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里咲りさインタビュー ベンチャー企業感覚でインディーズとメジャーの壁を壊したい

宗像明将音楽評論家
里咲りさのアーティスト写真。しかしアルバムで1曲もギターの弾き語りはしていない。

2016年9月7日、アイドルシンガーソングライターの里咲りさがファースト・プレス・アルバム「売れるまで待てない」をリリースした。自ら焼いたCD-Rをタワーレコード流通で販売したことは以前にも紹介したが、そのCD-R「R-and U」は、なんとオリコンのインディーズチャートで9位に。そんなCD-Rの申し子である里咲りさが、遂にプレスされたCDを初めてリリースしたのだ。

CD-Rをタワーレコード流通! シンガーソングライター・里咲りさが目指す世界とは?

里咲りさは、弱冠23歳にして、自身が設立したフローエンタテイメントという会社の代表を務めている「社長」だ。また、2016年7月8日までは「少女閣下のインターナショナル」という奇妙な名前のアイドルグループの運営(スタッフ)にしてメンバーでもあった。

里咲りさは、完全にインディペンデントなアーティストながら「ビートたけしのTVタックル」などテレビ出演も多く、原価の安いタオルを高値で売る「ぼったくり社長」としての姿や、ひょうきんなキャラクターが知られているのが現状だろう。

しかし、「売れるまで待てない」を聴くと、そうしたパブリック・イメージとはまったく異なる里咲りさの姿に驚かされるはずだ。生々しいほどの感情が詰めこまれた「売れるまで待てない」に、私はある種の戸惑いを覚えたほどだ。さらに、バンドだけではなく、生のストリングスまで演奏に参加している。里咲りさはやはり「音楽」の人だと感じるのだ。

私は里咲りさという存在を説明するとき、「大森靖子以来で一番才能のある女性シンガーソングライター」と言うことにしている。

「売れるまで待てない」を完成させた里咲りさに話を聞いた。これは、地下アイドル界隈からメジャー・フィールドを目指すと無謀なことを言っているはずなのに、異様な説得力を持っている戦略家のインタビューでもある。

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CD-Rでオリコンにランクインした後に里咲りさが求める「フック」

―ーテレビなどのメディアに露出して、大きく環境が変化した部分はあるでしょうか?

知名度は上がって、アイドル界隈で「ああ、里咲さん」と言われることも増えたし、「ビートたけしのTVタックル」に出た後は他の番組にも呼ばれて、いろんな事務所のマネージャーさんに声をかけてもらえたので、「テレビすごいな」と思いました。でも、ライヴの現場単位ではそんなに変化してないです。

―ー「ぼったくり社長」よりミュージシャンとして認知されたいという気持ちはありますか?

そうですね。ある時期までは「アイドル」として活動していたいというのが軸としてあるんです。「ぼったくり」みたいなキャッチーなことで短期間で区切りをつけようとしたけど、曲を評価されたりすると、やっぱり息長くこの業界にいたいなと思うので、音楽も評価されたいなと思います。

―ー「この業界」とは?

地下アイドルもやりたいし、話す仕事もしたいし、雑誌にも載りたいし、広い意味で芸能の世界にいたいなと思います。常に自分が前に出たままでやっていたいですね。

―ーCD-Rを自分で焼くことで話題になってきましたが、「R-and U」がオリコンのインディーズチャートで9位になったときはどんな気持ちになりましたか?

「オリコンに入る!」と言っていたけど、インディーズですぐベスト10に入れるとは思わなくて。でも、おかげで「これからまだいけるかもしれない」と思えたし、「CD-Rで初めてオリコンに入った人です、と今後言えるな」と思いました(笑)。ただ、ギネスブックの申請は、CD-Rだと限定的すぎるからダメだって返事が来ました(笑)。売れるためにブーストをかけようとしたのは今年からですね。

―ーそれはどういうきっかけだったのでしょうか?

