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【龍神、リオへ挑む】日本男子バレー、ワールドカップへの収穫と課題

大林素子スポーツキャスター、女優

リオデジャネイロ五輪の出場権を争うライバルの1つ、韓国にホームで連勝した日本男子バレーボール、龍神NIPPON。

韓国戦での印象を個別にみていくと、やはりまずは初戦でMIP(Most Impressive Player)の浅野博亮。

浅野、178cmでも世界に通用と証明

このチームに入って当初は南部正司監督的にはピンチなどで流れを変えてくれるとか守りに期待してのポジションだったように思う。石川祐希が帯同できなかったり、膝の調子が気になるときなどにスタメンに入る機会があり、この大阪での韓国戦2試合にも先発出場した。

本人自身も、守りの選手じゃないんだぞ、世界相手に攻撃も通用するんだっていうのをアピールした。V・プレミアリーグでもそうだが、彼の前には常に高いブロックがいることで、それに対して確実にブロックアウトなりリバウンドを取ってきた、そういった能力や安定した技術を世界に対してもしっかり出していた。浅野は178cm。小さいバレーボーラーの目指す一つの形、象徴になったと思うし、そういう技術はこの南部ジャパンのアタッカー全員がやらなければならないこと。

2mクラスが多い男子で178cm、全日本ではどうなのかなと本人も周りも一瞬はそう思ったかもしれない。しかしやれるんだということを証明してくれた。ただ、今回は登録されていないが、同じタイプとして米山裕太もいる。そんな意味では、浅野にとっては勝負の年、いいスタートが切れたのではないかと思う。

日本男子バレー代表はまだ層が厚いとは言えないと前に書いたが、若手や浅野ら新しい選手を入れたことで層を厚くする準備はできてきている。一人ひとりが伸びることが全日本の大きな地層になるので浅野のこの2戦はすごく大きかった。

石川、柳田は「持っている」

ワールドカップへの課題を語る石川祐希
ワールドカップへの課題を語る石川祐希

韓国との2戦を見ても、やはり石川祐希、柳田将洋は「持ってる選手」。どの試合、どういう状況で出ても何かやってくれる。

初戦、石川はスタメンを外れていたが、ピンチサーバーで出てサーブポイント。試合中、直前に「いくぞ」と言われてアップして、いきなりエースを決めちゃう、普通じゃない。「持ってる選手」とはそういうこと。ただ、それでもまだまだやることがたくさんあると言う。攻撃の手ごたえはつかめてきたのかなとも思うが、京都でのフランス戦でサーブレシーブで狙われて崩れてしまったりもあった。ワールドカップに向けては「ディフェンスが大事」と明確な課題と収穫をもっている。

柳田も特に2戦目など素晴らしかった。

浅野と対角で入るときは「浅野さんがレシーブ(守備)をやや厚めに、攻撃は僕がやや厚めにというのが役割」と言っていて、初戦は「(浅野に)頼ってしまった。明日はしっかりやっていきたい。自分自身評価できるのはサーブだけ」と謙遜していた。

またリベロの酒井大祐から言われていることに「ボイスを出していこう」と、つまりはトスを呼ぶときにいいタイミングで声を出して呼ぼうということ。トスを呼ぶ瞬間というのはみんながわーっと声を出すのでセッターに聞こえにくい瞬間があるものだ。柳田はタイミングよく声が出せていなくてセッターに聞こえていないときが多々あるらしい。そういう部分も「いい状態でトスを呼べるように、また手を上げたりしてアピールしていきたい」と話していたが、若手の修正能力は速い、そういう課題も一つ一つクリアしていっている。

栗山はうまさと豪快さの両面で

栗山雅史には大きな選手になってほしい
栗山雅史には大きな選手になってほしい

彼らの活躍を見て、同じポジションの栗山雅史はどうするか。南部監督のやりたいバレーをいち早くマスターし、いい状態でチェコ戦でスタメンで出て活躍。しかし若手の柳田がフランス戦2戦目から調子を上げてきて、韓国戦はワンポイントでしか出番がなかった。

