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センバツ出場校、選出の経緯と傾向

森本栄浩毎日放送アナウンサー

センバツ出場校が決まった。難航が予想された地区は実力重視を徹底し、波乱がまったくなかったと言える。

選考会は毎日新聞大阪本社で午前10時半から始まった
選考会は毎日新聞大阪本社で午前10時半から始まった

焦点は3地区。まず、関東・東京の最終枠は横浜(神奈川)に決まった。関東の8強で敗退した同校は、大会前に実力で双璧と見られた佐野日大(栃木)に敗れたが、初回に失った5点を小刻みに挽回して接戦に持ち込んだことが評価され、関東5番目の序列となった。比較対象の二松学舎大付(東京2位)も遜色ない実績、戦力だが、時系列で小山台が先に選ばれていたため東京3校は偏りすぎなこと(ルール上は問題ない)。首都圏から1校も選出されていないことが影響したとみられる。近畿の6校目は福知山成美(京都)。京都から2年連続の2校選出となる。三田松聖(兵庫)とは確率五分五分と予想していたが、試合内容に大差があるとされた。4強の報徳学園(兵庫)よりも8強で近畿王者の龍谷大平安(京都)と僅差の激戦を演じた智弁学園(奈良)を先に選出したことで、「実力重視」という理由を補完した。中国・四国の最終枠は明徳義塾(高知)に。もともと明徳の実力は高く評価されていた上、比較対象が中国準決勝完敗の倉敷商(岡山)になったことでさらに有利に働いた。これら3校はいずれも昨夏を経験していて斬新さに欠ける選考ではあるが、「センバツらしさ」は21世紀枠で十分表現できるということで、同枠導入後は「実力重視」がより鮮明になっている。

波乱?21世紀枠

一方で21世紀枠は意外な選考だったと思っている。私の予想は角館(秋田)、海南(和歌山)、小山台(東京)であった。落選した角館は、今回の候補9校中、最も同枠の理念に合致(豪雪、昨夏も秋田決勝で延長惜敗、東北大会1勝、文武両道など)し、東日本5校ではトップの評価を得ると見ていたからである。海南に関しては、候補中唯一の「古豪」であったことと好投手を擁して健闘した秋の実績。小山台も都立初のセンバツという期待感と好投手というアピールポイントがあり、有力視していた。選ばれた大島(鹿児島)は奄美大島という離島のハンディはあるものの九州大会に出ておらず、戦力もかなり加味する近年の傾向から厳しいのではとみていた。小山台と大島(鹿児島)は、まさに当日のプレゼンテーションが選考委員の心を動かしたのでは、と想像する。久しぶりにプレゼンを傍聴したが、候補の地元理事が発表するようになって内容も洗練され、何よりも熱意が伝わってきた。制限時間は3分半で、時間が来れば鐘が鳴る。発表は、東日本の5校を抽選し、小山台、天塩(北海道)、伊勢(三重)、角館、長野西の順で。残る西日本も海南、大島、坂出(香川)、大東(島根)の順で行われた。終了後は選考委員からの質問も活発に出で、回答も大いに参考にされたはずである。12月の地区候補発表の時にリリースされた推薦趣意書や、選考会当日に配られた各校のセールスポイントに記載されていなかった「ネタ」も披露された。

先輩の思いと離島の夢

私が感動したのは小山台の「06年にエレベーター事故で亡くなった当時の部員、市川大輔さんの思いを後輩たちが受け継いでいる」という部分。これは直前に報道されていてご存知の方もいたと察するが、当時から部員が書いていた野球班(小山台は部でなく班という)ノートに、市川さんが「一日一日を大切に」と認めていた。この言葉を歴代主将が受け継ぎ、ノートを通して選手たちが心を通わせる原点になっているというもの。選手たちはこの言葉から、日々の過ごし方を自主的に考えているようで、プレゼンと質疑応答で強調された。大島は、離島ハンディを切々と訴えた。フェリーで11時間かけて県大会に参加し、滞在費がひとり10万円を超えたこともあったようである。中でも感動したのは、数年前、当時の脇村春夫・日本高野連会長(湘南高~東大~東洋紡OB)が訪れたときのエピソード。奄美でも各校を訪問し、「この青空は甲子園に続いている。甲子園をめざして頑張ってほしい」と激励した。島民が大感激し、「奄美から甲子園へ」という思いが強くなって、地元の有望球児が島にとどまるようになった。話は逸れるが、脇村前会長は本当にすばらしい人だ。職を退いたあとも、春夏甲子園の試合はすべて観戦し、試合後には激励を忘れない。現場主義で目線が低く、その行動力、高校野球への情熱にはただただ敬服するばかりである。甲子園に姿を見せる大島ナインを、脇村氏がどんな思いで迎え、声を掛けるか楽しみにしている。

