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2019年W杯に向け…。ラグビー版「ドラフト会議」スカウティングレポート?(前編)【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真は今大会でキャプテンを務めたリーチ。次回大会でもリーダーとして期待される。(写真:アフロ)

ラグビー日本代表は今秋、4年に1度おこなわれるワールドカップのイングランド大会で成果を残した。過去優勝2回の南アフリカ代表から大会24年ぶりの勝利を挙げるなど、参加した予選プールBで3勝をマーク。目標だった準々決勝進出は叶わなかったが、国内外で評価された。

次回大会は2019年、日本で開かれる。以下、プロ野球のドラフト会議時にしばしメディアに踊る「スカウティングレポート」の形式で、現有メンバーと定位置争いをしうる選手を列挙する。前編はフォワード。敬称略、順不同。

※( )内の年齢、キャップ=国際間の真剣勝負への出場数、所属先の順

<総論>

「日本は30数名から選手を選ばなくてはならない」とは、2012年に就任したエディー・ジョーンズヘッドコーチ。若手育成に関する助言はあまり受け入れられなかったとやや憤り、今大会のメンバー選考時も少数精鋭の感をにじませていた。

ジョーンズヘッドコーチの肝入りで発足された「ジュニア・ジャパン」なるプロジェクトは、現在、形骸化。某強豪大学の指導者が「計画自体は理解できる。もし、エディーさん自身が指導してくれるのなら」と話すなど、運営組織への懐疑的な目が向けられていた。もっとも、今月限りで辞任する指揮官は「日本には、ポテンシャルの高い選手はいる」とも語る。ここでの「ポテンシャル」は、身体能力や技術的な資質、大勝負での心のありようなど定義は幅広いとみられる。

<フォワード>

ジョーンズヘッドコーチの言葉を借りれば「テストマッチに年齢は関係ない。テストマッチでプレーできるかどうかだ」。まして、日本代表の座は世襲制でも年功序列でもない。年齢の重ねた選手の名前を出して「○○の後継者は誰か」と語るのは、無意味に近い。

もっとも、現在のフォワード陣の高齢化傾向は明らか。特にセットプレーの軸となるロックは、今大会の選任選手4人中3人が30歳以上となる。「テストマッチでプレーできる」、すなわち、低い姿勢で相手とぶつかり続けられる心身の強さを持った選手の登場が待たれている。

■左プロップ(背番号1)=今大会では三上正貴(27歳、32キャップ、東芝)、稲垣啓太(25歳、10キャップ、パナソニック/レベルズ)。

・北川賢吾(23歳、―、クボタ)

高校日本代表、20歳以下日本代表、ジュニア・ジャパンなど各カテゴリーでの海外遠征時、スクラムで健闘。「力勝負だけでは押せない」。東福岡高校の1学年後輩である藤田慶和(現ジャパン/早大4年)にも称賛される怪力に加え、最前列での冷静な駆け引きにも自信を覗かせる。

・山本幸輝(24歳、―、ヤマハ)

元日本代表の通称「スクラム番長」、ヤマハの長谷川慎フォワードコーチから薫陶を受ける。近畿大学時代から長谷川コーチの教えにならい、フォワード8人が一体となってスクラムを組む意識を醸成してきた。イングランド大会に挑む日本代表がそれと似た方向性を示す前から、である。

・知念雄(24歳、―、東芝) 

ハンマー投げから転向し、本格的にラグビーを始めて1年半。本格加入前の昨季から東芝の練習に参加してきた。東芝は現ジャパンの三上、湯原祐希(後述)代表経験者の浅原拓真と国内屈指のスクラメイジャーが揃う。本人は「日本一恵まれた素人だと思います」。

■フッカー(背番号2)=今大会では堀江翔太(29歳、32キャップ、パナソニック)、木津武士(27歳、10キャップ、神戸製鋼)、湯原祐希(31歳、東芝)。

・坂手淳史(22歳、―、帝京大学) 

大学1年時の日本選手権。「ポジショニング」と「踏み込み」を意識したタックルでパナソニックの猛者を順番になぎ倒し、台頭した。一時は背中などの故障に悩まされながらも、代表合宿での練習参加を重ねてきた。セットプレーでの課題を指摘されるも、ここまでの競技歴が「誰が相手でも一生懸命やるのですけど、相手が強いほうが燃えるというのはあると思います」という自己評価を実証。礼節を知った腕白少年の趣。

・有田 隆平(26歳、―、コカ・コーラ)

身長176センチ、体重98キロ。やや小柄だが、体幹の強さを活かしたタックルを披露。今回のワールドカップでもバックアップメンバーに名を連ねていた。チームメイトで元オーストラリア代表の人気者、ニック・カミンズからも「小さいけれど、ハード」と評価される。

・日野 剛志(25歳、―、ヤマハ)

こちらはさらに小柄な身長172センチ、体重98キロ。ずんぐりしたフォルムと、タッチライン際を駆け抜けるスピードのギャップは魅力。山本幸と同じく、長谷川コーチのもとで8人一体型のスクラムを体得しているのも強みか。