栗山には技術的なものをすごく求められているけれど、一番の持ち味は「打ち切れる爆発力」だと私は思っている。「全日本の中で求められているリバウンドやブロックアウト、うまく攻撃するということにとらわれすぎちゃったときに自分の持ち味が出せていない」と本人も話していた。先発で出たフランス戦初戦など彼の中で葛藤があったのかなとそんなふうに見えた。うまい選手なので今までやってきたのとは違うプレースタイルにもなれるのだけど、栗山の本来はじゃあどっち? という。ハイセットとか難しいトスを思い切り打ち切って決めて乗っていくみたいなのが栗山でもあるので。そういうところもあっていいのではと思う。「まずは与えられたポジションを精一杯こなす」と言う。うまさと豪快さ、両面できるような大きな選手になってほしいと思う。

山内に出てきた貪欲さと自信

高橋健太郎も含め「NEXT4」には「何か」を期待
高橋健太郎も含め「NEXT4」には「何か」を期待

NEXT4で言えば、ミドルの山内晶大は自ら点を取りにいくんだというバレーに対して貪欲な気持ちが形になってきているように感じた。自分もできるという自信がでてきたと話していた。198cmの出耒田敬と合わせ、204cmの山内とやはり2m級が真ん中にいるというのは世界と戦うためには必要。ミドルの存在感が出てきた。

すごい切り札、高橋がいる

もちろん今回リハビリ中だった、大阪ラウンドをコートの外から見ていた高橋健太郎の思いも。試合前に話を聞いたら、「正直試合を見るのはつらい。自分がこのコートに立ったらのイメージができない、それくらいNEXT4の他のメンバーが活躍しているのを見るのはつらいことでもある」と。私もけがをしていたときそうだったが、それでも見ていることによって学べることはたくさんある。高橋も「自分は期待されていて、可能性があるとありがたい言葉をいただくけど、その期待だけで終われないから、ワールドカップで帰ってこれるよう頑張ります」と言っていた。つらい思いを経験した選手がコートに戻ったとき、今までにないバレーへの思いが人を大きくしてくれるものなのだ。清水という大きな存在がいるけれど、またもう一つ大きな戦力が控えているぞと。すごいのがまだいるぞと。切り札があるのです。

変わろうとしている清水、幅が出てきた

そしてキャプテンの清水邦広。韓国戦ではとてもリラックスしてプレーできていたように思う。前に書いた変化、新たなプレースタイルが見えた。「ここが大事、ここで1本というときに、強打するのではなくブロックアウトを狙ったり、リバウンドをとってつないで切りかえす。そういうことがやっていきたいことだし、韓国に対してもどう戦えば勝てるかといったことがイメージできた。手ごたえあります」と話していた。選手というのは練習してきたものが実践でできた瞬間に確信になる。習得できた、これできると自信になって次から次へとそのプレーができるようになるというものだ。清水もこの2戦、100%、120%でガンガン打つというのは少なかったように思う、むしろ8割、7割でコースを打ち分けたり、ブロックアウトを狙ったり、フェイントしたりと幅のあるプレーが出来ていた。決定率の高さ(初戦:52.94%、2戦目:58.33%)も物語っている。すごく自信になったと思う。一つ上がったなと。

ワールドカップに向けて、もっと違う、さらにすごいぞという頼りになる選手になってくれそうだ。

酒井、永野という守護神の支えあってこそ

若手を支えるのはリベロの酒井大祐(中央)ら守護神。ミックスゾーンで話を聞く大林(左)
若手を支えるのはリベロの酒井大祐(中央)ら守護神。ミックスゾーンで話を聞く大林(左)

