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ジャパンのリーチ マイケルキャプテンが語る、ワールドカップ決勝【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
本大会では4試合フル出場のリーチ。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

4年に1度あるラグビーワールドカップのイングランド大会は、10月31日、ロンドン・トゥイッケナムスタジアムで決勝戦を迎える。2連覇にあたる通算3回目の優勝を目指すオールブラックスことニュージーランド代表に対し、4大会ぶり3度目の王座を狙うワラビーズことオーストラリア代表が挑む構図だ。

現地時間で30日の朝、日本代表のリーチ マイケルキャプテンが都内から電話取材に応じ、この決勝戦への展望を語った。今大会では予選プールBで3勝。決勝トーナメント進出は逃したが、ジャパン史上初の1大会複数勝利を挙げ、帰国後はブームの只中にあってテレビ出演などを続けている。15歳で来日して日本の高校、大学で成長した点などが注目されている。

大会前はチーフスの主力格として、南半球最高峰のスーパーラグビーでプレー。決勝戦に出場するメンバーには対戦経験のある選手やチームメイトもいる。

以下、リーチの一問一答。

――お疲れ様です。日本へ帰って来てから、いかがですか。

「忙しいですね。色々とテレビに出たり、東芝の集まりに行ったり、取材とかで人に会ったり。リラックスはできないですよね。(静養へ出かけた先でも)テレビ出演の連絡とかが入って来て。でも、ここ2~3日間は携帯の電源も切って、少し、休めました」

――さて、このたびはTHE PAGEの記事用にワールドカップの決勝戦についてお話しいただきます。準決勝でご覧になったのは…。

「オールブラックスと南アフリカ代表の試合(24日、トゥイッケナム、20-18でニュージーランド代表が勝利)を観ました」

――南アフリカも強かった。

「大分、気合いが入ってた。観ていて面白かったですね」

――ジャパンは9月19日、その南アフリカ代表に勝っています(ブライトンコミュニティースタジアムで34-32と逆転での白星)。準決勝の南アフリカ代表は、当時と何が違いましたか。

「いやぁ、1人ひとりの勝ちたいという意識が高かったですね。自分たちに対してもそういう気持ちは持っていたと思うけど、自分たちは南アフリカ代表のやりたいことをやらせなかった」

――さて、決勝戦。ずばり、どっちが勝つと思いますか。

「やっぱりオールブラックス。ここまで来たら、勝ちます。いままでオーストラリアにも勝っていたし。ワラビーズがバックロー(フォワード第3列)にオープンサイドフランカー(背番号7をつける黒子役)のタイプの選手を2人並べる(背番号7にマイケル・フーパー、背番号8にデイヴィッド・ポーコック)。そこのブレイクダウン(ボール争奪局面)さえ勝てば、オールブラックスが勝つと思います」

――逆に、ワラビーズはブレイクダウンで勝負をかける。

「オーストラリアは2人のオープンサイドがブレイクダウンで一生懸命。ボールの絡みやターンオーバーを狙ってきます。ただ、オールブラックスは、そういう試合を観て、この1週間でブレイクダウン(の準備)を徹底的にやってると思います。この間、リチャード・カフィ、タネラウ・ラティマー(東芝所属のオールブラックス経験者)ともその話になった。『きっといまごろ、オールブラックスはブレイクダウンをやってるんだろうな』って」

――今大会のオールブラックスの強さは。

「経験値。実はオールブラックス、怪しいと思ってたんです。絶対、優勝できない、と。でも、準々決勝で変わった。バックロー、マア・ノヌ(センター)のパンチ力、スクラムハーフ(アーロン・スミス)のさばき…。決勝トーナメントからはレベルが違いました。プール戦でレベル3だったのが、決勝トーナメントでレベル8に変わった。決勝までに10に持って行けば…。

特にバックローはプール戦でタックルミス、ノックオンしていた。ただ、決勝トーナメントでは一気にあの3人が流れを変えましたね。リッチー・マコウ(キャプテン、フランカー。147キャップ=国際間の真剣勝負への出場数)のブレイクダウン、観ていて楽しかったです。経験のある選手は強いですね。キンちゃん(大野均、日本代表96キャップ)もそうです。逆に、経験のない選手は大分、ばててきてますね」

――キャリアのある選手が大舞台で強いわけは。

「負けた経験がありますから。最低な気持ちも知っているから、必死にやる。エディーも、そうですよね。逆に、負けを知らない若い選手はビビッて何もできなくなるかもしれない」

