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「人のマネジメント」はいま国境を超えてグローバルに議論されている!人事の世界大会にいってみないか?

三城雄児治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者
チリのサンティアゴに集合 アジアパシフィックHRM協会役員 後列右から3番目が私

本日は、アジアパシフィック人材マネジメント協会(APFHRM, Asia Pacific Federation of HRM)役員として、チリのサティアゴで開催された世界大会に参加した際のレポートをご報告します。

いま世界の人材マネジメントは国境を越えた連携を深めている

皆さんは「人事」や「人材開発」というとどのようなイメージを持つでしょうか?

「年功序列」「人事評価」「昇給」「賞与」「研修」「新卒採用」などなど

多くは、企業がおこなう「人」のマネジメントに関わる活動全般をあらわすことが多い「人事」や「人材開発」の世界が、最近どんどんと広がってきています。

少し前の話になるのですが、昨年10月には世界中の人材マネジメントの専門家がチリのサンティアゴに集まって、お互いの情報交換をしたり、交流を深めるイベントが開催されました。これは、世界人材マネジメント連盟(WFPMA : World Federation of People Management Association)が主催するHRをテーマにした世界大会(World Congress)です。

日本ではまだあまり知られていない「人事」に関する世界大会。今回の記事では、世界の人材マネジメントでは何が議論されているのかを、昨年10月のチリでの様子をレポートしながら報告したいと思います。

==世界中から27カ国が参加したHRの世界大会==

今回の世界人材マネジメント協会のWorld Congressは、10月15日から10月17日までの3日間の日程で開催されました。参加国は、チリ、ブラジル、アルゼンチンなどの南米の国々の方々がやはり多く参加していましたが、カナダ、パナマ、モロッコ、南アフリカ、ドイツ、イギリス、フランス、トルコなどからも参加者がいました。そして、アジアパシフィック地域からは、フィリピン、バングラデシュ、インド、ベトナム、フィジー、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、香港、日本が参加しており、全部で27カ国の参加があったと聞いています。

==世界中の人材マネジメントの専門家が交流してお互いの知見を高める==

第1日目は、参加者すべてが参画したLEGOのワークショップを実施しました。LEGO SERIOUS PLAYと呼ばれるチームビルディングの研修を開発したROBERT RASMUSSEN氏によるファシリテートのもとで、1000人規模の参加者がチームに分かれてLEGOを用いた研修を約3時間受講しました。その後、現地の民族舞踊を披露しながらの盛大なオープニングセレモニーが開催されWorld Congressは盛り上がりをみせました。

==大規模なHRに関する世界的なサーベイ結果も発表された!==

第2日目は、Boston Consultingに委託調査した世界中の人材マネジメントの最新動向をさぐるGlobal Reportの結果が発表されました。この調査は、2年に1度実施されるもので、参加国は100カ国以上、回答者数は3500人を超える大規模な調査です。調査結果の概要は誌面の都合上、一部しか記述できませんが、興味がある方は私に個人的にアクセスしてください。詳しい内容を個別にお伝えします。

調査において、特に、注目されたのは世界の人事課題のランキングです。各国の調査結果として、世界の人事課題の上位にくるものは、1位がリーダーシップ、2位がタレントマネジメント、3位が行動と文化という結果でした。特に3位の行動と文化というのは、今回はじめてランキングに登場した項目であり、Googleなどの先進的な企業が会社の組織文化を独自につくりあげていることなどの影響を各国人事が受けているものと解説されていました。また、この行動と文化という項目に関しては、人事の関心は高いものの、まだ時間をさけていないというデータも発表されました。

本調査結果を踏まえたディスカッションで、私がもっとも印象的だったのは、人事のKPI(Key Performance Indicator:重要指標)をしっかりと定めて、そこに集中投資していく人事がある会社は業績などの面で高い成果をだしているという点でした。これらのデータが世界の経営者に伝わることで、人事がKPIをしっかり定めて、戦略的に時間と資源を投資していくということが求められるようになるだろうと感じてきました。

