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現金収入ゼロでも快適な暮らし!ゴミ箱から廃棄食品を回収し、持続可能な社会を目指すアクティビスト

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト

ここ3年間、現金収入ゼロのラァエル・フェルマンさんのお財布は、いつも空っぽだ。だが、ラファエルさんの生活は、何ひとつ不自由することなく満たされている。現金なしでも幸せ一杯の同氏が掲げるミッションとは。

「お金のストライキ」続行中

ベルリンに住むラファエル・フェルマンさん(29歳)は、現金収入がゼロ。でも、お金がなくても、家族3人(妻と娘)の生活必需品には困っていない。

ラファエルさんは、週に3度ほど閉店後のスーパーのゴミ箱に捨てられた食料や生活用品を回収し、それらを自宅で利用している。ゴミ箱には賞味期間が切れている商品、パッケージに穴が開いている、色が黒ずんでいる果物など売ることの出来なくなった品がところ狭しと捨てられている。それらはあまり見栄えのよくないものばかりだが、ほとんどは使えるものばかりだ。

スーパーのゴミ箱は「びっくり箱」というヴィーガン(酪農製品を食べないベジタリアン)のラファエルさん。ドイツでは、廃棄物であってもゴミ箱から回収し、無断で持っていくのは違法だ。でもラファエルさんを咎める人は誰もいない。 

ゴミ箱を漁る?と聞くと、職もなく現金収入がないため、やむを得ず日々の生活のために食料品を収集しているのではと思うかもしれない。

だが、ラファエルさんは、この生活スタイルを自分の意思で選んだ。現金なしの生活を懸念する周辺の心配をよそに、ラファエルさんはお金をほしいとも思っていないし、寄付をしてほしいとも思っていない。

家族の住まいは、友人宅の一部。庭仕事や掃除などを手伝うことで家賃や光熱費を無料にしてもらっている。家具は廃棄物や寄付で入手しているそうだ。毎月2回、ヴィーガン仲間が集まり、ブランチを開催し、その時、要らなくなった衣類や家計品の交換も行う。

ラファエルさんは、こうした自身の生活スタイルを「お金のストライキ」と呼んでいる。そしてこのストライキは今も続行中だ。このストライキをはじめてからは、色々なことに縛られることがなくなり、気持ちが楽になったという。

あまりにも無駄が多すぎる消費社会

スーパーのゴミ箱から使えるものを回収していくうちに、ラファエルさんは家族で消費しきれない程の廃棄品の多さに驚いた。友人や隣人、生活に困って入る人たちと食料や生活用品を分かち合ったが、それでも有り余るほどの食料品を回収することが出来た。

世界のどこかで食料難で困っている人がいるのに、廃棄品再利用を個人レベルに留めておかず、人助けに活用できればと思った。

貧困で今日食べるものもない人がいる一方、飽食状態の先進国では食料廃棄が何の罪意識もなく行われている。食品を捨てるということは、食品を生産するまでの電気や水、動物や植物、つまり地球上の資源をポイと捨てしまうことと同じだ。

お金を得ることよりも、もっと大事なことがあるはず・・・世界的規模の水や食糧の不足、気候変動による環境破壊は、ラファエルさんにとって耐えられないことという。このような背景から、ラファエルさんの興味は持続可能な社会つくりに向いていった。

そして、ラファエルさんは、最寄のスーパーマーケット3店にメールを送った。まだ食することの出来る食料品や生活用品を捨てるならば是非譲ってもらいたい、いかに無駄が多いか、世界には1億人以上が食糧難で餓えている、それと同じ位の人が肥満である、世界中で毎日100万人以上が空腹で命を失っているなどを訴えた。

しばらくたって、待ち望んでいたスーパーマーケットからの返答を受け取った。ベルリンのオーガニックスーパーマーケット・ビオカンパニーの店長ゲオルク・カイザーさんがラファエルさんに賛同して、廃棄食品を定期的に提供してくれるというのだ。

そのおかげで、2012年4月からラファエルさんはゴミ箱を漁る必要はなくなった。同時に地元のパン屋でもゴミ箱行きとなる売れ残りパンを提供してくれるようになった。

また、ビオカンパニーの支店でも廃棄品を提供してもらうようになり、ラファエルさんの友人がそれらを回収している。カイザーさんによれば、ラファエルさんへ食料を提供するようになってから、ビオカンパニーの食料廃棄量はゴミコンテナ2つから1つに減ったそうだ。

