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帝京大学ラグビー部は、トップリーグ王者を倒して日本一になれるのか?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
帝京大学前キャプテンで現サントリーの流大。「個人的に課題が残った」

大学選手権6連覇中の帝京大学ラグビー部は、一昨季から「打倒トップリーグ」を目標に掲げている。昨季、実現し、今季もそれを目指す。

2月8日、東京は秩父宮ラグビー場。前年度の日本選手権1回戦で、国内最高峰であるトップリーグのNECを撃破した。競技の勝敗を分けるフィジカル勝負で互角だった。相手のキーマンたる外国人選手が不発だった。金星というより白星の80分を、学生たちは演じていた。

今季はこの選手権の方式が変わる。複数チームによるトーナメント戦から、学生王者とトップリーグ王者の一発勝負となる。それでも帝京大学は、大学選手権7連覇はもとより「日本一」を狙うわけだ。フォーマットが定まる前の2月15日、前回選手権の2回戦で東芝に敗れた直後、岩出雅之監督はすでに言っていた。

「(1回戦で)勝ったことに満足しないという挑戦心を奮い立たせる。監督がそれをイメージした計画を立てる。そうすれば、(2回戦でも)我々にも微笑むチャンスはあったのではと思います。生意気を言いますが、日本選手権で1つ勝つ、という程度の目標設定をしてはいけないな、と」

試金石となりうるゲームを、7月12日におこなった。東京都府中市にある相手の本拠地で、サントリーと練習試合を組む。相手は日本選手権の前回準優勝チームで、トップリーグでは12年度まで2連覇。ひたすら球を継続する「アグレッシブ・アタッキング」を旗印に掲げており、帝京大学の卒業生も在籍している。

結論。学生が大きく手ごたえを掴むこととなった。結果は31-33と敗れたが、初めてリードを奪われたのは試合終了間際。その折にグラウンドに立っていたのは、すべてレギュラーを狙う控え選手だった。

実質的なベストメンバーが揃っていた前半はむしろ、帝京大学の鍛錬の成果が表れていた。

タックルとそこへの援護射撃でボールの継続をやや遅らせる。その隙に声を掛け合って揃った守備網が、余裕を持って相手のパスの受け手へタックルを放つ…。その繰り返しで、サントリーはいくら攻めても接点で反則を犯した。

3年生のロック飯野晃司は、再三、守りで会心の一撃をかました。行儀のよい感想。

「タックルで流れを変える。そういうプレーができたらいいなと思っていました。それを何本かできたことはよかったです」

かたや、サントリーのスクラムハーフ、流大は脱帽の様子だ。昨季は帝京大学のキャプテンだっただけに、試合後は多くの記者から感想を求められていたが…。

「サントリーのアタックのサポートが遅いなか、帝京のディフェンスが激しかった」

ハーフタイム直前。サントリーのウイング江見翔太が大きく突破。一昨季の帝京大でキャプテンだったセンター中村亮土が後方支援し、大きなチャンスを作る。

しかし、自陣ゴール前で球を失う。帝京大学のフルバック重一生が「自分のタックルミスがきっかけだったので…」と、こぼれ球へ飛び込んだのだ。ここから反撃に出る。一度はタッチラインの外へ出されたものの、直後の攻撃を真正面で受け止める。我慢の守備だ。

現キャプテンのフッカー坂手淳史らが、接点で抗う。笛が鳴る。サントリー、ペナルティー。帝京大、速攻。17-7とリードを広げたのは、人気者の1年生スコアラー、竹山晃暉だった。

森川由起乙。前年度の帝京大学の副将でこの日はサントリーの背番号「1」をつけたプロップは、日本一を目指す後輩たちの実力を素直に認めていた。向こう側の内情を具体的に想像したうえで、こう述懐する。

「正直、強いです。帝京は、自分たちの軸を持っていて、相手の分析をしたうえでターゲットも明確。ゲームのなかでの動き方が最初からわかっていて、その場で『次に何しようかな』と思うのではなく、すぐにリアクションできる。(リアクションした先で発揮する)フィジカルは、他の大学生とはレベルが違う」

相手は各国代表組が不在だったため、この日の内容ですべては語れまい。使用するサインを限定して臨んだラインアウトでは何度も相手の長身選手に競られているなど、明確な課題もなくはない。

ただ、トップリーグに対抗しうるフィジカルと組織性は、確かに発揮された。サントリーの関係者は「このままトップリーグに入っても、ある程度は勝てる」と認めた。

ノーサイド。会場整理。フッカーの坂手淳史主将が単独取材に応じる。さすが、隙の見当たりづらい組織の船長である。たった一言、「どうでしたか」と聞いただけで、ここまで過不足のない談話を残すのだから。

「もともと(出場時間を主力と控えで)半分に分けるという形だったんですけど、前半は自分たちのペースというか。ラインアウトは、『(最近の練習で)ここだけしかやっていない』というサインの数でやっていた。ここからクオリティーを上げていくので、大丈夫だと思います。スクラムも、(20歳以下日本代表の遠征から)帰ってきたばかりの(背番号)1、3番(堀越康介、垣本竜哉)が頑張ってよくやってくれましたし、その後ろからの押しもよかったと思います。フィールド(ボールが動くなか)でも、フォワードがよく前に出て、そのなかでバックスが外に振ってくれた。でも、一番よかったのはタックルかなと。いままでサントリーさんと(練習試合を)やった時はじりじりと前に出られていたんですけど、今日はそこを止めることができた。すごく自信になりますし、これから成長するうえでの目安になると思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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