ソロ活動をちゃんとやるようになったのは、2015年5月ぐらいからなんです。神楽坂TRASH-UP!!(ライヴハウス)ができて、ギターを弾きはじめたんです。少女閣下のインターナショナルもあったので、最初はソロ活動を抑えつつやっていたけど、そのうち「我慢することないな」と思ったんです。2015年に8ヶ月間ソロ活動をしてみて自信が培われたし、年末にいろんな人が私の作品をほめてくれたんです。「もっと頑張れるんじゃないか、こんなにほめてもらっているのにサボっている場合じゃないな、2016年からは人生でもポイントだな」って感じたんです。タワーレコードのCD-Rの流通契約の審査結果が出たのもその頃で、OKだったので2016年1月末に「R-and U」をガーッと出しました。

―ー以前はCDデュプリケーターを使うのも抵抗があったのに、「売れるまで待てない」で初めてプレスCDにしようとしたのはなぜでしょうか?

CD-Rでタワーレコードに置いたり、オリコンにランクインするストーリーも面白かったけど、もうできたので、次のシングルの「WALCALLOID&TURE」のときに「もっと広がりを持たせたい」と感じたんです。今回は、手に取りやすいものを作るためにプレスしました。CD-Rの流通盤が2枚あったので、プレスCDの感動がよりあると思います。私がひとりで焼くのも枚数的に限界だったので(笑)。

―ー2015年の「THE-R」は、アイドルっぽい楽曲から大人っぽい楽曲へ変化するドキュメンタリーのようなアルバムでした。2016年に発売された「A面とA面のあいだ」も生々しい弾き語り集でしたし、「売れるまで待てない」は完全に大人っぽい。この作風の変化はどこから生まれたのでしょうか?

いつも作品を出すときは意識して何も考えないんです。今回は2ヶ月間で今の里咲っぽい、バンド・サウンドっぽいものを作りたかったんです。「カタルカストロ」(2015年のシングル)はアイドルやサブカルを意識したけど、今回は私の趣味ですよね(笑)。でも、これで売れたいと思うんです。「いくつかアイドルっぽい曲も入れたい」と思ってフルで完成していたけど、収録曲を並べたときに「違うんじゃないか」と思って、今回たくさん曲を没にしたんですよね。デモ段階で60曲あったし。

―ー2ヶ月でデモを60曲も書いたんですか?

毎日2、3曲書いて、ピックアップしたものをブラッシュアップして、アレンジャーの灘藍さんに送って相談して選びました。オケまで作ったものもあったけど、今出して違和感があるものは落としました。今回は「シンガーソングライターっぽさを出したいな」と思って、aikoさんや片平里菜さんを研究しました。YUIさんも好きですし、もともと私が好きなものを書いた感じですね。だから心配もありますよね。

―ー心配というのは?

現在のファンの方に受け入れてもらえるかですね。アイドルとは名乗りたいんです。ラジオもやりたいし、いろんな活動をまとめてくれるのが「アイドル」なんです。だけど、出す曲はJ-POPやシンガーソングライターっぽいものにしたいんです。これからライヴアイドルとしては呼ばれなくなって、出ていくライヴが変わるのかなと思いますね。「TOKYO IDOL FESTIVAL 2016」に呼ばれなかったのはなぜかなと思っているんですけど(笑)。

―ー不思議ですよね(笑)。でも、J-POPやシンガーソングライターっぽい曲を出したいのはなぜでしょうか?

「だってね。」(2014年のシングル)のような曲や盛りあがる曲を書き続けるのはもう難しいんです。マスと現場は別に見ていて、それぞれでの作戦も違っているんです。メディアでは、アイドルシンガーソングライター像を印象づけたいな。

―ー里咲りささんは、作品を書くときに自分を投影していますか、それともモデルやイメージを設定しているのでしょうか?

