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風邪は薬じゃ治らない 医師の本音

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
夏風邪が流行っているようですが、風邪薬は風邪を治さないって知ってましたか?(写真:アフロ)

お盆を過ぎ、夏真っ盛りとなりました。ここのところ夏風邪が流行しているようで、筆者も風邪を引き数日寝込んでしまいました。風邪を引いたら医者はどう治すのか?そんな本音に加え、「風邪薬」の迷信についてお話ししましょう。

結論を先に書いておきます。

・風邪は風邪薬では治らない

・風邪には栄養と休養を

です。

ああ、夏風邪か・・・

まずは筆者のエピソードからお話ししましょう。

異変に気付いたのはある日のこと。勤務中だった筆者は、同僚医師が設定した低すぎるエアコンの温度に震えながら仕事をしていました。その日の夜にはのどが痛くなり、だんだんと鼻水と咳、頭痛も出現。体じゅうが熱くなり、汗をだらだらかいていました。「ああ、夏風邪か・・・」暑い中で熱を出すというその辛さはよく知っていましたが、今年もかかってしまいました。

翌日は休日だったため筆者は近所のお医者さんにかかり、「風邪ですね、何を飲みますか?」「はい、あれとこれを」というやりとりをしました。家には以前風邪を引いた時のお薬がありましたが、原則としてそのつど処方してもらった方が良いのです。薬にだって賞味期限がありますからね。

そして医師が医師を診察する時は、このようなやりとりになることが多いと思います。自分の症状は自分で把握しているからです。ある2種類のお薬を処方してもらい、帰宅しました。熱を測ると38度を超えていました。

翌朝になると、のどの痛みがひどくなっていました。どうやら首のリンパ節も腫れてしまったよう。その日の予定を全てキャンセルした筆者は、仕方なくお薬を飲み、三食食べて一日中横になっていました。

その次の日。朝起きるとさらにのどの痛みが悪化し、ひどい頭痛にも見舞われました。全身のひどいだるさもあり、熱を測ると38.5度。ため息をつきつつ、その日の手術予定に人手が足りていることを確認して仕事を休みました。その日も同じようにお薬を飲んで、三食食べる以外はずっと寝ていました。翌日起きると体温は38度まで下がったものの、全身の激しいだるさが引きませんでした。結局筆者は2日も仕事を休み、その日も薬を飲み食事をとる以外はずっと寝ていました。その翌日からようやく仕事に復帰できました。

まあ、よくある風邪の経過だと思います。

筆者が飲んだ薬は?

筆者が飲んでいたお薬はロキソプロフェン(商品名;ロキソニンなど)とトラネキサム酸(商品名;トランサミンなど)というお薬。

ロキソプロフェンはロキソニンという名前で有名な、消炎鎮痛剤です。そしてトラネキサム酸は止血剤として使われたり、のどの炎症を抑えるために使われたりするお薬です。

なぜ薬を飲んだのか?

記事の始めに「風邪は風邪薬では治らない」と書きましたが、なぜ飲んだのか、説明しましょう。それにはまず風邪という病気について理解する必要があります。

風邪とは、そもそものどや鼻の粘膜にウイルスという微生物が感染し炎症が起きた状態です。別の病名として「急性上気道炎」とも言います。これは「上気道」=「のどやはなの粘膜」に炎症が起きた状態、という意味です。

この「炎症」を抑えるために、私は2種類の薬を飲みました。「炎症」を抑える事ではウイルスをやっつけることにはなりませんから、風邪の根本的な治療にはなりません。あくまで「のどの痛み」「鼻水」「くしゃみ」など炎症によって起きた症状をやわらげる治療になります。これを「対症療法(たいしょうりょうほう)」(状にする療法)と言います。

つまり筆者は、つらい症状を抑えるだけのために薬を飲んだのです。これは、ウイルス感染というこの病気の本質にはあまり関係がありません。風邪に対する対症療法には2つの意見があって、(1)炎症によるつらい症状を抑えることで免疫を上げ、免疫がウイルスをやっつけて治るという考え方があります。しかし、(2)炎症はウイルスを撃退するために体が起こしているものなので、これを抑えてしまうことは治癒を遅らせてしまっているという考え方も出来ます。どちらが真実なのか結論は出ていませんし、医師によっても意見が異なるだろうと思います。ちなみに筆者は、対症療法の薬を飲んでも構わないと考えています。筆者も風邪の時は飲んでいます。

医者に行くと風邪薬が出るが・・・

風邪で医者にかかると薬が出ますよね。実は、医師が処方する薬のパターンはこの2通りしかありません。

1、対症療法の薬のみ

2、対症療法の薬プラス抗生物質

「1、対症療法の薬のみ」は、私がまさに上のエピソードの時に自分で行った治療です。つらい症状を抑えるための治療ですね。

しかし「2、対症療法の薬プラス抗生物質」は、「抗生物質(こうせいぶっしつ)」が加わっています。「抗生物質」は抗生剤(こうせいざい)、抗菌薬(こうきんやく)とも呼ばれる、「細菌という微生物に対抗する薬」のことです。先ほどご説明したように、風邪はウイルスという微生物による感染です。ウイルスには抗生物質は効きませんから、これは全くの無意味ということになります。筆者は研修医のころ、開業医の医師から「風邪には抗生剤を処方しないといけない」と習いましたが、それはまるで「今から大雨が降るので、日焼けしないように日焼け止めを忘れないように」と言われているような風に感じました。

では、薬を飲まなくても良い?