■右プロップ(背番号3)=今大会では畠山健介(30歳、72キャップ、サントリー)、山下裕史(29歳、49キャップ、神戸製鋼)。

・具智元(21歳、―、拓殖大学)

身長184センチ、体重122キロの体躯にまっすぐな芯を通す。スクラムの際、背筋を地面と平行に保つ「フラットバック」の姿勢が常に崩れない。日本文理高校時代は全国大会とは無縁も高校ジャパン入りそし、昨季は20歳以下日本代表としても活躍。元韓国代表プロップである東春氏の次男も、日本でのプレーを切望する。

・垣永真之介(23歳、6キャップ、サントリー)

普段は寡黙ながら、グラウンドへ入るや雄たけびをあげる。前サントリー監督の大久保直弥・NTTコムフォワードコーチ曰く「チームにエナジーを与える」。今大会を前にメンバーから漏れたが、代表には昨季からメンバー入り。どちらのチームでも複層的な陣形を作って相手をかく乱させる戦術のパーツとして、機動力と突破力を活かしてきた。

・渡邉隆之(21歳、2キャップ、東海大学)

こちらもワールドカップ直前に代表入りし、大会直前までチームに帯同。東海大学では定位置争いの渦中にあるが、身長180センチ、体重120キロの恵まれた体躯で、突破力とリアクションスピードと手先の器用さを長所に駆け回る。

・アライモアナ・モツアプアカ(23歳、―、パナソニック)

国内最高峰のトップリーグでは、プレシーズンリーグ出場2試合のみ。経験は浅いが、身長190センチ、体重130キロという時点で日本のどの背番号3よりもビッグスケール。埼玉工業大学時代から練習参加していたパナソニックの本拠地グラウンドで「このでかい尻、すごいでしょう」と関係者から太鼓判を押されている。正智深谷高校時代からロックとしてプレーも、大人同士の戦いでは最前列へ移動して世界を狙う。

■ロック(背番号4、5)=今大会では大野均(37歳、96キャップ、東芝)、伊藤鐘史(34歳、36キャップ、神戸製鋼)、トンプソン ルーク(34歳、63キャップ、近鉄)、アイブス ジャスティン(31歳、33キャップ、キヤノン)、真壁伸弥(28歳/サントリー)。

・小瀧尚弘(23歳、―、東芝)

身長194センチ、体重110キロ。人と人とが煩雑にぶつかり合う接点へ、躊躇なく真正面から踏み込める意識と身体の強さを誇る。昨季、代表メンバーに加入させた当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチにも「とてもコンタクトが好きな選手」と褒められてきた。球を持って走る際のストライドも魅力。現代表の大野に憧れ東芝入りし、「フォワードとしてのレベルアップに繋がっている。入ってよかった」と本人。

・宇佐美和彦(24歳、5キャップ、キヤノン)

タックルをした後に素早く起き上がる身長197センチ、体重112キロ。今年はワールドカップ直前に選から漏れ、「(メンバー入りした選手は)オンになるとばちっとスイッチが入った。ここが、自分の課題」とも。初任給で買った「I pad」(のちに母校の立命館大学へ寄付し、現在は別のものを使用)で実戦練習での「仕事量」をチェック。グラウンド外での研究も活かし、動き回ること、相手より低い姿勢で戦うことをモットーに掲げる。

・ヴィリー・ブリッツ(27歳、―、NTTコム/チーターズ)

南半球最高峰であるスーパーラグビーのチーターズでキャプテンを務めた献身の人。今季、初来日するや接点と空中戦で存在感発揮。早速、大久保フォワードコーチから「周りのレベルを高められる存在」に認定された。本人は母国の南アフリカ代表入りを希望も、現状では日本代表入りへの条件である「他国代表入り経験なし」を満たしている(現行ルールでは今季を含め3年間ノンキャップのままの場合は日本代表入りの資格も獲得)。仮に本人がどんな選択しても、ワールドカップは日本でおこなわれる。

・テトゥヒ・ロバーツ(21歳、―、東海大学)

札幌山の手高校、東海大学と、現代表キャプテンのリーチ マイケルと同じルートを歩む。バスケットボール経験者。チームの首脳からは「自分のやりたいプレーしかしない」などと安定感不足を指摘されるが、球を片手で持ちながら守備網の隙間をすいすいとかわすさまは圧巻。突破役候補。

■ブラインドサイドフランカー(背番号6)=今大会ではリーチ マイケルキャプテン(27歳、47キャップ、東芝/チーフス)。

・ブロディ・マクカラン(21歳、―、帝京大学)

大学選手権6連覇中の帝京大学が期待する新人の1人。岩出雅之監督に「過去の留学生と比べても、最もストレスがかからない」と謳われる真面目さと、トップリーグの採用担当者からべた褒めされる「タックル後のリアクション」、宙を舞う荒れ球を器用に捕球する技術は重宝されそう。「できれば、日本代表にもなりたいです」。岩出監督によれば「パワーをつければ7番(フランカー)でジャパン」とのことだ(それも興味深い)。

・飯野晃司(20歳、―、帝京大学)

