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五輪の熱狂をTLでも。セブンズ主将の決意。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
TLプレスカンファレンスで決意を語るコカ・コーラの桑水流裕策(撮影・松瀬学)

リオデジャネイロ五輪の日本選手団の解団式が終わった。同五輪の7人制ラグビー(セブンズ)で、日本のキャプテンとして、ベスト4進出の快進撃を支えた桑水流裕策(コカ・コーラ)は休む間もなく、15人制ラグビーのトップリーグ(TL)に挑む。「コンディションはいいです」。本音か強がりか。ラグビーの人気アップの使命感が30歳主将の疲れたからだを後押しする。

日本ラグビー界は、昨年の15人制ラグビーのワールドカップ(W杯)の日本×南アフリカ戦の金星に次ぎ、リオ五輪の日本×ニュージーランド戦のアップセットで盛り上がっている。“ジャイアント・キリング”を再び、起こした。ラグビー発祥の地、イギリスのメディアはこう、伝えた。

「JAPAN ARE RUGBY GODS!(日本はラグビーの神)」

日本ラグビーへの責任感を問われ、桑水流は緊張気味に話した。

「オリンピックが始まる前に、15人制が起こしてくれたラグビーブームをさらに加速させようとチームで話をしていたんです。ベスト4という結果で、達成できたのかなという思いはあります。そのセブンズの代表だったり、ワールドカップの代表だったり、スーパーラグビーのサンウルブズの選手だったりが、トップリーグで活躍することが、とても大事なことだと思います。それが2019年(ワールドカップ日本大会)、2020年(東京五輪)につながることになります」

たしかにリオ五輪の日本の目標はメダルだった。あと1つ勝利が足りなかった。だが、「全部、出し切った」との思いはつよい。練習は裏切らない。ひどくつぶれた耳がこれまでの練習の過酷さを物語る。

オリンピックで何が変わったかと聞けば、桑水流はちょっと考え、「自信がつきました」と漏らした。言葉に満足感がただよう。

「やっぱり、やってきたことは裏切らないんだって。いい準備をしたら、いい結果が返ってくる。努力や準備を結果で証明できたので、そう、自信がついたのです」

それにしても、日本の代表選手は過酷な人生を送っている。合宿、遠征つづきの代表生活が終われば、こんどは所属チームのため、トップリーグでからだを張る。でも、愚痴ひとつこぼすことはない。

「これまで家族に迷惑をかけてきた。すぐトップリーグが始まるので、長い家族旅行はできないけれど、これからは家族との時間を大切に過ごしたいと思います」

じつは7人制と15人制は似て非なるものである。サッカーとフットサル、シンクロのデュエットとチームみたいなものか。15人制の練習に合流してまだ数日。

7人制と15人制の違いは。

「15人制は重いですね。私がFWというポジションで、からだをあてないといけない部分が多いので…。やはり重さが違います。そこはいま、慣らしているところです」

体重は現在、96キロ。食事をしっかり摂って、筋力トレーニングをして、プラス4キロの100キロにしたいという。ポジションが、FWでもとくにコンタクトプレーが多い、フランカーかロックを務める。

「試合を控えているので、なるべく早く15人制に合わせたい。サインプレーだったり、戦術、戦略だったりは、頭にたたきこんだんですけど、からだの部分では体重同様、筋量もあげないといけないと感じています。タックルだったり、ボールを持ってキャリーする部分だったり、接点だったりは、まだセブンズ仕様となっているので、これから直さないといけないと思います」

もちろん、7人制でも15人制でも共通する部分もある。

「ただボールへの反応だったり、ポジショニングをはやくするところだったりというのは、15人制でも十分、通用すると思います。そこを継続して、磨きをかけていきたい」

同じくリオ五輪代表だった副島亀里ララボウ・ラティアナラが電撃的にコカ・コーラ入りした。「私自身も正直、驚いた」と言いながら、活躍を期待する。

「すごいポテンシャルを持っている選手なので、伸び伸びプレーしてほしい」

コカ・コーラの今季の目標は「ベスト8入り」である。開幕戦は27日、キャノンと戦う。会場が、4月の熊本地震の被災地だった「うまかな・よかなスタジアム」である。特別な感情が加わる。

「熊本は震災で被害を受けた地域です。コカ・コーラの(営業)エリア内でもあります。われわれも試合に勝って、みなさんに元気や勇気を与えられるようなゲームができればいいなと思います」

上昇気流に乗る日本ラグビー界。いい準備ができるかどうかが、勝敗をわける。ならば、すべてのチームがいい準備を重ね、見応えある試合を繰り広げていかねばなるまい。

リオ五輪の熱気をトップリーグへ。五輪戦士の責任感がさらにトップリーグを面白くする。

さあ、熱狂を再び。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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