Yahoo!ニュース

横浜、2度の中断に泣く!  夏の甲子園

森本栄浩毎日放送アナウンサー
早くも2回戦で実現した履正社と横浜の対決

決勝と言っても過言ではない黄金カード、履正社(大阪)と横浜(神奈川)の対決が早くも2回戦で実現。しかもお互いのエースが今大会の左右ナンバーワンで、秋のドラフトでも確実に上位指名される逸材とあって、甲子園は開門10分後の朝6時40分に満員通知(阪神電車各駅に、今から甲子園に来ても入場できない旨の通知)が出された。第4試合開始の12時間も前のことだ。長く高校野球に接してきたが、こんな話は聞いたことがない。さらに、入場券の追加発売を待つ人の波が、高速の高架下から阪神甲子園駅まで広がっていた。多くの人が諦めて帰ったようだ。

試合前から両エース火花

両エースは大一番を前に多くの報道陣に囲まれ、意気込みを口にした。履正社・寺島成輝(3年)が、「優勝するためには絶対に倒さないといけない相手。それが早くなった(2回戦)だけのこと」と言えば、横浜・藤平尚真(3年)も、「2回戦なら疲労もなく、お互い全力で戦えます。早く当たれて良かった」と早期対決を歓迎。藤平が、「寺島とやりたかった。抑える自信はありますし、必ず勝てると思う」とライバル心を燃やせば、寺島も、「(藤平は)意識し合える存在。(この試合を通して)お互いを高め合いたい。いつも以上に力を入れて0点に抑える」と呼応した。

横浜先発は左腕石川

そして満員のスタンドは、開始前からどよめいた。横浜のスタメン発表のときだ。『5番ピッチャー石川君』。

横浜の先発は石川。初回を無難に切り抜けたが、雷雨による中断でリズムを乱した
横浜の先発は石川。初回を無難に切り抜けたが、雷雨による中断でリズムを乱した

なんと、横浜・平田徹監督(33)は左腕の石川達也(3年)を起用したのだ。試合前には、「藤平と石川、どっちもウチのエース。二人の力を結集して2点、悪くても3点には抑えて欲しい」と話していた。奇策のようにも見えるが、平田監督には相手左打者への警戒心があった。「一番いい打者とみている」(平田監督)と言う6番・寺島や、4番・安田尚憲(2年)らスタメンに6人の左が並ぶ履正社に、敢えて『左のエース』をぶつけてきた。

中断で流れは履正社へ

先攻の横浜は、1番・戸堀敦矢(3年)が幸運な内野安打で出塁すると、犠打野選、犠打で1死2,3塁の好機をつかむ。ここで4番の村田雄大(3年)の犠飛で横浜があっさり先制した。寺島はいい当たりこそされなかったが、立ち上がりリズムに乗る前に失点した。一方の石川は初回、履正社を三者連続空振り三振と絶好のスタート。

2回裏無死、履正社は4番・安田が口火を切る。2度の中断を経て、一気に5点を奪った
2回裏無死、履正社は4番・安田が口火を切る。2度の中断を経て、一気に5点を奪った

そして2回、先頭の安田がチーム初安打で出塁すると、履正社が犠打で好機を広げ、寺島に回す。寺島がフルカウントまで粘ると、ここで甲子園に雷鳴が轟いた。思わぬ43分中断の水入り後、石川の内角低めの速球に、寺島のバットが空を切った。しかし履正社は7番・若林将平(2年)が安打でつなぐと、8番・山本侑度(ゆうと=3年)が逆転3ランをレフトに放ち、一気に流れを引き寄せた。山本は、「中断の間、流れを持ってこようと話していました」と胸を張った。するとまたも雷鳴がして、40分間の再度の中断。これですっかりリズムが乱れた石川が死球を与えたところで、平田監督はたまらず藤平をマウンドに送った。肩痛の痛み止め注射をうっていたという石川は、「初回は肩も温まっていたんですけど、中断で肩が冷えました」と悔やんだ。

藤平、初球を打たれるも互角の内容

畳みかける履正社は、2番・北野秀(3年)が初球の直球をライト線に引っ張り、一気に5-1と突き放した。藤平は、「あそこは相手の様子を見るべきだったんですが、甘く入ってしまいました。二人で5失点が敗因です」と唇を噛んだ。

急遽登板となった藤平は、代わり端の初球を打たれたが、その後は本来の投球を見せた
急遽登板となった藤平は、代わり端の初球を打たれたが、その後は本来の投球を見せた

その後は藤平も立ち直り、寺島との互角の投げ合いを演じた。2回途中から8回までわずか4安打で7三振を奪って意地を見せたが、序盤の得点は動かず、5-1で履正社が押し切った。履正社の得点は2度の中断があった2回裏の1イニングだけだったが、中断時間が計1時間23分にも及び、その間、横浜はずっと守っていたことになる。平田監督は、「言い訳になるが、選手たちには難しかったと思います。力を引き出してやれなかった」と自身を責めたが、中断で流れが変わったことは誰の眼にも明らかだった。平田監督は、「相手も同じ条件ですから」と潔かったが、それは違う。山本が言うように、じっくり策を練れる時間が攻撃側にはある。逆の立場だったら、寺島が同じ憂き目に遭った可能性もないとは言えない。

履正社、次も強敵・常総学院

寺島は、「4点差があって気持ちに余裕が出ました。望んでいた相手で、今までで一番力が入った試合」と148球、6安打1失点で大敵を倒した。

「リードは全部任せました」と寺島は、信頼を寄せる捕手の井町と勝利を喜ぶ
「リードは全部任せました」と寺島は、信頼を寄せる捕手の井町と勝利を喜ぶ

こうなれば優勝しかない。藤平も、「履正社は優勝する力があると思います。寺島には優勝して欲しい」とエールを送る。3回戦は、好左腕・鈴木昭汰(3年)を擁し、秋の関東大会で横浜を破っている常総学院(茨城)が相手で息が抜けない。センバツでは優勝候補にも挙げられていて、総合力はここまで勝ち残っているチームではトップクラスの強豪だ。岡田龍生監督(55)は、「強いところとばかり当てられますヮ」と苦笑するが、大黒柱・寺島は、「全員が自分の役割を果たせれば(優勝まで)いけると思います」と頼もしく笑った。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

森本栄浩の最近の記事