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1分でわかる?日本代表の成長をスティーブ・ボースヴィックFWコーチが解説【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
選手とともに汗を流すボースヴィックFWコーチ。(写真:ロイター/アフロ)

ラグビー日本代表は10月11日、ワールドカップイングランド大会の予選プールBの最終戦でアメリカ代表とぶつかる(グロスター・キングスホルムスタジアム)。9月19日に過去優勝2回の南アフリカ代表を34-32で下すなど(ブライトン・コミュニティースタジアム)、ここまで予選プールBを2勝1敗としている。

4年に1度のワールドカップでジャパンが1大会2勝以上を挙げたのは今大会が初。現チームはエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)体制の4年目で、連続攻撃を貫くための運動量アップとセットプレーの強化に注力してきた。セットプレーはスクラムやラインアウトなどの攻防の起点を指す。

勝ち続けるチームを陰で支えるのは、スティーブ・ボースヴィックフォワードコーチ。タッチライン際から投入された球を空中で競り合うラインアウト、その直後に皆が塊となるモールを徹底指導する。

現役時代は空中戦で魅せるロックを任され、イングランド代表のキャプテンを務めた。身長は190センチ台と国際級のロックとしては小柄も、持ち前の分析と技術へのこだわりで制空権を握っていた。ジャパンでも事前に相手の守備陣形を把握し、それに基づく跳躍位置を設定。身長2メートル超の選手がゼロというやや小柄なフォワード陣ながら、高いボールキープ率を実現している。

5日、ボースヴィックフォワードコーチがウォリックの合宿中に共同取材に応じた。当たりを記者とカメラに取り囲まれるなか、質問ごとに聞き手の方へ身体と視線を向けた。談話内容はセットプレーを中心に、大会前からいままでの日本代表の強化の背景だった。

以下、ボースヴィックフォワードコーチの一問一答。

――ここまで、ワールドカップでの日本代表のフォワード陣の働きはいかがですか。

「ここ何年かで大きな成長を遂げました。ワールドカップに入ってからも進歩しています。相手との体格差があって、チャレンジを強いられています。ただ、選手たちは身体を張っています。

日本人が誇りに思えるようなチームを見せたかった。そして過去の歴史を振り返ると、ワールドカップでいい結果を残せていませんでした。いまの活躍で小さな子どもたちにインスピレーションを与える効果があります」

――大会に入ってからの指導コンセプト。

「まず、『JAPAN WAY』(チームのスローガン。シェイプという陣形を主要パーツとして、素早いプレー展開を心掛ける)をする。アタックではボールを素早く動かす。低くタックルに入ってすぐに起き上がる。スクラムも、低く組む。

ラインアウトは相手との身長差があるので、(相手より始動を速くするなどの)テンポが必要。それを遂行するには(休む時間が減るため)体力が必要ですが、ご覧の通り、ジャパンは体力があります。その体力をつけるには、かなりのハードワークが必要だった(4月から宮崎で猛練習)。選手のハードワークを称えたいです」

――長身の相手を向こうに、ラインアウトの成功率が高い。

「選手たちの準備の質が高い。イングランドの選手以上に相手の分析をしています。常にI padやパソコンで常に試合の映像を見ています。選手の努力のおかげです。

また、ラインアウトを遂行する速さが重要。いいスピードで、しかも焦らず。そのバランスを取らないといけません」

――(当方質問)準備で力を発揮しているのは誰か。

「ラインアウトリーダーグループというものがあります。リーチマイケルがキャプテンとして、あとは大野均、伊藤鐘史、トンプソン ルーク、マイケル・ブロードハースト、アイブス ジャスティンのジャンパー役として参加します。任された部分に責任を持っています」

――ラインアウトのボール投球役、フッカーの堀江翔太副将について。

「成長しています。彼には(タッチラン上から)ディフェンス(の立ち位置)やスペース(ディフェンスの立っていない場所)を認識する力があります。相手の頭上を大きく超えるボールを投げなきゃいけないのか、鋭い球を投げなきゃいけないのかを見極めています。

ラグビー選手としてもすば抜けた選手です。タックル、ラン、パス、キックもしますね。優れた感覚と注意力の持ち主だと思います」

――素早いラインアウト獲得のために、どんな技術を意識しているのか。

「ラインアウトはフッカーがいないと始まりません。まずはフッカーがその位置につくことです。そして、冷静でいること。すぐに位置について、すぐに冷静になる。そこが基礎になります。あとは全員が結束して動くことが大事です。ラインアウトは、参加者1人ひとりが影響を与えます。ボールを触らない選手も小さなダミー(相手に捕球すると見せかける)が必要。細かい仕事を、全員が、いいスピードで正確にする。それで、成功できます」

――選手同士でのリーダーシップについて。

「リーチ マイケルはすばらしいキャプテンです。彼を主体にリーダーシップグループを作り、もっと責任を持ち始めています。スタンダードを引き上げる立役者です。スタンダードが落ちた時に、ただちに修正をしています。プレッシャーがかかった時も正しい判断をしています。

私もエディーさん(ジョーンズHC)から、自分がキャプテンだった時のことを話すようにと言われていました。今度のワールドカップでの対戦相手について、私がイングランド代表時代に試合をした経験のことなども」

――ジャパンで指導した内容は、今後のコーチングキャリアでも活かせるか。

「そのチームにどんな選手がいるかを考えて、戦略を練ります。ただ、今回ジャパンでやってきたことはどのチームでも発揮できます。例えば、(接点などでの)低い姿勢。それをするために高阪剛さん(総合格闘家。スポットコーチとして日本代表にタックルを指導)が指導されたこと、それを続けるためにJP(ジョン・プライヤーS&Cコーディネーター)が鍛えた身体…。非常に長い時間がかかりました。走っている時でも、パスをキャッチしている時でも、タックルをする時でも、姿勢が高いとコンタクト局面に負けてしまいます。低い姿勢はどのチームでも必要です」

――3日のサモア代表戦(ミルトンキーンズ・スタジアムmk/26-5で勝利)のラインアウトとモールについて。

「ただ、我々のドライブ(モールを組んだ選手たちが足を前に掻く)にプレッシャーがかかっている。そこは対応が迫られます。オブストラクションの反則(ボールを持っていない相手プレーヤーの動きを妨害する反則。ボール保持者よりも前で相手とぶつかっている選手はそう判定されがち)も取られました。ビデオで検証したところ、オブストラクションではないように映ります。でも、そう判定されてしまった背景は理解できます。オブストラクションに見えかねない状況でした。選別が難しく、判定をするのがタフな局面ですから。

ただ、その話は置いておいて。選手たちはよく頑張ったと思います。我々のドライブが強みになっていることはわかりました」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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