そういうのはないですね。でも、リード曲の「Little Bee」はいろんな要素を意識しました。爽やかでJ-POP感があって……。他の曲は、そういうことを考えてないかな。でも、この時期に読んでいた純文学の本は影響しているかもしれません。曲を書いたのが、少女閣下のインターナショナルの活動休止の時期だったんです。曲を書き始めたのが5月末で、レコーディングは7月末で、プレスCDで聴いてから「少女閣下のインターナショナルの影響が色濃く出ているな」と気づきました。「しんどかったんだろうな」という歌詞がたくさん見つかって。声も曲も、ラストライヴ(2016年7月8日新宿MARZ)の前と後で変わっていて、ラストライヴ後の方が明るくて吹っきれているんですよね。

―ーアーティスト写真もこれまでと大きくイメージが違いますよね、シンガーソングライター然としています。ギターは大森靖子さんと買いに行ったものですね。

ギブソン・ダヴです。カメラマンの方にも、シンガーソングライターっぽく撮ってもらいました。少女閣下のインターナショナルが終わって、私の面白い部分がひとつ終わったんですよ。それまでは「少女閣下のインターナショナルではデタラメをやっているけど、ソロはしっかりしている」というコントラストがあったんです。だから今度は、「ひょうきんなのでマラソン(2016年8月6日に開催された『里咲りさ24分間マラソン〜ヲタは推しを救う〜』)なんてしているけれど、アルバムはしっかりしている」というコントラストを作りたかったんですよ。

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―ーしっかりしているアルバムを、なぜ「売れるまで待てない」という奇妙なタイトルにしたのですか?

「THE-R」(2015年のアルバム)に勝ちたかったし、水曜日のカンパネラさんも好きだし。ジャケットも曲もシンガーソングライターやバンドに寄せたから、タイトルも普通につけてしまうと、何もフックがないじゃないですか? だからタイトルだけ奇をてらったんですよ、「本当は変な奴だぞ」って感じを出したくて(笑)。

「円」のアルバムを作りたかった

―ーそして「売れるまで待てない」はグランジ・ロックのような「さよならキャンディ」で始まって驚きました。「売れるまで待てない」はほぼバンド・サウンドですが、ここまでロックに寄せたのは誰のアイデアでしょうか?

自然発生ですね。私が自分でもどういうアルバムになるかわからないまま作りはじめて、アレンジャーの灘藍さんが正確に汲みとってくれたらどれもバンド・サウンドで、「生で録りましょうよ」ということになりました。「さよならキャンディ」の「キュイーン」とハウリングする音も、バンドっぽく入れてもらったんです。

―ーMVも公開されたリード曲「Little Bee」への反応はいかがでしたか。

関係者からの反応がすさまじかったですね、「歌詞もメロディーも編曲もMVも、どうしてこれができた」とメールがたくさん来ました(笑)。Twitterで見ると、感触としては「カタルカストロ」のMVを出したときぐらいの高評価で、今年の代表曲になるのかなと思います。MVも、アイドル的なものではなくて、でも「里咲りさ」という要素も入っていて、シンガーソングライターでもあって、アイドルファンにもそうじゃない人にも受けるMVができましたね。

―ー「Little Bee」と「ディアティア」は、バンドに加えてヴァイオリンやヴィオラまで入っていて、これまでと音の厚さまるで違いますね。

弾いている方はメジャー仕事をされている方で、しかも曲ごとに違うんです。ストリングスを入れるとJ-POP感やシンガーソングライター感が出るんですよね(笑)。

―ー「Little Be」の歌詞は、好きな相手への憎まれ口も混ざった恋愛感情の描き方が見事です。「カタルカストロ」といい、里咲りささんは恋愛対象へのちょっとした愛憎をイメージしがちなのでしょうか?

自分の中で物語がバーッとできて、歌詞を仕上げるときに「自分ならこうとらえる」っていう視線がすごく入ってくるんですよ。「カタルカストロ」の「先にスタスタ歩くところが嫌い」って歌詞も上から目線じゃないですか? 「Little Be」も「気まぐれに笑うあいつのため / なんでこんな 切ない気持ちにならなきゃいけないの」って歌詞が上から目線かなと。メロディーと映像が一緒に浮かんで、言葉を埋めていく段階で、「こういう状況なら私はこう思うな」と考えました。

―ー「小年小女」もまた展開のめまぐるしいロックです。「Little Bee」や「小年小女」で急に可愛らしい声で歌っているのはなぜでしょうか?