球のないところでも駆け回り、大きな声を出し、思い切りのよいタックルで相手の連続攻撃を断つ。「チームとして組織ディフェンスの連携が取れていて、そのなかでたまたま…」。現在は大学3年生。元日本代表で帝京大学OBの相馬朋和コーチによれば、「役職につくつかないは別にして、すでにリーダー。どこの世界へ行っても成功する」。要は、溌剌としていて他人にこびない。

・山本浩輝(22歳、―、東芝)

粘り腰と長い腕を活かして密集の奥の球へ手をかける。肉弾戦での激しさ、しつこさは対戦したスクラムハーフ(球をさばく役割)の選手が「嫌らしかった」と証言する。

・テビタ・タタフ(18歳、―、東海大学)

目黒学院高校から東海大学入り。6月には20歳以下日本代表の主軸としてU20ラグビーチャンピオンシップに出場した。「単なるインパクトプレーヤーではなく、勤勉」と東海大学の木村季由監督が言えば、20歳以下日本代表の中竹竜二ヘッドコーチは「常にボールを持ってゲインを切ろうという意識が強い」。本人は「去年より、今年がいいというプレーヤーになりたい」と発する。

・梶川喬介(28歳、―、東芝)

東芝では大野とともにロックとしてプレー。転んではすぐに起き上がり、相手の下半身へ強烈なタックルを浴びせる。ラグビーで尊ばれる、接点に頭から突っ込める選手の1人。今年5月2日には、日本代表のテストマッチの前座である関東代表対ニュージーランド学生代表戦に出場。持ち味を出した。周囲の代表待望論へは「選んでもらうには、自分のプレーをしっかりすることが大事」。

■オープンサイドフランカー(背番号7)=今大会ではマイケル・ブロードハースト(28歳、26キャップ、リコー)。

・布巻峻介(23歳、―、パナソニック)

東福岡高校時代から世代最高峰の怪物と謳われてきた。早稲田大学3年時にセンターからフランカーに転向し、相手を仰向けにするタックルとジャッカル(密集で球を奪うプレー)の迫力と技術にフォーカスする。「他の人に(ビッグゲームの)プレッシャーを背負わせるぐらいなら、僕はそこの部分は強いと思っている」。接戦で迎えた試合終盤のピンチかチャンスの場面に顔を出せるのは、この矜持からか。

・西内勇人(23歳、―、ヤマハ)

東福岡高校では布巻と同級生。当時からフランカーやナンバーエイトとしてプレーしてきた。トライラインを塞ぐ守備網を単騎でぶち破ったり、自陣ゴール前の密集で効果的なブロー(合法的な体当たり)やジャッカルを繰り出したり。大事なものは「勝つ執念」とのこと。「どんないい試合をしても負けたら負け」。現在は首の治療中だが、同学年のスクラムハーフ流大には「(年代別代表などでの)セレクションマッチとかで西内と同じチームになったら『よし!』と思う」と実感のこもった賛辞を贈られる。いとこのまりやさんが全国的に有名になる前から、勇人さんはラグビー界で有名だった。

・金正奎(24歳、―、NTTコム)

早稲田大学で副将を務めた際は、試合中に「チームに次の矢印(方向性)を提示する」ことを意識し端的なリーダーシップを発揮。攻めては空いたスペースへ、守っては相手のサポートが遅れた密集戦に顔を出す。身長177センチと小柄も、今春は留学したニュージーランドのクラブシーンで存在感を発揮した。

・村田 毅(26歳、5キャップ、NEC)

エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いるジャパンでは2012年にメンバー入りも、「練習でアピールできず、試合でアピールしようと思っていたら…」。定着が叶わなかった。「世界に、お前みたいなサイズのフランカーはいるか? いないだろ。とも」。一時は2ケタ台だった体重を103キロまで引き上げ(身長は185センチ)、ワールドカップイヤーに返り咲き。愚直さと低さを指揮官へ訴え続けた。

■ナンバーエイト(背番号8)=今大会ではホラニ龍コリニアシ(33歳、44キャップ、パナソニック)、ツイ ヘンドリック(27歳、36キャップ、サントリー/レッズ)、アマナキ・レレィ・マフィ(25歳、7キャップ、NTTコム)。

・アマト・ファカタヴァ(20歳、―、大東文化大学)

今季の大学ラグビー界の新人で最大級のインパクトを示している。身長195センチ、体重103キロのサイズで、スピードとしなやかさと迫力あるハンドオフで突破を重ねる。関係者によれば、ニュージーランドでプロ契約する直前に双子の兄・タラウ(こちらもパワフル)とともに来日を決断。

・マルジーン・イラウア(22歳、―、帝京大学)

無敵の学生王者にあって随一の突破役。来日当初と比べれば、球のない場所での働きの質は向上。日本語は歌も歌えるほど流ちょうに。

・ファウルア・マキシ(18歳、―、天理大学)

肉弾戦へは前傾体勢で飛び込み、球を持てば真っ直ぐ直進。日本航空高校石川時代から「ディフェンスは好き」と語る通り、ジャッカルやタックルでも存在感を示す。「外国(日本以外)では皆、でかい。低く行かなきゃ勝てない。激しく、頑張りたいです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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