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ウェールズ代表に「善戦」の日本代表に見る、課題修正能力と戦術共有とは。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ゴールキッカーも務める田村もゲームプランを全う(写真はアルゼンチン代表戦)。(写真:アフロスポーツ)

各新聞社などが配信する電子版速報には「善戦」の文字が躍った。

現地時間の2016年11月19日、ウェールズはカーディフのミレニアムスタジアム。ホームの欧州6強の一角、ウェールズ代表を、アウェーの日本代表が最後の最後まで苦しめた。テストマッチ(国際間の真剣勝負)らしいテストマッチを披露した。

後半39分のドロップゴールで30―33と勝ち越されたが、試合を通じて用意したゲームプランを貫いたか。

体格差に劣るなか、互いが静止していない状態を指す「アンストラクチャー」からの攻撃で活路を見出さんとした。相手がタッチラインの外へボールを出した際は、ラインアウトよりもクイックスロー(素早いボール投入)を多用。スタンドオフの田村優が守備の裏へ短いキックを配し、ウイングの山田章仁がバウンドを味方につける。フルバックの松島幸太朗も、球を持てば水を得た魚だった。

守っても新システム浸透の兆しを示す。接点側から数えて3人目の選手が鋭く飛び出し、接点側の肩でタックル。前半にトライを許した2つのシーンでは力業とオフロードパス(タックルを受けながらボールを繋ぐプレー)に沈められたが、それ以外の折はフィジカリティで見劣りしなかった。

良さがスコアに直結したのが、前半38分だ。

自陣10メートル線付近中盤で守備ラインを敷くこの時の日本代表にあって、鋭く飛び出す役割を担ったのはフランカーの布巻峻介。足元へのタックルで、相手ランナーのボールコントロールを乱す。その後方に入ったウェールズ代表の選手が、苦し紛れにパスを通そうとする。

軌道へ、山田が、入った。約50メートルを独走。インゴールへ飛び込んだ。アウトサイドセンターのティモシー・ラファエレによるゴールキック成功と相まって、ジャパンは13―14と1点差を追う形でハーフタイムを迎えた。なお、このスコアの起点を作った布巻は、テストマッチ2試合目にして地上戦における激しさと落ち着きを保っている。

際立つ課題修正能力

ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチのもと欧州遠征中のジャパンにとって、この試合は現体制下3戦目にあたる。

3勝したワールドカップイングランド大会時のキャプテンであるリーチ マイケル、副キャプテンの1人だった五郎丸歩らは選外となっている。他にも辞退者は続出し、強化責任者の薫田真広氏は「諸事情」とのみ強調。ツアーメンバーの32名中17名が初選出のプレーヤーだった。

そんな苦しい台所事情ながら、12日には敵地トビリシでジョージア代表を28―22で倒す。スローガンに「ONE TEAM」を掲げるチームは、短時間での課題修正能力や戦術共有で、日本のファンを驚かせている。

この日も然りだ。山田のトライを引き出した防御システムは、5日の初戦(東京・秩父宮ラグビー場でアルゼンチン代表に20―54と大敗)では崩壊していた。もっとも大量失点の直後にも、スクラムハーフの田中史朗は「皆の理解しようとする意欲はある」と不安の色を覗かせていなかった。さらにジョージア代表戦を通し、ジョセフヘッドコーチは「課題を修正できた。ジョージア代表にプレッシャーをかけて、ミスを誘ったという部分も多くあります」と太鼓判を押していた。

スクラムでは、フォワード第3列の選手が途中で頭を抜かなければ押されなかった。最前列に入る左プロップの仲谷聖史は、かねて「後ろの押しが緩んで…。もっと意識づけできれば」と話していたものだ。反省を肥やしにしている。

後半に日本代表が場内を沸かせたのは、15分にウイングの福岡堅樹がトライを決めたシーンだ。直後の田村のコンバージョン成功もあり、20―24と肉薄した。

失点直後、自軍キックオフからできた接点へナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィが身体を当てる。ウェールズ代表が守り切れなかったボールを、布巻が飛び込んで制する。

しばし球を継続すると、中央から左へ展開。接点から最初に球を受け取ったフッカーの堀江翔太は、相手防御を引きつけながらほぼ真後ろの攻撃網へパスを繋ぐ。相手と間合いを取ったスタンドオフの田村が、余裕を持ってアウトサイドセンターのラファエレへバトンを渡す。最後は左タッチライン際で、福岡が止めを刺した。

堀江のパスを介した展開は、ジョージア代表戦のクライマックスでもスコアを奪った形。ジャパンは、終盤の得点パターンを確かに共有しているようだ。

弛緩を排除できるか

新体制を支える田邉淳コーチは、ジャパン入りも果たした現役時代にこう言ったことがある。

「テストマッチでは、勝つことでしかその国の威厳は示せない」

そう。いまのメンバーも、決して「善戦」などには喜んでいないだろう。相手に球をプレゼントしたキックの質改善、オフロードパスへの対応(投げさせないか、投げられた先へ鋭く圧力をかけるか…)と、散見された課題の解決法も明日には考えるはずだ。

次なる戦いの舞台は、フランスへ移る。今回のツアー最終戦は26日にあり、相手はフィジー代表となる。フィジー代表は長い手足を活かしたオフロードパスが得意で、改めてジャパンの修正能力が問われそうだ。

選手が「選手主導」を強調する現チーム。緊迫した「善戦」の直後に起こりがちな弛緩を排除し、2勝目を挙げられるか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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