人生に必要なものは何かを知ったメキシコ旅行

ラファエルさんは、子どもの頃から億万長者になリ、そのお金で困っている人を助けたいという夢を持っていた。EUを代表するポストにつけば、自分の夢を実現する一番の近道になると考え、オランダ・デンハークの大学でヨーロピアンポリシーを学ぶことにした。ちなみに彼の父親は建築家、母親はアートセラピスト。

そんななか、友人の結婚式に招待されデンハークからメキシコへ行くことになった。仲間と一緒に無銭旅行を計画し、道中は働きながら稼ぎ、そのお金で必要なものを入手し旅した。寝泊りや食事は、行き当たりばったりで路上や通りすがりの人に助けてもらい、陸路と海路のヒッチハイクを続けた。

2010年1月に出発してから11ヵ月後、メキシコに到着した。折しも、カンクーンで11月29日から第16回国連気候変動枠組み条約締約会議(COP16/ COP/MOP6=環境会議)が開催されていたこともあり、無銭旅行で無駄のない生活を過ごしたラファエルさんは、環境について考える機会を得た。

話は前後するが、メキシコに向かう道中、南米ギアナ地方でのちに妻となるスペイン・マヨルカ島出身のニエベスさんと知り合いになった。メキシコでニエベスさんが妊娠していることがわかると、二人はラファエルさんの故郷ベルリンに戻ることにした。ラファエルさんがヨーロッパを離れて15ヶ月が過ぎていた。

ラファエルさんがメキシコ行きで得た大きな収穫は、人生の伴侶ニエベスさんに出会ったことだけはなかった。無銭旅行を通して、現代の消費社会ではいかに多くの無駄が多く、不要なものが溢れているかを再認識したことだ。そして、本当に人生に必要なものは何かに目覚めたそうだ。

次の世代にどんな世界を残したいですか?

現金ゼロの生活スタイルは、お金のストライキというよりは、ラファエルさんのミッションと言ったほうが正しいかもしれない。

現在、彼はフードシェアリング運営に参加し、ベルリン地区を担当しながら消費者レベルのフードバンク運動を広めている。さらに、ウィキリークスならぬ[www.westeleaks.org. ウェステリークス]というポータルサイトを立ち上げ、食料品の無駄について見直してもらいたいと訴え続けている。メディアでラファエルさんのライフスタイルが注目されるようになり、 環境倫理をテーマに学校やイベントでの講義依頼も国内外から来るようになった。

「地球からの贈り物をもっと大切にしよう。有限な資源を循環して子どもの代まで自然溢れる住みよい社会を、そして笑顔溢れる社会を持続していこうではないか」

ラファエルさんのこのミッションに賛同する人が増え続けている一方、彼のライフスタイルを変わっていると批判する人もいる。

だが、ここで思い返してほしい。30年前、人々は、原発反対者や同性愛者などを変わっている、頭がおかしいと見なし非難した。

それが今はどうだろうか?

もしかしたら数十年後には、ラファエルさんを批判する人はいなくなるかもしれない。

地球温暖化や貧困、経済危機と世界規模で起こっている困難に立ち向かうには、ラファエルさんの掲げる「持続可能な社会つくり」ミッションが次世代の子どもたちの生活を守る導引のひとつになるに違いない。

あなたなら、次の世代にどんな世界を残したいですか?

ドイツをもっと知りたいあなたへ

ドイツ人は節約好きといわれますが、ことゴミに関しては寛大?なようです。食料廃棄は、一人当たり毎日220グラム、家庭で出る量は年80キロ以上です。また、家庭での食料廃棄物は、年間22億ユーロ(約2860億円)というから驚きです。

フードシェアリングについて。

まだまだ食べられる食料が無残に捨てられることを少しでも防ごうというコンセプトからはじまったフードシェアリングは、ケルンを本拠に開設されたインターネットプラットフォームです。

ホームページを覗いてみると、どの街でどんな食品が提供されているか独国内の地図に掲載されている。手作りジャムや食べきれない缶詰など提供品は一品でも可能で、提供場所や賞味期限なども公開されている。とにかく捨てる前にこのサイトを利用してもらいたいという。

レストラン、農家、スーパーマーケット、個人など誰でも登録すればこのサイトの利用が可能。そしてそれら食品が必要な人は、最寄のフードシェアリング指定場所や個人宅へ出向き、ピックアップする。もちろんすべて無料だ。

これまでフードシェアリングでは、4,600キロの食品を収集し、提供してきた。現在ユーザーは国内で1万7千人ほど。2014年までには、全世界にこのフードシェアリングを広めたいそうだ。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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