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なぜ芸能人の個人情報が洩れるのか?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
(写真:アフロ)

日経新聞社員の男が、タレントの押切もえさんや元NMB48の渡辺美優紀さんのメールなどに不正ログインしたとして逮捕された。携帯電話会社の契約者向けサイトで、押切もえさんの電話番号と推測したパスワードで不正ログインしていたようだ。

出典:押切もえさんのメール盗み見た日経社員の手口【読売新聞】

この記事でも書かれているように、芸能人をはじめ、有名人の個人情報が洩れる第一の原因はスマホ(スマートフォン)や携帯電話の不正使用です。スマホや携帯電話には住所、氏名、生年月日等に関する個人情報だけでなく、プライバシーに関わる家族や友人に関わる情報、それに日々撮った写真や映像が含まれています。スマホや携帯電話が奪われることは、その人の重要な秘密やプライバシーが侵されることになるのです。そのスマホや携帯電話で扱われる情報ですが、最近では利用者が意識することなく、外部サーバやクラウドに保存されることが常となっています。つまりスマホや携帯電話の実物を奪い取る必要はなく、その情報が保存されている外部サーバやクラウドにアクセスさえ出来ればメールや写真等を覗くことが出来るのです。

当然ですが誰でもそれにアクセスできるわけではありません。IDとパスワードを知らなければアクセスできないのです。そのIDが漏えいし、パスワードが簡単に推測できてしまえばアクセスできるわけです。IDは識別子であって、名前やニックネーム、あるいは電話番号です。それらの情報はインターネットで拡散していたり、場合によっては有料で取引されていたりします。パスワードについては本人だけが知る秘密として誰にも知られないようすべきなのですが、意外と推測できる場合も多いのです。パスワードは常に使うことから、本人にとって覚えやすいフレーズを使いがちです。自分だけが知っているフレーズだと思っていても芸能人であれば、その個人に関わる多くの情報が公開されています。公開という意識がなくともインターネットで漏れていたりするものです。

実は芸能人の個人情報やプライバシーの漏洩については、パスワードが簡単に類推できることだけが原因ではありません。最近ではLINEの乗っ取りが利用されています。芸能人同士もLINEのグループを作っていて、そのいくつかに加わっていることが多いようです・一人がLINEを乗っ取られて、本人に成り済まされると、所属しているグループのメッセージを覗くことが出来、さらにそのグループ内の他の人を騙して、更なるアカウントの乗っ取りを企てたりしています。芸能人同士の信頼関係を利用して詐欺を働くことも懸念されています。

芸能人の名をかたって、出会い系サイトに誘い込み、高額な利用料を請求する事件が話題となっていましたが、本人のスマホでのサービスやLINEのアカウントを乗っ取ることによって、さらに大きな詐欺を企てることも可能になってしまいます。芸能人本人が被害を受けるだけでなく、一般の人に被害者を広めてしまうことも危惧されます。芸能人の方は一般の人以上にスマホのサービスやLINEのアカウントの管理には十分な注意が必要なのです。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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