その清水を負担にならないようにと支えているリベロの酒井大祐。どの選手にも声をかけたりして陰でいろんなサポートをしている。攻撃が決まるということは酒井なり他のレシーバーがディグし、正確なパスを入れているから。「永野(健)さんは強打レシーブがすごい。やわらかいボールやちょっとしたボールを優しく的確に入れるのが僕の持ち味」というように、パスに愛情が感じられた。アタッカーがこれだけクローズアップされているのは酒井そして永野の2人の守護神に支えられているからだ。

兄弟で全日本セッター、よき理解者よきライバル

サポートという意味では、深津兄ことセッターの深津旭弘とミドルの鈴木寛史にもふれておきたい。

深津は京都のフランス戦の初戦はスタメン出場したが、今は基本は2枚替えで途中から入る役割だ。ちゃんとたすきをもらい、渡す役割ができている。弟の英臣とはトスのタイプが違う、いろんな違った展開もできる。前半はアタッカーとのコンビや経験が少なかったが、ここにきてだいぶあってきた。チームとしてセッターも整ってきた。兄弟で全日本のセッター。2人にしか分からない思いもあるだろう。2人ともが言うのは「とにかく勝つために力を合わせる」ということ。よき理解者そしてよきライバルとして頑張ってほしいと思う。

若手活躍を支える鈴木、いい状態で戻ってきて

鈴木寛史には完璧な状態にして戻ってきてほしい
鈴木寛史には完璧な状態にして戻ってきてほしい

今回腰痛で悔しい無念の欠場となってしまったすーさんこと鈴木。

それでも若い選手が活躍しているのは、鈴木の存在があってこそでもある。山内も「ブロックなど跳び方や考え方とか、手取り足取り教えていただいた」と話していた。短い期間だが鈴木から学んだものは大きかったと思う。

鈴木はこの2試合の若手の活躍でもしかしたら不安や危機感を感じたかもしれないが、そこはベテラン。リハビリをしていい状態で帰ってきて、どんなプレーを見せてくれるのか。それも楽しみにしている。何よりチームの中でのリーダーシップとか存在感があるので、完璧な状態にして戻ってきてほしいと願っている。

ここからが面白い

若い選手、新しい選手の中では1日1日、収穫があってまた課題が出てという積み重ね。毎日変わっていくのが、成長がコートサイドで見ていると本当によくわかる。頼もしくプレーしていると感じた。

試合に慣れてきているし、いろんなことを経験している。

いろんな選手を使い、戦術の基盤を作る、それがワールドリーグ。

また清水ら先輩もリーダーとして、新たな全日本男子の地層をつくるため、また個々も新しいプレースタイルを習得し、変わろうと日々戦っている。

選手同士で戦い争うことによって、本当の意味でチームになっていく。ここからが面白い。

ワールドカップバレーの組み合わせ決定

ワールドカップへ向け清水邦広も進化中!
ワールドカップへ向け清水邦広も進化中!

今季最大の目標である「ワールドカップバレー」開幕まであと2ヶ月。組み合わせも決まりました。

進化を続けている男子バレー日本代表、応援してあげてください。

■ワールドリーグ2015の結果(日本バレーボール協会)

ワールドカップバレー2015の日程・組み合わせ(日本バレーボール協会)

■龍神NIPPONのメンバー(日本バレーボール協会)

スポーツキャスター、女優

バレーボール全日本女子代表としてソウル、バルセロナ、アトランタ五輪をはじめ、世界選手権、ワールドカップにも出場。国内では日立や東洋紡、海外では日本人初のプロ選手としてイタリアセリエAで活躍した。現役引退後は、キャスター・解説者としてバレーボール中心にスポーツを取材。日本スポーツマスターズ委員会シンボルメンバー、JOC環境アンバサダー、JVA(日本バレーボール協会)広報委員、JVAテクニカル委員、観光庁「スポーツ観光マイスター」、福島県・しゃくなげ大使としても活躍中。また、近年は演劇にも活動の場を広げ、蜷川幸雄作品や『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』などに出演している。

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