つまり、風邪の時に飲む薬は、「つらい症状を抑えるために飲む」のであって、治りを早くするものではないということです。ですから、そのために薬を飲むことは構わないと筆者は考えています。大切なことは、それをわかっておく必要があるということです。

専門の学会は、このように提言しています。

ウイルス性のかぜ症候群であれば、安静、水分・栄養補給により、自然に治癒します。抗菌薬も一般的には不要なことが多く、解熱剤も適宜に使用する程度でよいと思われます。ただ、原因がウイルス以外の細菌もしくは非定型病原体によると思われる場合には、それぞれに適した抗菌薬を診断後からでもいいので投与します。

出典:一般社団法人 日本呼吸器学会ホームページ

つまり、対症療法の薬は飲んでも飲まなくてもよいが、きちんと休養をとり、水分や栄養を摂ることが大切です、ということです。

なぜ医者は風邪に抗生剤を出し続けるのか

考えられる理由はいくつかあります。

まず第一には、「目の前の患者さんが細菌感染である可能性を否定できないから」というものがあります。風邪と似た症状のもので、溶連菌感染症という病気があります。これ等の細菌による感染の可能性がわずかながらある、という主張です。そういう医師はCentor criteriaとカナダルールを学ぶことで簡単に診断が出来ます。

第二に、「ウイルス感染の二次感染に対する、あるいは二次感染を予防するために処方する」というものがあります。二次感染とは、ウイルス感染で弱った体や粘膜に対して、今度は細菌が攻撃し感染を起こすというものです。これは高齢者や免疫が弱い患者さんなどではわからないでもないのですが、それでも意味はないでしょう。

そして次には、「患者さんの満足度」が挙げられます。開業医では、その医院の維持のために「よく治ること」と同じくらい「患者さんの満足度」が大切です。風邪で来院した患者に「薬は不要、良く食べて良く寝てください」と言うだけよりも、3,4種類の薬を処方してもらったほうがなんとなく満足するようには思いませんか。

また、風邪=抗生物質という図式が広まってしまっていることにも問題があるでしょう。筆者も患者さん側から「風邪を引いたので抗生物質をください」と言われたことは一度や二度ではありません。無論、そういう風潮を作ったのはこれまで風邪の患者さんにむやみに抗生物質を処方しつづけた医師なのですが。

風邪薬、将来は市販薬しかなくなる?

海外では風邪薬(対症療法のもの)を医師の処方なしで薬局で買えるようにしています。というよりは、保険医療(つまり7割引きでみなさんが受けている医療)では処方が出来なくなっています。近い将来、日本でも風邪で医師にかかっても薬が出せなくなるでしょう。医療費の肥大はますます深刻になっていきますから、この流れは間違いなくくると思います。その時、この記事をぜひ思い出してくださいね。

最後に繰り返しますが、風邪には栄養と休養が一番です。

※開業医の医師の中には筆者と同じ問題意識を持ち、日常診療の最前線で「風邪に抗生剤はいらない」と啓蒙されている医師もいることをここに記します。

※この記事は一般の方を対象としているため、用語の使い方についての医学的な厳密さは追求していません。例えば記事中では「風邪」=「急性上気道炎」=「ウイルス性の上気道炎」としていますが、急性上気道炎には鑑別を必要とする溶連菌感染症などの細菌性のもの、又は致死的になりうる急性喉頭蓋炎なども含まれます。

※本記事は西洋医学的なアプローチのみを議論しており、漢方を含む東洋医学については論じていません。

(参考)

・日本呼吸器学会 かぜ症候群

http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=2

・米国内科学会が2016年1月16日、このような勧告を出しています。一部抜粋します。

ACP and CDC issue advice for prescribing antibiotics for acute respiratory tract infections in adults

Physicians should not prescribe antibiotics for patients with the common cold. Physicians should advise patients that symptoms can last up to two weeks and to follow up if symptoms worsen or exceed the expected time of recovery. Physicians should also explain the risks and benefits of symptomatic therapy and that antibiotics are not needed and may have side effects. Symptomatic therapy is recommended for management of common cold symptoms.

出典:米国内科学会

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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