇を果たし、日本選手権でも1回戦でTL10位のNECを倒した。岩出雅之監督から新主将の使命を受けたのがNEC戦の前日だった。

その日のミーティングでは、チームメイトにこう、決意表明したという。「今ある良い文化を継承しつつ、もっともっと成長できるような1年にしよう。僕が先頭に立って引っ張っていくから、みんなもついてきてほしい。全員が自覚をもって努力していけば、そういうチームはできる」と。

来季の目標は、今季のチームを「追い付き、追い越す」ことである。坂手が説明する。言語明瞭。コトバに積み重ねてきた心身の鍛練への確信がにじむ。

「僕は3人のキャプテンを見てきている。尊敬する部分が多くて、“追い付き、追い越せ”でやっていきたい。メンタル、行動、そしてプレーをしっかり成長させていきたい」

具体的に言えば、『大学選手権7連覇』と『日本選手権優勝』ということか。「まだ、(チーム目標を)ひとりでは決められないけれど」と前置きしながら、こう語気を強めた。

「7連覇と日本選手権でも日本一になりたい。目標が高ければ高いほど、成長できると思っていますし、もっともっと強くなっていくと思うんです」

チームスタイルは、FW、バックス一体となって攻めて守るダイナミックなラグビー。

「FWに固執したり、バックスに固執したりすることはないと思います。自分たちは、FW、バックスにスキルも伸びシロもある。FWはしっかり前に出る。バックスもそれをつないでトライをする。そういった15人一体となったラグビーをしたい」

礼儀正しい21歳。記者に囲まれても、目の前できちんと両手を組み、背筋を伸ばしている。目をそらさない。自身の夢は?と聞けば、「日本代表になること」と即答した。

「世界でもラグビーがしてみたい。スーパーラグビーにもイケるような選手になりたい。スキル、体力を上げて、そういうところでやれるプレーヤーになりたい」

夢は、2019年ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会にもつながっている。

「そこ(19年W杯)で日本代表の中心選手としてやりたいなと思います」

京都出身。京都成章高出身の医療技術学部3年生。179センチ、103キロ。2013年から日本代表の合宿にも参加していた逸材である。個人としても、チームとしても、もっともっと成長していきたい、と繰り返す。

献身と統率。学生王者の新主将はこの日の敗戦後、4年生に「おつかれさまでした」と頭を下げ、3年生以下にはこう、声をかけた。

「来年、やるぞ!」

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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