ウィスパー・ヴォイスで歌いました。たとえば「ボーンブレイクガール」とか「TURE」とか、つらい気持ちを叫ぶ曲もあるけれど、里咲りさの声質に合っているのはウィスパー・ヴォイスで、トークでも「声がいい」と言われるんです。自分の声質に一番合ってる曲を書いたり歌ったりしたいし、ウィスパー・ヴォイスっぽいのは変わらないと思いますね。声を届けたいと思うので、聴いていて落ち着く曲にしたくて、今回はそういう曲が多いです。

―ー先行シングルの「WALCALLOID」は、独自の言語によるラップです。ここまでR&B寄りの楽曲はありませんでしたね。

この頃は洋楽を聴きまくっていて、こういう曲がなかったので作りたいなと思いました。「WALCALLOID」の時期はシェール・ロイドを聴いていて、シェール・ロイドをやりたかったんです。アルバムではシングルとミックスが変わっていて、編曲ありきの曲だと思いますね。こういう音をやってみたかったんです。独自ラップもやっているけど、声質に合っているなと思って作りましたね。

―ー「Would Be Good Day」もロック・ナンバー。しかも、なぜこんなに歌詞に英語が多いのでしょうか?

もともと通訳になりたいぐらい英語が好きで、曲もデタラメな言葉で作るんです。「Would Be Good Day」はデモからブラッシュアップしたときに、全編日本語の歌詞も書いたんですけど、「これは英語の曲だ」と思って半分英語にしました。英語のほうが音のハマり方がきれいなんです。

―ー「ファストガール」はプロクラミングのみによるサウンドです。「だってあたしは四六時中 / 感情を持て余して」というのは実際の里咲りささんに近いですか?

そうですね、ここは絶対。少女閣下のインターナショナルのラストライヴの後の曲なので、純粋な気持ちに戻っているんですよ。「終わらないほうが良かったかも」と悩んだし、メンバー兼運営はつらかったから、ラストライヴの後に開放的な気分で書いているんですよね。私が何も持ってなくて、歩いていたり、飛んだりしているイメージで、フラットな気持ちで幸せに書いて、メロディーも歌詞も好きです。ヴォーカルもすぐ録れたんですよね。……今、ソロになって自然だったのかな。

―ーソロでしか「窓辺に小鳥はいない」のような楽曲は生まれないですよね。「窓辺に小鳥はいない」からアルバムは内省的な世界に入ります。

この歌詞、少女閣下のインターナショナルのメンバーを意識していますね。恋愛の曲に聴こえるけど、ここに出てくる「金曜日」ってラストライヴのことなんですよ。「でも、しょうがないな……」という気持ちで書いた曲ですね。この曲だけ長いんで、寝るときに聴いてほしいです(笑)。

―ーピアノだけを伴奏にして、穏やかながらここまで弱さも含めた内面を歌うのは、里咲りささんの新しい側面だと感じました。

灘藍さんから音をもらってバスの中で聴いていたら、外の雨の音が聞こえたので、「雨みたいな音を入れたい」と言ったら「それっぽい音はもう入ってる」と言われたんです。私の鉛筆の音も入っています、面白いかなと(笑)。

―ーたしかに、歌とピアノのほかに何か小さなノイズが聴こえるんですよね。鉛筆で何を書いたんですか?

その時期に繰り返し読んでいた小説を書き写しているんです。小川洋子さんの「ことり」という本で、だから曲名に「小鳥」が入っているんです。

―ー「TURE」は、アルバムの中でもっとも狂おしい楽曲ですね。

これは、少女閣下のインターナショナル時代にエゴサーチをしたときに、「里咲はソロばっかり売れやがって」と書かれていて、怒り心頭で書いた曲です。「みんなのスケジュールもあるし、ライヴができないのは私のせいじゃないのに!」って病んでましたね。「ソロもやっちゃいけないのか……」と悲しかった時期ですね。歌詞は春夏秋冬とか日本的なものを意識しています。徒然草や枕草子とか。「TURE」は徒然草の「つれ」なんです(笑)。歌詞は諸行無常な感じにして、メロディーは叫ぶ感じですね、「歌いたいだけなのに!」って。……こう話していると歌詞って重要ですね(笑)。

―ーいろいろとあって生まれた歌詞なんですね……。そして最後の「ディアティア」も狂おしい楽曲です。アルバム終盤をこうした流れにしたことで、とても完成度の高いアルバムになったと感じました。

