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それ、盗撮ですから止めて下さい!?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
(写真:アフロ)

先日、三ノ宮(神戸)から姫路に向かうJR東海道本線に乗車し、窓際に座っていると、西明石に到着しようとする時に通路を挟んで向かいの席から、盛んにスマホカメラのシャッターを切る音がしました。見ると、若い女性、席を立って。明らかにカメラのレンズを私に向けているので、「撮影は止めて下さい。盗撮ですよ!」と声をかけると、怪訝そうな顔で、席に座りました。窓の外を見ると、夕陽に照らされた明石海峡大橋が浮かび上がっていました…

この情景、私と女性が入れ替わっていれば、もっと問題が大きくなったかも知れません。ちなみは、私は電車内でスマホの画面は見る事は合あっても、カメラの操作は絶対に行いませんし、カメラのレンズも乗客の方向を向かないように細心の注意を払っています。

この盗撮が大きな問題になっています。盗撮自体は携帯電話にカメラ機能が付属する以前から、少なからずありました。しかし常に持ち歩くカメラ機能付携帯電話が普及し出してから急激に増加したのです。最初から盗撮目的で携帯電話を操作する事は論外ですが、意識することなく、盗撮を行ってしまう事もあるのです。

盗撮という言葉は、昨今の犯罪傾向から、男性が女性のスカートの中や隠れて下着姿等を撮影することを考えがちです。しかし、肖像権や著作権等のそれ自体の権利を犯す撮影、さらに被写体やその周りの人を不快にさせる迷惑行為を伴う撮影も盗撮に分類されるのです。道を歩く人を撮影する事は盗撮になる可能性があります。たとえば、電車内でかわいい子どもが寝ているからといって、勝手に撮影してはいけません。保護者の同意がなければ、盗撮で訴えられる可能性が高いのです。実際、女性の後ろ姿をスマートフォン(スマホ)のカメラで撮影して逮捕されたケースも存在するのです。

基本的に被写体である人や撮影する人の周りの人々が極めて不快、あるいは迷惑に感じたならば、広い意味での盗撮と捉えられてしまいます。カメラという特別な装置を持ち歩いた数十年前では、写真を撮影するという意識が高く、かつフィルムという限られた枚数しか取れない事もあって、不注意な盗撮はほとんどありませんでした。また撮影される事の危険性も少なかったのです。つまり撮影されたからといって、それが不正に使用される事もほとんどありませんでした。現在では撮られた写真が不正に利用される可能性も多々あり、写真だけがまったく意図しない目的や意味を込めて使われ、不愉快な思いをすることが有り得るのです。さらに撮影する事の意識の低さです。カメラとしてではなく、携帯電話やスマホとして常に持ち歩き、深く意識することなく、付属するカメラのシャッターを押してしまう場合があります。特にスマホでは、カメラのシャッターがなく、画面のタップ(画面のボタンを押す)で写真が撮れてしまいます。

ネットでの誹謗中傷や個人や団体への脅迫が問題となって、その犯人の逮捕が毎日のように報道されています。その原因の一つは容易に、しかも瞬時に、スマホ等でネットに書き込む事が出来、さらに瞬時に世界中に伝わってしまうことです。投稿してしまってからは取り消す事が出来ないのです。ネット以前でのそれらでは、電話であっても相手の電話番号を調べるのに手間がかかり、手紙を出すにも、紙に書き綴り、しかも郵便で送るという大きな手間がかかってしまいます。その間に冷静さを取り戻し、思い止まる事も出来たのです。写真も同じです。現在では、カメラを操作して撮る手間がなくなり、思い立ったとき、すぐに撮ることができるようになりました。写真を撮ろうとするときに注意するだけでなく、スマホを操作する際に、無意識にでも写真を撮ってしまうことに注意する必要があるのです。

本記事は、ZAQ連載の拙稿:森井教授のインターネットセキュリティ講座「第54回 勝手に写真を撮ったら犯罪?」を加筆、修正したものである。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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