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過密ダイヤの羽田空港の安全を支える14台の風向風速計

饒村曜気象予報士
東京都 羽田空港(写真:アフロ)

滑走路上の風の状態によって飛行機の揚力が変わりますので、滑走距や操縦性に大きく影響します。

風の状態によっては、使用する滑走路を変更したり、飛行機に積む荷物の量を加減します。

このため、風の観測値は、時事刻々と管制官やパイロットなどに伝えられています。

滑走路の両端付近に風速計

空港には滑走路の両端近くの飛行機が地面から離陸、あるいは、地面に着地する場所の近くに風速計が設置されています。

ここが、飛行機にとって一番風の影響を受けて事故が起きやすい場所であるからです。

滑走路は風向によって両方向で使いますので、両端付近の2ヶ所に風向風速計を取り付けた塔が作られています。

そして、地表から約10メートルの所に2台の風向風速計が取り付けられています。

万が一の故障に備えての2台ですが、何かあったらすぐに予備機に切り替えが出来るように予備機も観測機と同様に作動しています。

つまり、1本の滑走路に対して、4台の風速計が作働しています。

羽田空港は滑走路が4本ありますので、原則からいえば、16台の風速計の設置ですが、A滑走路とB滑走路が交差している場所で兼用が行われていますので、合計14台の風向風速計が設置されています。

同じ羽田空港内といっても、滑走路によって風向や風速が多少異なりますが、この違いまで考えないと、1時間に60機以上、つまり、1分間に1機以上の離発着という過密な羽田空港を安全に、しかも、ほぼ定められた時刻通りに運用できないのです。

図は、羽田空港の滑走路と風向風速計のおおよその位置です。

A滑走路の北側と南側、B滑走路の東側、C滑走路の北側と南側、D滑走路の東側と西側の7ヵ所、14台です。

羽田空港の風の代表は、C滑走路の北側となっていますが、ここが障害の場合はB滑走路の東側に代表が変更になります。

図 羽田空港の7箇所の風向風速計の位置
図 羽田空港の7箇所の風向風速計の位置

図で、点線で囲った部分が昔の砂州で、移転前の穴守稲荷があった鈴木新田の中に羽田空港ができています。

羽田空港は、拡大につぐ拡大で沖合いが埋め立てられて巨大な空港になっています。

風向風速計の位置は滑走路の運用で変わる

滑走路脇のどこに風向風速計を設置するかは、滑走路の運用によって適宜変わります。

たとえば、平成25年には、より大型機が離発着出来るようにC滑走路を南に伸ばす工事が行われましたが、この工事期間中のC 滑走路の短縮運用時には、南端の風向風速計を北に210メートル移動しています。

風向風速計の色はカラスにより灰色

気象庁で用いる測器類の色は、通常は周辺の環境に溶け込むように灰色等が使われていますが、空港で用いる測器ということで、最初は赤く塗られています。しかし、カラス等の攻撃による風向風速計の破損が起きています。

赤色系は肉や血の色であることから、カラス等が興味を持ちやすいことがわかり、現在は灰色に塗っています。

風向風速計の塔はすぐに壊れる構造

滑走路脇の風向風速計の塔は、暴風が吹き荒れても大丈夫な強度があるのですが、事故等で飛行機が衝突することを考え、飛行機が衝突した時はすぐに壊れる特殊な構造となっています。

非常に高価で人命がかかっている飛行機のほうを守るのです。

日米の羽田増便

日米両政府は今年の2月18日の航空協議で、羽田空港を昼間に発着して米国と行き来できる路線を設けることで合意しています。

今秋にも、羽田を発着する米国路線が、現在の1日8往復から12往復に増え、このうち10往復はこれまでゼロだった昼間の時間帯になると思われます。

羽田空港は、益々過密ダイヤになってゆきますが、それを支えているのは、14台の風向風速計等、多くの観測機器による詳細な気象観測です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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