==昨年のHR Awardの受賞者はLynda Gratton氏==

次に、上記レポートの発表後は、WFPMAのAwardの発表がありました。今回のAWARD受賞者として、Lynda Gratton氏のインタビュービデオが公開されました.Lynda Grattonさんは『ワークシフト』の著者であり、レジリエンスの概念を提唱するなど、人材マネジメントの世界に影響力をあたえた1人としてAwardを受け取っていました。

==基調講演のメインテーマは「健康経営」==

今回のWorld Congressで基調講演的な立場で登壇したのが、スタンフォードビジネススクールのJeffrey Pfeffer教授でした。同士は「Putting People First」というタイトルで講演し、世の中の経営者は、もっと「人」に注目して、「心身の健康と幸福」といった恩恵を従業員に提供すべきであり、従業員にとって良い職場であるか否かが、企業や社会のさるサステイナビリティに最も影響するという主張をされていました。今回の各国参加者と話をしていても、本講演が最も面白かったという声が多く聞かれましたが、人事の世界に健康経営が大事だという考えを広めていく、大きなきっかけになったと思われます。

==人事は「人」に回帰せよ!==

その他、数多くの学者や実務家の講演が第3日目まで続きましたが、全体を通して、「人」への回帰というのがメインテーマとして、本カンファレンスには脈々とながれており、人事はもっと「人」に注目することをしなければならない、それが本来の仕事だったはずなのに、最近の合理化やその他の取り組みの中で「人」をないがしろにしていないかというのが、主催者の主張としてあったように思います。

==チリ落盤事故の生還者、映画主人公のモデルも講演==

最終日の午後の講演は、人事の専門家ではなく、変わり種の講演者が続きました。一人目は、チリの落盤事故からの生還者であるMario Sepulveda氏が、炭坑労働者の出で立ちで講演しました。Mario氏は自身の人生の話をして、事故後に教育や講演の活動に意義を見いだしているという人生ストーリーを語りましたが、会場ははじめてのスタンディングオベーションとなるぐらい盛り上がりました。2人目は、ウィルスミスが主演した『幸せのちから』という映画の主人公のモデルとなったChris Gardner氏が登壇。ホームレスから億万長者になった同氏の半生を描いた映画のシーンをみせながら、人生において、希望を見失わないこと、懸命に努力すること、意欲を持つことなどが語られた。

==やはり「人」との交流こそが本イベントの醍醐味==

全3日間の日程で講演中心のイベントであったが、私にとって何よりの収穫は、世界中の人事のプロフェッショナルとの親交をふかめられたことである。ヨーロッパ人材マネジメント協会の代表や、南アフリカ人材マネジメント協会の代表など、世界中で人事に関心を持って活動している方々との交流は、日本の人事を見直す上でも、大変な意義のあることです。

==2年に1度のイベント。来年、イスタンブールでお会いしましょう!==

本Congressは、来年にトルコのイスタンブールで開催予定です。今回の日本人参加者は私と私のアシスタント2名の合計3名だけでしたが、次回のトルコには、皆さまと一緒に訪問したいと願っています。読者のみなさん、どうぞ、そのときは一緒にトルコにいきましょう。(終)

治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者

早稲田大学政治経済学部卒業。銀行員、ベンチャー企業、コンサルファームを経て、JIN-G Groupを創業。グループ3社の経営をしながら、ビジネス・ブレークスルー大学准教授、タイ古式ヨガマッサージセラピストの活動に取組む。また、会社員としてコンサルファームのディレクターとしても活動し、新しい時代の働き方を自ら実践し、お客さまや学生に向け、組織変容や自己変容の支援をしている。組織/個人に対して、治療家として、東洋伝統医療の技能を活用。著書に「21世紀を勝ち抜く決め手 グローバル人材マネジメント」(日経BP社)「リーダーに強さはいらないーフォロワーを育て最高のチームをつくる」(あさ出版)がある。

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