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ラグビーと笑いのコラボ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
よしもと新喜劇に出演したサクラセブンズ(6日・ルミネtheよしもと)

これもラグビー人気の成せる業か。ラグビー元日本代表の大西将太郎さんが吉本興業に所属することになり、あの「よしもと新喜劇」にラグビー選手が特別出演した。グラウンドを離れても、ラガーたちは「元気」を人々に届けたのである。

6日夜、東京・新宿のビルの7階、「ルミネtheよしもと」にいた人は幸せものである。ざっと450人。『よしもとラグビー新喜劇』と銘打った舞台では、ビールの「ラガー」を注文したうどん屋に間違ってラガー(ラグビー選手)が届けられる。それが、7人制ラグビーの女子日本代表『サクラセブンズ』の4選手だった。

このあと、スーパーラグビーに参加している日本の『サンウルブズ』の3選手と日本代表の知念雄(東芝)も登場した。ぎくしゃくしながらも、おもろい芸人たちにうまく支えられて、ラグビー選手たちも客席を沸かせた。

やかんをボール代わりにパスするシーンや舞台を走り回るシーンも。舞台の最後のシーンでは、みんなで声を合わせ、「ワン・フォア・オール!、オール・フォア・ワン!」とラグビー精神をアピールした。

そのあと、「ラグビー・トークコーナー」というイベントがあった。まずは挨拶。先頭がサクラセブンズの冨田真紀子(世田谷レディース)。「サクラセブンズの冨田真紀子です」と言えば、客席から「マキコ~」と声があがった。だれかと思えば、かつてラガーマンだった冨田パパだった。

冨田がつづける。

「自分の得意なプレーは相手を仰向けに倒すタックルです。ニックネームは“うまきこ”と呼ばれています。名前がマキコで馬のように走るからです」。ちなみに得意技が「ド―ベルマン・タックル」である。ド―ベルマンのように相手を追いかけまわして、仰向けに倒す猛タックルをいう。

続けて桑井亜乃(アルカス熊谷)。

「得意なプレーは大外勝負でハンドオフを使って突破することです。みんなから、名前の“アノ”と呼ばれています」

横尾千里(東京フェニックス)。

「ポジションはフッカーをやっているんですけど、ハーフ以外は全部やっています。得意なプレーは冨田真紀子と一緒でタックルです。ニックネームは“チーちゃん”です」

サクラセブンズの最後は大黒田裕芽(アルカス熊谷)。

「得意なプレーはキックとパスです。ふだんは“ユメ”って呼ばれています」

男子のサンウルブズのメンバーの自己紹介に移る。まずは村田毅(NEC)。

「フォーワードのフランカーというポジションをやっています…」

このとき、平野翔平(パナソニック)の胸の名前ゼッケンがぽろりと落ちた。汗でジャージが湿ったからだった。進行役のブラックマヨネーズの小杉竜一が突っ込む。

「チームメイトの自己紹介のときに何してんの。なんで名札がびりびりになってんの。そういう子、おったわ、幼稚園のとき」

観客席は爆笑の渦だった。平野がやむなく、名前ゼッケンを右太ももの上にぺたりとはりつける。村田がつづけた。

「泥臭いプレーが大好きです。ニックネームは“ロケッツ”(NECグリーンロケッツのロケッツ)と呼ばれています」

次はSH井上大介(クボタ)。

「得意なプレーは、パスということにしておきます。ニックネームはダイちゃんです」

何かといじられる平野は顔を真っ赤にしながら、「ポジションはプロップです。3番です」と言った。

「ニックネームは“ケパブ”です。鉄棒の懸垂のときに1回もできずにぶら下がり続けていたので…」

これまた爆笑。お客さんは手をたたいて、笑い転げた。最後が、プロップ知念だった。

「ぼくは1番と3番をやっています。チームの外国人からは“ビースト(獣)”と呼ばれています」

ここで芸人のスリムクラブの真栄田賢が言葉をはさみ、笑いを誘った。

「沖縄初の日本代表です。拍手~。沖縄らしいプレーをします。きょうも、沖縄タイムで遅刻してきました」

このあと、「サクラセブンズとは」から「サンウルブズとは」「これからの日本代表」まで。ワイワイガヤガヤ、楽しいトークがつづいた。驚いたのは、怪力の知念のからだだった。太ももを測ったら、「75センチ」もあった。ベンチプレスが190キロ。

質問コーナーでは、9つの男の子から、「どうやったら筋肉がつくんですか?」という質問がでた。知念がやさしく答えた。

「まずはお母さんが作ったごはんを全部、食べることです。好き嫌いしないことです」

ご承知、サクラセブンズはリオ五輪に出場する。最後、冨田がこう、あいさつした。

「初めてのオリンピックです。あと60日しかなくて、2カ月ぐらいの準備しかできないんですけど、いま女子ラグビーに携わっている人だけが金メダルを獲れると信じています。世間(の下馬評)を覆すような結果を必ず、やりとげたいと思っていますので、応援のほど、よろしく、お願いします」

サンウルブズの村田もつづいた。

「いま、サンウルブズは必死にもがいています。がんばっている姿を見てもらって、いろんな人に勇気をあたえたいと思っているので、どうぞ応援してください」

さぞラグビーの好感度はアップしただろう。笑いの中に、ラグビーならではの面白さがトークに散りばめられていた。ラグビーの持つ力、ラグビー選手たちのグラウンドとは違う人間的な魅力が伝わってくるイベントだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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