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長崎県・熊本県で記録的豪雨 警戒を呼びかける「記録的短時間大雨情報」とは

饒村曜気象予報士
豪雨で増水した河川(写真:アフロ)

梅雨前線の活発になったため、九州北部では大雨となり、6月20日から21日にかけ、記録的短時間大雨情報が次々に発表されました(図1)。

図1 地上天気図(平成28年6月20日21時)
図1 地上天気図(平成28年6月20日21時)

この記録的短時間大雨情報には2種類があります。

より一層の警戒を呼びかける「記録的短時間大雨情報」は2種類(アメダス観測雨量と解析雨量)

気象庁では、大雨警報発表中に、数年に一度程度しか発生しないような激しい短時間の大雨が観測されると、「記録的短時間大雨情報」を発表します。この情報は、現在の降雨がその地域にとって災害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量であることを知らせ、より一層の警戒を呼びかけるために発表するものです。「記録的短時間大雨情報」は、アメダスなどの地上の雨量計による観測雨量、または、気象レーダーと地上の雨量計を組み合わせた分析(解析雨量)で、定められた基準の1時間雨量を超えたときに発表します。

本文は「○時」で「○時までの1時間に」の意味を表し、「府県名」、「記録的な短時間の大雨」、「観測した観測点名(解析した市町村名)」、「雨量」という構成です。ただし、解析による発表では、地名に「付近」、雨量に「約」という言葉がつき、雨量は10mmきざみで、120mmを超える場合は「120mm以上」と表現されます。

記録的短時間大雨情報の発表基準は、1時間雨量歴代1位または2位の記録を参考に、各細分区域ごとに決めてあります(表1)。このため、一番低いのは北海道根室支庁と新潟県佐渡などの80mm、高いのは高知県や鹿児島県、宮崎県などの120mmと、1.5倍の差があります。

表1 記録的短時間大雨情報の発表基準
表1 記録的短時間大雨情報の発表基準

気象レーダーと地上の雨量計を組み合わせた分析

図2 レーダーとアメダスによる雨量観測
図2 レーダーとアメダスによる雨量観測

気象レーダーは、電波を使って広い範囲の雨の分布や強さを連続的、面的に観測できますが、地上の雨量を直接測定するものではありません。一方、アメダスはその地点の雨量を正確に観測できるといっても、アメダス観測所の配置は、約17km四方に1ケ所の割合でしかありません。解析雨量は、レーダーとアメダスのそれぞれの特徴を生かし、レーダーの連続的、面的な情報を、アメダスの実測雨量で較正することにより得られる雨量情報です(図2)。

各地のレーダーで観測したデータは、アメダスの雨量計で較正し、レーダー観測に伴う各種誤差を最小にするように処理され、降水短時間予報や記録的短時間大雨情報などに使われています。このような雨の解析、予報システムは世界的に見ても進んだシステムです。

平成28年6月20~21日の「記録的短時間大雨情報」

平成28年6月20~21日の九州北部の記録的短時間大雨情報が、長崎県と熊本県に発表されましたが、両県とも、発表基準は1時間雨量が110ミリとなっています。

表2 平成28年6月20~21日の「記録的短時間大雨情報」
表2 平成28年6月20~21日の「記録的短時間大雨情報」

そして、32回の発表のうち、アメダスのみの観測での発表が3回です(表2)。

22時10分長崎県で記録的短時間大雨 雲仙岳で115ミリ

23時50分熊本県で記録的短時間大雨 山都町原で115ミリ

00時10分熊本県で記録的短時間大雨 甲佐で139ミリ

残りの29回が、解析雨量による発表で、地名の後ろに「付近」がついており、「約110ミリ」「約120ミリ」「120ミリ以上」のどれかという情報です。

今回の豪雨は、熊本県甲佐町で、1時間に150.0ミリを観測していますが、これは、歴代4位に相当する記録的な雨です。このような記録的な雨は、気象庁のアメダスの観測網にかからないほどの狭い範囲で降ります。

気象庁では、アメダスの観測値だけでは記録的短時間大雨情報の発表基準の110ミリに達していないことが多いのですが、レーダーの助けを借りた解析雨量を使い、少なくとも、1時間110ミリ以上の強い雨は多少の誤差があっても見逃さない体制で警戒を呼びかけているのです。

追記:

記録的な豪雨は東に移動し、宮崎県でも21日3時30分に綾町付近で120ミリ以上、小林市付近で約120ミリという、記録的短時間大雨情報が発表となっています。これらは、ともに、解析した(推定した)雨量です。また、宮崎県の記録的短時間大雨情報の発表基準は120ミリですので、綾町付近・小林市付近以外の宮崎県で約110ミリの雨が観測された可能性があります。

追記2:

長崎県では、22日6時20分に長崎市付近で120ミリ以上という、記録的短時間大雨情報が発表となりましたが、これも、解析した(推定した)雨量です。

図2の出典:饒村曜(2012)、お天気ニュースの読み方・使い方、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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