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メッシを追う“120億円の男”に期待するイタリア 「欧州で最も完成されたボンバー」

中村大晃カルチョ・ライター
2016年12月のトリノダービーでのベロッティ(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

アンドレア・ベロッティは、どこまで飛躍するのだろうか。トリノをけん引するストライカーの勢いはとどまるところを知らない。イタリアサッカー界は期待に胸を膨らませている。

◆シェフチェンコ以来のハットトリック

わずか7分15秒の出来事だった。5日のセリエA第27節パレルモ戦、ベロッティは73分から81分までのわずかな時間でハットトリックを達成。圧巻のパフォーマンスでチームを逆転勝利に導いた。セリエでは、2000年1月のアンドリー・シェフチェンコ以来となる早さでのハットトリックだった。

そのシェフチェンコこそ、ベロッティのアイドルだった。かつて元ウクライナ代表ストライカーとプレーし、パレルモ時代にベロッティを指導したジェンナーロ・ガットゥーゾは、「こんなシュートを打てる選手を見たのはシェバ以来だ」と本人に伝えていたそうだ。

実際、ベロッティの魅力のひとつは、シェフチェンコのようなオールマイティーな得点力だ。今季の22ゴールの内訳(右足9、左足5、ヘッド8)がそれを示しているだろう。ただ、『コッリエレ・デッラ・セーラ』は、ベロッティが似ているのはトリノの先輩であるフランチェスコ・グラツィアーニだと報じている。いずれにしても、クリスティアン・ヴィエリなど、偉大なるかつてのストライカーたちとの比較は後を絶たない。

◆大記録も夢じゃない?

今季のベロッティの欠点を挙げるとすれば、PKの成功率だろうか。すでに3本外しており、決めていれば24試合出場で25ゴールと、1試合1得点を上回るペースだった。

とはいえ、ゴールを量産していることには変わらない。直近でリーグ得点王に輝いたイタリア人は、2014年のチーロ・インモービレや2015年のルカ・トーニだが、それぞれ22ゴールだった。ベロッティはすでにそれを上回るペースでネットを揺らしている。

当然、イタリア人としては2006年のトーニ以来となる30得点の大台突破も期待される。また、昨季はゴンサロ・イグアインが36ゴールで66年ぶりに得点記録を更新したが、第27節終了時ではまだ25ゴールだっただけに、3点差のベロッティが夢を追うことも可能だ。

夢はイタリア国内にとどまらない。欧州の舞台でも、ベロッティはゴールデンシュー争いでバルセロナのリオネル・メッシに次ぐ2位に浮上した。リーガエスパニョーラで23ゴールのメッシとはわずか1点差。2007年にローマのフランチェスコ・トッティが26ゴールで手にして以来となるイタリア人アタッカーの受賞を期待する声も小さくない。

◆市場価値はうなぎのぼり

たとえ夢が夢のままに終わっても、23歳と若いベロッティにはまだチャンスがたくさんある。実際、トリノのウルバーノ・カイロ会長は昨年末、エースとの契約を2021年まで延長した。レアル・マドリーやマンチェスター・ユナイテッドといった欧州を代表するビッグクラブが関心を寄せているとあり、国外クラブ向けの違約金は1億ユーロ(約120億円)に設定されている。

ボーナス別で年俸150万ユーロ(約1億8000万円)とされる選手の契約としては、破格の違約金と言えるだろう。だが、パレルモ戦の活躍で、シニシャ・ミハイロビッチ監督は「1億ユーロでも足りない」と述べている。カイロ会長も「今なら1億5000万ユーロ(約180億円)にする」と続いた。

◆ロシアW杯に向けたスター候補

市場価値だけではない。メディアのベロッティに対する評価も右肩上がりだ。『コッリエレ・デッロ・スポルト』は「イタリア代表がワールドカップ(W杯)のためのセンターフォワードを手に入れた」と称賛。『スカイ・スポーツ』に至っては、「欧州で最も完成されたボンバー」と絶賛している。

W杯で2大会連続グループステージ敗退という屈辱にまみれ、2018年のロシア大会での復活を目指すイタリアは、新たなスターの誕生に期待している。同じく好調のラツィオFWチーロ・インモービレとともに、今季からイタリア代表の前線を背負っているベロッティは、その筆頭候補だろう。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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