大成の誇りを胸に

海南は古豪の誇りを胸に半世紀の空白を解消した
海南は古豪の誇りを胸に半世紀の空白を解消した

海南のプレゼンは和歌山県高野連の松下博紀理事長。箕島の監督としてセンバツで8強に進出し、ファンにもおなじみ。プレゼン会場には私が報道陣一番乗りだったが、すでに到着していた松下氏は、「朝5時に箕島を出てきました」とやる気満々。27年ぶりとなる海南だが、これは合併した大成の記録を継承しているためで、実質は昭和39年以来50年ぶりとなる。てっきり「半世紀ぶり」を強調すると思っていたが、松下氏は名前が消えた大成への配慮も忘れていなかった。大成校舎から練習に参加している選手が4人いて、「彼らは大成の伝統を受け継いでいることを誇りに、毎日9キロ、自転車で通っています」と紹介。「古豪」というアピールポイントを敢えて封印し、大成の卒業生の思いも盛り込まれたすばらしい内容だった。親しさもあって松下氏には去年の秋からプレッシャーをかけまくっていた私は、完全に一本取られてしまった。

補欠校には異変が

さて、今大会の一般枠選出校については予想通りだったが、補欠校には驚かされた。東北、関東で、本来、補欠校に入ってしかるべき名前が消えていたのだ。東北は2校目が東陵(宮城)と花巻東(岩手)で争われるはずだった。にもかかわらず花巻東は、補欠の2校にも入らなかった。東北準決勝で花巻東の走者が相手捕手に体当たりし退場させてしまった事案があり、「ラフプレー」として厳しく注意された。これを問題視したという次第。同校は夏の甲子園でも、「二塁走者のサイン盗み疑惑」や「反則打法」(私は打者の技術だと思っている)で注意された経緯もあり、併せて制裁したともとれる。ラフプレーを指導者が教えているとは思わないが、昨センバツでも同様のプレーがあり、選手に絶対やらないように徹底して指導する義務はある。選考委員は、「選手生命にかかわる」とも表現した。ほかに関東でも補欠から漏れた有力校があり、中国では「マナーの問題」として補欠順の下がったチームがある。センバツの理念に謳われた「品位」を重んじ、今後、同様のプレーや行為があった場合の姿勢を明確にした。

フェアプレーこそが高校野球

と同時にフェアプレーについて再考していただきたい。高校野球が広く愛される最大の理由、それは「フェアプレーの精神」が根底にあるからだと思っている。かつてプロ野球人気を支えた巨人・長嶋と阪神・村山の対決はフェアプレーそのものだった。村山氏が亡くなった時、弔問に訪れた長嶋氏が、「(村山さんは)とにかくフェアな人だった」と述懐した。私と同期の同業他社勤務の村山氏長男から、「親父は、『長嶋さんと100回以上対戦して、一回もぶつけたこと(死球)がない』ことを誇りにしていた」と聞いた。伝統の巨人と阪神。それぞれの「ミスター」を冠する人は、フェアな真剣勝負でファンを魅了していた。先述の、走者が捕手のサインを味方打者に伝達する「サイン盗み」は明らかにフェアプレーに反する。一人ではできないため、チームとして指導者が教えているのだろう。外国の選手がこれを最も嫌う。もうひとつ、打者の「故意死球」もある。打者、ということで意外な感じを持たれるかもしれないが、これは打者がわざと死球を得る行為を指す。数年前から、けが防止のため、死球よけのプロテクター使用が許可された。これが災いした形だ。当たっても「それほど痛くない」ため、打者がホームプレートに極めて近く立って、相手のインコース攻めを封じようというわけだ。これだけなら何の問題もないが、ストライクに当たったらさすがにフェアとは言えない。実際に避けるような動作があれば球審は「死球」を宣告する。7~8年前、ある投手から、「ストライクだったと思うんですが」と言われ、ビデオを見たら右打者が右投手のスライダーにヒジを出して当たっていた。もちろん避けたようには見えるから死球になったのだが、明らかなストライクだった。以来、死球のたびに注意して見ているが、同様の「故意死球」は散見される。教えたとすれば指導者の問題だが、瞬時に判断しなければならない審判の眼力も問われる。あとはガッツポーズ。これは基本的にはかまわないと思っているが、少なくとも相手や相手ベンチに向かってするのはご法度。あくまでも「喜び」の表現であってほしい。選手の気質は時代とともに変わるが、高校野球がある限り、フェアプレーの精神が生き続けることを願っている。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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