――現在、トライ王はオールブラックスのウイング、ジュリアン・サヴェア。

「最後の舞台でどんなプレーをするか。彼が自信を持ってプレーできればオールブラックスにとっては、いい。ただ、最初のプレーで嫌がってプレーに参加しなくなったら…。テストマッチには、勝負は1回きりというプレッシャーがあります。ワールドカップのファイナルはもっとそうです。ここを楽しめる人とそうでない人がいる。僕はどちらかと言えば楽しめる方で、オールブラックスもそうだとは思う。経験のある選手が引っ張って、若い選手をもしっかりやる、かな」

――2015年の日本代表にも、2011年の未勝利を知る選手が多かった。

「そう。逆に今度からの代表は、負けを知らない人が多くなる。勝つことしか知らない。スコットランド代表に負けた時(9月23日、グロスターのキングスホルムスタジアムにて10-45で敗戦)の悔しい感覚は掴んでいるから、それを繰り返さないように努力すれば…と。代表のなかでは勝つ文化もあるから、もっと強くなるとは思います…。話、ずれてますね。決勝の話でした」

――逆に、ワラビーズが勝つとしたら。

「オーストラリア代表は頂点に向けたピーキングは上手ですね。勝つとしたらディフェンスをしっかりすること。キックでポイントは取れるから、まずはディフェンス。ニュージーランドはどこからでもトライを取れる。その勢いを止めれば。ダン・カーター(ニュージーランド代表のスタンドオフ)へもプレッシャーをかけまくって、いいキックを蹴らせない。そうすればいいところまで行きます」

――チーフスにいて感じた、ニュージーランド代表の普遍的な強さは。

「人の弱みやミスを狙いまくる。クルセイダーズと試合をした時も、ダン・カーターのキックのモーションが大きすぎるからと、そこでのチャージからトライを取った。他にもタックルのできないセンターを狙う、とか、1人ひとりを見ます」

――今回のジャパンも、相手のことに詳しかった。

「その分析は、ニュージーランドのものを採り入れました。相手がどういう人間性かまで、知っていきます。相手のメンバーの名前、特徴、弱み、強みを書いていく。代表では分析の方が1人ひとりのビデオクリップを持ってるから、それを観ます。もし、どっち側へのステップが得意か、とか」

――その意味では、オールブラックスはオーストラリアのバックロー陣のことをよく把握してくるだろう…と冒頭の話に戻るわけですね。

「そう思います。まず、オールブラックスはブレイクダウンでボールキャリーが簡単に倒れなくなる(地面に倒れたら、球に相手バックローの手が伸びる)。戦術に頼らずに、タックル、ブレイクダウンで前に出ることを大事にすると思う。

もうひとつ。オールブラックスはハイパントのキャッチは練習すると思う。落とした方は苦しくなるから。どちらもボールが動くようになるだろうし、楽しみです。セットピースも大事…」

――セットピースといえば…。ワラビーズは苦しんでいる様子ですね。

「そうなんですか」

――18日のトゥイッケナムでのスコットランド代表戦(準々決勝。35-34で勝利)では、スクラムで再三コラプシング(故意に崩す反則)を取られていました。スコットランド代表はジャパン戦の序盤も似たような反則を奪っていましたが、実相は「押し込んで、(スコットランド側が相手を)落とす」だったとジャパン陣営は観ています。

「スコットランドのフロントローは、ずる賢いです。ただ、マルク・ダルマゾフォワードコーチは『ワラビーズのスクラムなら、ジャパンも押せる』と言っていた。ダルマゾがそう言うんなら、ワラビーズのスクラムは、少し、弱みかな。ただ、ワラビーズは、負けていても頑張る。オーストラリアのチームとやる時は、向こうが0-50で負けていても気を抜くなというのは(ニュージーランドで)有名な話。ポーコックは、20歳以下代表(ジュニアワールドカップ)のキャプテン会議の時に話したことがある。プレーは激しくて、めちゃいい人。グラウンド外での活動(同性婚容認や森林開発に関する運動に参加)も含め、アスリートには憧れられていると思う。フーパーって、最近24歳になったんですよね? それなのにベテランみたいな動きをする。がむしゃら。小さいのに、全体重をかけてくる。やられてもすぐに立ち上がって、反撃するのが素晴らしい。そういうのを観ると、日本人が小さいからできないという言い訳はできないですね」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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