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台風予報円はなぜ出来たか?(1)予報官達の苦労 「扇形表示」から「予報円表示」へ

饒村曜気象予報士
7月24日15時の台風12号の進路予報

台風12号が南西諸島に接近し、沖縄本島には明日早朝には予報円がかかって台風の中心が接近する可能性が高いことを示しています。いまでは予報円が当たり前のように使われていますが、この予報円を36年前に作ったのは私です。

気象庁では、予報円を作るなど本業である防災情報改善などのかたわら、ちょっとした知恵があれば被害が軽減できるのではと感じ、テレビ出演や取材対応、わかりやすい著作などを積み重ねてきましたが、今後、各種防災情報の成立過程やその効果的な利用法などを発してゆきたいと考えています。

何とか進行方向だけでも当てようとした戦後の台風予報

実は台風予報円が最初に使われたのは1982年6月の台風5号からです。戦後の日本は、大きな台風災害が相次ぎ、死者が4桁(1, 000名以上)の大惨事となるのが珍しくありませんでした。それを何とか減らせないかと予測の上でも様々な努力がなされてきました。

台風の扇形表示
台風の扇形表示

たとえば台風予報の扇形表示もその1つです。台風の24時間先予報において、気象庁では、台風の進行方向だけでも予報しようと、1981年までの約30年間、誤差幅をつけた「扇形表示(進行速度は難しいので一本の線上に表示)」を使っていました。第二次大戦後の相次ぐ台風災害の中で、予報精度が非常に悪くても、何とか進行方向だけでも正しい予報を出して防災に役立てようとする当時の予報官達の苦労の結晶が「扇形表示」です。

しかし、最初から大きな欠点を持っていました。それは、予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類があるのですが、扇形表示ではその形から、進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせてしまったことです。

図1 台風の進路誤差を端的な数字で表す2つの方法
図1 台風の進路誤差を端的な数字で表す2つの方法

扇形表示から予報円表示へ

そこで考えられたのが、「予報円」を用いた表示方法です。台風の予報誤差には,進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると,両方の誤差がはぼ等しくモデル図(図1)の様に予報位置を中心とした分布となっています。精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。予報の精度を簡単に表すには,この予報位置のまわりにどれ位集中してくるかということを示せば良いのですが、これには2通りの方法があります。一つは一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法(図1のA:ここでは70%が入る円の大きさ)で,もう一つは,予報位置の回りに一定の大きさの円を描き,この円内にどれくらいの予報が含まれているかで表わす方法(図1のB:ここでは150kmの円内に入る割合)です。

気象庁の発表する予報円表示の予報円は,表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、前者の方法、つまり、円の中に70%の予報が入るということで半径を決めた予報円を採用しています(採用当初は60%でしたが、すぐに70%に引き上げられました)。

このため、予報円の半径は、ほぼ台風の進路予報誤差の平均に対応しています。

(続)

台風予報円はなぜ出来たか?(2)進化する予報円

図1の出典:饒村曜(1993)、続・台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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