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熊本地震「企業の防災・BCP担当者はまず何をすべきか」

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
地震後の対応

熊本県を中心に相次いだ地震で、企業活動への影響が懸念されている。九州地方を中心に、大手企業でも15日金曜日の時点から生産ラインを中止する動きが出ている。さらに、長引く余震と、16日(土)の未明には、14日(木)夜に発生したM6.5 の地震を上回るM7.3の「本震」が起きたこともあり、週を開けて、さらに企業活動への影響が大きくなる可能性もある。

企業の防災担当者はまず何をすべきか。項目をまとめた。

(本資料の作成にあたっては、何人かの専門家からも助言をいただきました。お礼申し上げます。また、本資料は私がこれまで取材してきた知見から災害対応の1つの考え方をまとめたものであり、必ずしも正解というわけではありません。ご参考にされる場合は自社の状況を鑑み、自己責任でお使い下さい)

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資料:http://www.risktaisaku.com/sys/news/?p=001406

経営者の関与と、社員への労い・激励

前提として、トップにしっかりとした意識をもってもらうことが望まれる。船長が方向を示さなければ、船は進みようがない。トップが不在なら、あらかじめ防災計画やBCPの中で定めているように代替者に権限移譲し、誰が舵取りを行うかを明確にする必要がある。また、被災地では、様々な困難に直面している社員も多いことから、トップから社員に向け労いや激励の言葉をかける配慮もあったほうがいい。まだ余震や、再び大きな地震や別の災害が襲う可能性も否定できないことから、身の安全を最優先に考えること、二次災害を防ぐことを徹底させることも欠かすことができない。できれば、その時点でわかっている会社の状況、今後の見通しなどを話してもらうことも社員を安心させることにつながる。

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安否の再確認

15日(金)の時点で安否確認が取れていても、状況が変わっている可能性は大きい。本社が非被災地にあっても従業員が被災地に出張やプライベートの理由で行っている可能性もあるため、再度安否を確認し、被災された従業員がいないかを把握する。被災された社員がいた場合、会社としてどのような対応をとるのか、その社員が出勤できないことにより、どの事業にどのような影響を与えるかも確認しておく必要もある。本人が被災しないまでも、家族や知人が心配で出勤できないという人もいるかもしれない。

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被災状況の確認

その上で、自社の被災状況を確認・把握する。各部門とも連携し、施設、設備、IT・通信、取引先、物流など、自社の事業に影響を及ぼすだろう状況をすべてチェックする。復旧にかかる時間や、コストも算出し、これについても事業に与える影響を確認する。

対応(復旧)状況を確認する

被害状況は刻々と変わっている。社会インフラは時間がたつにつれ回復していくだろうし、対応が遅れることにより、後回しにされるものもあるかもしれない。自社の施設についても被災状況の確認と併せて対応状況を把握することが重要だ。

社会インフラの状況はどうなっているのか(停電はどの程度続くのか、水道やガスはどの程度で復旧するのか、物流はどの程度で復旧するのか)、自社施設・設備などの状況はどうなっているのか、など。

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復旧計画の策定

これらの情報をもとに、復旧計画を策定する。「BCPを策定しているのに、復旧計画?」と疑問に思われるかもしれないが、BCPで想定した前提と現実に起きていることでは状況が異なっているだろうし、改めて復旧の方針、目標、方法を確認することは大切だ。地域が大きく被災しているような場合、自社の事業復旧を急ぐあまりに、地域から批判を受けることもありうる。復旧方針は「二次災害を防ぐ、地域に配慮する、事業の継続をする」など、災害の状況や地域の被災状況などを鑑みて考えてみてはどうか。目標は、BCPで決めたRTO(目標復旧時間)内での事業継続を達成させることも大切だが、もう1つは、社員生活をいつまでにどのような状況にするかも考えてみる必要がある。計画の基本は、「何を、いつまでに、誰が、どうやって」を明確にすること。社員には働ける時間的・体力的な限界がある。一人の社員が働ける時間を計算し、交代できる体制を整える配慮も必要だ。

計画を策定する際、被災状況や対応状況を識別した情報で可視化すると、関係者間で状況認識が統一できる。COP(Common Operational Picture)と呼ばれるものだが、これは、時間経過とともに状況の変化も把握できるため、継続的に塗り替えていくことをお勧めする。

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ステークホルダーへの状況報告

忘れがちな点として、ステークホルダーへの状況報告を挙げておきたい。「リスクコミュニケーション」と書きたいところだが、コミュニケーションができないまでも自社の状況は関係者に伝える必要がある。社員、社員の家族、顧客、取引先、株主・・・。それぞれに対し、いつまでに、誰が、どのような手法で、どこまでの情報を伝えるかを整理してみてはどうだろうか。

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記録

最後はこれから起こること、対応をしっかり記録しておくこと。何日、何時にどのような状態になったか。この記録が今後の災害対応能力を高める上で極めて重要になる。

【参考情報】

中小企業のBCPに詳しい岡本正弁護士からは、災害による一時的な離職に対して失業給付が出る情報について提供いただきました。

http://kumamoto-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/kumamoto-roudoukyoku/abckikaku/2016415171729.pdf

記事:中澤幸介

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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