本当はこの後にアイドルっぽい曲を入れて急に明るくしようとしたんですけど、終わり方はこういう流れにしたくなったので、「ディアティア」で終わりにしたんです。シークレット・トラックの「最後の曲が決まらない」をアカペラにしたので、ループ再生すると「さよならキャンディ」の冒頭のアカペラに自然につながるんですよ。キーも合わせているんです。円にしたかったんですよ、円盤のアルバムにしたかったんです。だから繰り返し聴いてほしいです。ループすると「さよならキャンディ」や「Little Bee」がアイドル曲の代わりになるんです。

「売れたら」じゃなくて「今全部やりますよ」

―ーそもそも、里咲りささんはふだんどんな音楽を聴いているのでしょうか?

好んで聴くのはスピッツさんやYUIさんとかですね。普通なんですよ。普通にいい曲が好きだけど、自分で曲を書くときは「里咲らしさ」が出るようにすごく意識しています、歌詞や編曲にしても。あと、私はいい曲は世の中にいっぱいあると思っていて、私は曲を作る人として、いい曲を作るのは大前提なんですよ。里咲りさがひとりでCD-Rを焼いていたストーリーを知っている人と、初めて曲だけを聴く人とでは、受け取り方が違うと思うんです。「誰が歌うのか」「どういう物語があるのか」というのがすごく大事だから、物語を作ることも大事だしセットなんです。マラソンとか(笑)。

―ー24分間マラソン、けっこう重要だったんですね……。意識しているアーティストはいるでしょうか?

コロコロ変わりますね、インディーズで上に行って注目されるとメジャーに行くけど、私はインディーズでメジャーに匹敵する動きができる人になりたいんです。壁をブチ破りたいんですよ。もちろんメジャーでやって正解の人もいるけど、私は「ひとりでやっていて面白い」という前例を作りたいんです。インディーズで「里咲りさ」という「メジャー」を作りたいんですよ。大きな事務所に入るタイミングもあるかもしれないけど、まだひとりでやりたいですね。そうじゃないと面白くないし、私がメジャーとインディーズの壁を破らなきゃいけないと思いますね。

―ー里咲りささんはいつも「売れたい」と言いますが、いつ「売れた」と実感できると思いますか?

人によっては「もう売れてる」と言われるけど、私はメジャーの一押しアーティストと張り合うぐらいになりたいです。今の水曜日のカンパネラさんぐらいにはなりたいです。

―ー大きく出ましたね! でも、なぜそこまでインディーズであることを意識するのでしょうか?

私は「メジャーの事務所じゃ受からないや」と思って地下からはいあがったけど、今メジャーに行ったとしても華がないと思うんですよ。面白さがないとダメだと思うんですよね。私はベンチャー企業感覚なんですよ。里咲りさを売るために自分自身でプロデュースしている感覚なんです。里咲りさが売れる方法を考えたときに、大きな事務所よりも自分でやったほうが売れるなと思うんです。

―ーベンチャーじゃないと出せないであろう「売れるまで待てない」という奇妙なタイトルのアルバムがどんな層に届けばいいと思いますか?

アイドルに興味がなくて、「ミュージックステーション」は見るけど現場には行かない人に届いてほしいです。一般的にタワーレコードで手にしてほしいし、一般的にYouTubeでMVを見てほしいし、間口を広げたいです。プレスCDだと配りやすいし(笑)。「売れるまで待てない」というタイトルなのは、「売れたら」とかじゃくて「今全部やりますよ」という気持ちなんです。

―ー「売れるまで待てない」が完成した今、どんなミュージシャンになりたいですか?

とりあえずインディーズでアルバムが5,000枚売れるようになりたいです。5,000枚売って、今の体制でどこまでいけるのかを試してみたいです。私を見ている人も面白いと思うし、でも私ひとりの力じゃないと感じていて、そういう人たちへの感謝を一番にしています。恩を返すには売れるしかないんです。テレビやラジオのお話もいただけるけど、あともう一段階上に行きたいんです。ここから勝負を賭けていきます。

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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