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まじめさは天下一品のサクラセブンズ。中村主将の覚悟。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
リーダーシップにあふれる中村知春主将(3月の強化合宿)(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

いつも誠実である。羽田国際空港の出発ゲート。乗り換えの際、約束の時間ぎりぎりに待ち合わせの場所に駆けてきた。搭乗客の合間を縫って、ざっと30メートルの猛ダッシュ。息を切らせて、ラグビー7人制女子日本代表『サクラセブンズ』の中村知春主将は口を開いた。

「すいません。お待たせしました。ほんと申し訳ないです」

ひたいには汗の粒が浮かぶ。走ってくる必要なんかないのに、とこちらが恐縮すると、律儀な主将はこう漏らした。

「いえいえ、わたし、年下ですから」

リーダーシップにあふれる中村主将とは、こういう人なのである。サクラセブンズ、いや正確にいえば、リオ五輪出場を目指すサクラセブンズ候補は、沖縄合宿を終え、オーストラリア遠征に出発した。その乗り換え時間を借りてのメディアの囲みだった。

暑くて、雨模様の沖縄合宿だった。ポジティブな主将は「芝はスリッピーで。すごくリオの気候に近い環境のなかでやらせてもらいました。リオ対策というか、そういう点でもすごくいい方向にいっているんじゃないかなと思います」という。

チームの強みは「豊富な運動量」である。「ガット」と呼ばれる縦のつなぎを加える新戦術にもチャレンジしている。これは相手より走れるからこその戦い方だろう。

「ジャパンじゃないとできないんじゃないかと思います」と中村主将は言葉に自信をのぞかせる。

「やっぱり、世界で勝っていくためには、今まで見たことのないようなラグビーをしないといけないと思っています。細かいところを丁寧にやってきた(沖縄)合宿だったので、アタックもディフェンスも今までよりレベルアップできているんじゃないでしょうか。前半は失点をすごく抑えて、後半のフィットネス勝負に持ち込んで、しっかり得点を重ねていきたい。勝つイメージは、しっかり沁みわたっているんじゃないかと思っています」

つまりは、前半のディフェンスがカギを握ることになる。着実にチームは強くなってきている。「なぜ」と問えば、中村主将は笑いながら、右手をひらひら泳がせた。

「そんな強くはなってないと思います。まだ結果が出てないので。強くなったと思ったり、振り返ったりしたら、わたしたちのチームは終わってしまいます」

そう、立ち止まる余裕はまだ、ない。世界トップクラスの強豪と戦ったセブンズのワールドシリーズでは、健闘、善戦しながらも、たくさん負けた。でも、「敗戦を財産にしています」と主将は言い切るのである。

「負けから学んでいることって、すごく多いと思っています。昔は、ラストワンプレーでも、(終了を告げる)ホーンが鳴ったら、勝手に自分たちで攻め急いじゃって、ミスで終わってしまうシーンとかよくあったんです。でも今は、どんな状況でも、ラストワンプレーなら、しっかり落ち着いて、20フェーズ(局面)でも、30フェーズでも重ねて、トライを狙っていくことができます。負けから、いろんな引き出しが増えました」

敗北の屈辱と後悔を、どう先の栄光へと結ぶのか。そこがチームの行く先の明暗を分けるのである。まじめですね、と言えば、中村主将は笑いながら答えた。

「はい。まじめさでいったら、わたしたちは“天下一品”だと思います」

チームワークのよさもサクラセブンズの強みである。 法政大学バスケットボール部出身。大学を卒業してラグビーを始めた28歳は、「ハードワークや痛さがチームの絆を強くする」と胸を張る。

「みんな、死ぬような思いをしてやってきたら、いつのまにか、絆って強くなったのかなと思います」

好きな言葉は?と聞けば、「私の言葉じゃないですけど」と前置きし、こう言った。

「“死ぬこと以外はかすり傷”です。まさに私たちはそうだなって。生きているから、ま、いいかって。そんな感じなんです」

鉄火のラグビー人生はまだまだ、つづく。豪州遠征では、世界トップクラスの豪州代表との実戦も予定されている。

「やんなきゃいけないことはいっぱいあるんです。振り返る時間はない。あれもやんなきゃ、これもやんなきゃって。完ぺきなプレーはできないと思いますけど、細かいところを含めて、いかに完ぺきな試合に近づいていくのか。そこだと思います」

リオ五輪へ、中村主将の挑戦は止まらない。走れ、走れ、走れ。キャプテンを先頭とし、サクラセブンズは「金メダル」に向けて走るのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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