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【熊本地震】避難して車中泊している方へ、エコノミークラス症候群の予防を

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
車内で泊まる避難者の方へ(写真:アフロ)

熊本での地震が続いており、避難生活が長くなってきてしまいました。

特に避難して車中泊している方へ、「エコノミークラス症候群」について医師の立場から注意喚起を促します。

先に予防法を挙げます。少し長い説明は下に記していますが、読む余裕の無い方はこれを実践してください。すでにこの病気で亡くなった方が出ています。老若男女を問わず誰にでも起こる病気です。

・可能な限り車中泊をしない

・2時間に1回は起きて立ち上がったり体操をする

・水分を多めにとる

エコノミークラス症候群とは何か?

エコノミークラス症候群とは何か。正確な病名は「深部静脈血栓症/肺塞栓症」と言います。

引用します。

長時間足を動かさずに同じ姿勢でいると、足の深部にある静脈に血のかたまり(深部静脈血栓)ができて、この血のかたまりの一部が血流にのって肺に流れて肺の血管を閉塞してしまう(肺塞栓)危険があります。これを深部静脈血栓症/肺塞栓症といいます。

出典:厚生労働省 深部静脈血栓症/肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の予防Q&A (一般の方々のために)

エコノミークラス症候群はJリーガーにも起こる

ここでポイントになるのは、このエコノミークラス症候群は誰にでも起こりうるという点です。本当に誰にでも起こります。若くてもご高齢でも、元気でも、たとえアスリートでも。サッカー元日本代表の高原直泰選手が2002年の日韓W杯前にエコノミークラス症候群になり代表選考落ちしました。当時彼は23歳でした。このことからも、どんなに健康な人でもなることがわかるでしょう。

では、なぜ起きてしまうのか。

人間の体には動脈と静脈の2種類の血管が張り巡らされていて、動脈が心臓から酸素が入った血液の全身への「行き」で、静脈は全身で使われた血液の「帰り」のためのルートなのです。

特に足の静脈は心臓まで遠い上に重力に逆らって帰らねばならないので、足が動く時に筋肉が収縮することを利用してそれをポンプとして「帰り」のためのパワーにします。ですから、長時間もじっとしていると静脈の中の血液はじっとそこに留まってしまうのです。

血液という液体は奇跡のような液体で、どこか怪我をしたり手術中に血管を切ったりして出血すると、いろいろな血を止めるシステムが働いて自動的に止血します。普段はとても都合のいいシステムですが、今回ばかりはこれがあだとなって、じっと留まった血液を固めてしまいます。固まった血液の小さな塊は、徐々に大きくなっていきます。これを「血栓(けっせん)」と呼びます。血栓は文字通り血の塊でどこかに栓をしてしまいます。足の静脈でできた血栓は、ころころと静脈の中を転がり、ゴール地点である肺の血管に詰まってしまうのです。

ひとたび肺に詰まってしまうと、もし大きな血栓がたくさん詰まった場合は救命することはほぼ不可能です。大急ぎで救急車で病院に行っても、極めて厳しい戦いになります。著者も同様の疾患の患者さんを救命出来なかった経験があります。ですから、予防が大変重要になってくるのです。

なお、エコノミークラス症候群という名前は当初エコノミークラスなどの航空機の乗客に起きたことから名付けられましたが、今お話したような「じっと長時間同じ姿勢でいる」という状況であれば、エコノミークラスでなくてもどこでも発症します。

どうやったら予防出来る?

冒頭にも書きましたが、もう一度書きます。

・可能な限り車中泊をしない

・2時間に1回は起きて立ち上がったり体操をする

・水分を多めにとる

・可能な限り車中泊をしない

これは避難中の方には難しいかもしれません。が、倒壊の危険などが少ない建物で夜休めるのであれば、極力車中泊を避けてください。

理由は、車の中だと自由に寝返りもできずずっと同じ体勢を強いられるため、結果として足が動かしづらく血栓ができやすいからです。特に、足がむくんできた場合は血栓ができ始めている可能性があるので要注意です。足のむくみに「痛み」が伴った場合は、迷わず病院に行ってください。危険なサインです。もう一度言いますが、可能な限り車中泊をしないで下さい。

では、どうしても車中泊をせねばならない方へ。

・2時間に1回は起きて立ち上がったり体操をする

・水分を多めにとる

この二つを必ず守ってください。命を守る方法です。水分を多く摂るとトイレの回数が増えるので避難中は嫌だという話を聞きますが、それは絶対に避けてください。水分をとらないと脱水になり、血がどろどろになって血栓を作りやすくなります。

また、ときどき体操をすることは大きな血栓を作ることの予防になります。

そして、こんな風に車の中でも足をときどき動かしてください。これだけでも血栓の予防になります。

「被災地における肺塞栓症の予防について」より抜粋
「被災地における肺塞栓症の予防について」より抜粋

そして水分を多めにとること。水分はお茶よりもお水が良いでしょう。コーヒーやアルコールは利尿作用と言っておしっこから水が出てしまいむしろ脱水になりますので危険です。

また、救援物資として「弾性ストッキング」というものがもう少ししたら配布されるかもしれません。「弾性ストッキング」とはすこしきつめのハイソックスのことですが、これも静脈をぎゅっと外から押さえることで血液が留まってしまうことを防ぎます。ためらわずに履いてください。男性も女性も履く意味があります。

辛い避難生活を続けていらっしゃる方へ。もうひと頑張りです。応援しています。

(参考)

肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン

http://www.medicalfront.biz/html/06_books/01_guideline/

被災地における肺塞栓症の予防について

http://www.ja-sper.org/ja/file/pdf/VTE1.4.pdf

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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