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支援物資のラストワンマイル【熊本地震】

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
熊本地震(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

被災地に集まった過剰な支援物資が、現場の混乱を招く「第二の災害」になる――。大地震に襲われた熊本県内の被災地へ「救援物資」を送ろうとする動きが盛んになる中、ネット上では「たとえ善意だとしても、『ありがた迷惑』になってしまう可能性がある」との指摘が出ている。

出典:「千羽鶴・古着・生鮮食品は要りません」 被災地が困る「ありがた迷惑」な物とは【JCASTニュース】

熊本、そして大分を中心に九州地方全域にわたる今回の地震に関する被害に対してお見舞い申し上げます。余震が続き、不安な日々がまだ続いていますが、まずは被災されている人々への支援については当初の混乱が少しづつ収束し、落ち着きつつあります。しかしながら支援する方々と支援を必要とする人々の間には幾分のミスマッチが生じているようです。上記の記事のように支援物資の種類については、近年の震災被害でも言われていることですが、配送のミスマッチが指摘されています。

熊本地震の被災地から、食料や水など支援物資の不足を訴える声が相次いでいる。全国各地から支援物資は向かっているが、受ける側の自治体が分配機能を十分果たせていない。大動脈である九州自動車道が寸断され、陸路で支援物資が集まるほど渋滞を悪化させる悪循環にも陥っている。地震発生から5日目の18日になり、やっと物流に民間業者を入れ、空路輸送も始まった。東日本大震災の教訓は生かされたのか。新たな取り組みはうまく機能するのか-。

出典:避難所届かぬ物資なぜ 行政混乱、人手も不足 熊本地震【西日本新聞】

支援物資が被災者に届かないのです。正確には被災者が頼りにしている避難所、もしくは支援物資を配給する集会所等に、必要とする支援物資が届かないのです。被災地全体に対しては、必要とする支援物資が十分でないとはいえ、ほぼ届いているようです。過去の震災の教訓があり、何が必要となるかという情報が行きわたっているからです。従来のメディアだけでなく、ネット上の各種メディアや個人が主体となったSNS等で十分な情報が行きわたり、それを受け入れる体制がかなり整ってきたからです。しかし、その支援物資が県庁等の拠点1カ所に集まっているだけで、必ずしも必要な場所に届いていません。それは配送手段の問題ではなく、例えばすべての避難所がすべて同じ支援物資を欲しているかというとそうではないからです。避難所毎に必要な物、不足している物資が異なるのです。現在、盛んにSNS等を使って、各避難所等が個別に不足物資を主張していますが、それも個人が発信している情報であり、重複等もあって、必ずしも正確な情報ではありません。

熊本・大分地域における被害状況や不足物資等に関するツイッターの内容を分析することができるDISAANA(対災害SNS情報分析システム)を無料公開しています。なお、DISAANAが処理するツイートは、日本語ツイート全体の10%程度です。また、検索結果は機械的な処理によって抽出されたものであり、その内容の正確性や真実性を保証しているものではありません。

出典:DISAANA(ディサーナ) - 対災害SNS情報分析システム【国立研究開発法人情報通信研究機構】

上記のような個人の「声」をまとめるシステムも存在しますが、そこに注意書きされているように必ずしも信ぴょう性を保証するものではありません。

現在では通信手段は早期に回復することが可能であり、衛星通信も比較的容易に利用することが可能です。これらの通信基盤の上でICT技術を使って、信頼性の高い情報共有を行うことは難しいことではありません。しかも震災時の配送手段を考慮したシミュレーション、およびそれを利用した実演習も容易に行うことが可能です。現実に全国展開しているコンビニや大型小売店では物流を介した個々の商品の綿密な配送、陳列(ディスプレイ)が行われています。災害対策としてのICTを利用した、支援元あるいは集積所と避難所等の間での、支援物資の信頼性の高いマッチングが望まれます。

県庁等の支援物資集積所には大量の支援物資が届いており、それをいかに必要な場所に効率よく届けるかという、いわば支援物資のラストワンマイル問題を解決することが重要です。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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