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中東イエメンに史上初のサイクロン上陸か

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
2007年サイクロン・ゴヌによりイランで発生した洪水(写真:ロイター/アフロ)

世界中で記録更新が止まりません。

一週間ほど前、メキシコ沖で観測史上最強のハリケーンが発生しましたが、今度は、アラビア海で記録的なサイクロン・チャパラが発生しています。

チャパラは、2007年のサイクロン・ゴヌに次いで、史上2番目に強いサイクロンです。しかも、未だかつてサイクロンによる襲撃を受けたことのないイエメンに接近しており、イエメン史上初の上陸サイクロンとなる恐れがあります。

インド気象局発表の予想進路図 ※月曜(2日)更新
インド気象局発表の予想進路図 ※月曜(2日)更新

サイクロンと台風はどう違う?

チャパラの衛星画像。クレジット:NOAA
チャパラの衛星画像。クレジット:NOAA

ところ変われば、名前も変わるもので、台風は発生場所が異なると名称も変わります。大きく分けると、日本近海など太平洋北西部で発生するものが「台風」、太平洋東部や大西洋で発生するのが「ハリケーン」。そして、インド洋(アラビア海含む)でできるのが「サイクロン(Cyclonic Storm)」です。台風と同じく、最大風速は秒速17メートル以上です。

8年分の雨が降るおそれも

インド気象局の予想によると、チャパラは現地時間月曜夜(日本時間火曜朝)頃、イエメン東部に上陸する見通しです。上陸前にやや弱まる見込みですが、問題は雨量です。アメリカ海洋大気庁は、2日間で800ミリの雨を予想しています。イエメンは砂漠の国。年間平均雨量は沿岸でも100ミリほどしか降りません。つまり、8年分に相当する雨が一気に降ることになります。洪水により壊滅的な被害が起こることは必至です。

NOAA/NCEPによる降水量予想
NOAA/NCEPによる降水量予想

アラビアンサイクロンは珍しい

台風が多発する広大な太平洋と異なって、アラビア海は狭く、サイクロンの発生数は年1~2個と多くありません。ましてや勢力の強いものとなると、なかなか起こるものではないのです。統計を取り始めた1979年以降で、ハリケーン級の強さ(風速33メートル以上)まで成長したサイクロンは、たった2つ。2007年のゴヌと、2010年のフェットだけです。しかもいずれもイエメンの隣国オマーンに上陸しており、イエメンに直撃したサイクロンはないようです

イエメンに直撃した嵐で最も強いものは、2008年のサイクロンから変わった低気圧ですが、この時は180名もの死者が出ています。被害が広がった理由は、避難所の収容可能人数が人口の10%にしか満たなかったことも関係しているようです。今回もし、サイクロンのままで上陸すれば前代未聞のことですし、記録的な大雨や暴風による被害は想像をはるかに超えるものになるでしょう。

水戦争勃発中のイエメンで、恵みの雨となるか

イエメンは元来雨がほとんど降らない上に、急激な人口増加も加わって、世界で最も水不足に悩まされている国の一つです。水道から水が出るのは、月にたった1、2度しかないようで、首都サナアでは2017年には水が枯渇する可能性も指摘されています。反政府組織は、この状況を利用して水の配給や井戸を作るなどの支援などを行っており、住民の支持を得ようとしているとも言われています。このような状態でのサイクロンの上陸は、ある意味では願ってもないことと言えるかもしれません。

しかし、8年分の雨が短時間に降るとなると、貯水どころの騒ぎではありませんし、雨の前には、暴風によって巨大な砂嵐が発生するでしょう。これまで経験したことのないような被害の拡大が懸念されます。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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