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シリアの樽爆弾の非人道性の本質

JSF軍事/生き物ライター
2014年1月31日、ダマスカス近郊のダラヤでアサド政府軍が投下した樽爆弾(写真:ロイター/アフロ)

 シリア内戦でアサド政府軍が使用している樽爆弾の非人道性に付いては度々報道されています。しかし報道には誤解が多く、そもそもなぜ非人道的なのかという指摘もされておらず、理解が進んでいないのが現状です。そこで樽爆弾の構造と使用方法を解説して問題の本質を紹介したいと思います。

樽爆弾の構造

 樽爆弾とはその名の通り、樽やドラム缶に爆薬などを詰めて起爆させるだけの原始的な代物です。内容物には大きく分けて三種類があります。爆薬と金属片を詰めた爆発型、燃料を詰めた火焔型、塩素ガスを詰めた化学兵器型です。シリア内戦で使われている樽爆弾は爆発型がほとんどで、火焔型は確認されていません。最近では化学兵器型も使われ始めました。

 アサド政府軍が樽爆弾を使っている理由は、国際社会の制裁により正規の爆弾の製造と輸入が困難になって来たため、簡易な施設で安価に大量に製造できる樽爆弾で代用しようというものです。そしてこの代用品は命中精度が全く無いに等しい代物になります。

ANFO爆薬と金属片

 シリア内戦で主に使用されている爆発型の樽爆弾は、ANFO爆薬と大量の金属片が内部に詰まっています。ANFOとは”Anmonium Nitrate Fuel Oil”の略で、硝酸アンモニウムと燃料油から製造することが出来る工事現場用の爆薬です。 肥料に使われる硝酸アンモニウムから作ることが出来てしまうので肥料爆薬とも呼ばれ、原材料の入手が容易かつ安価であり、簡単に大量に作る事が出来ます。

 またANFO爆薬は製造に燃料油も用いるので、樽爆弾には燃料油がそのまま入っていると誤解している報道も多いのですが、間違いですので注意して下さい。金属片を詰めるのは爆風範囲よりも飛ばされる破片範囲の方が遥かに長いためで、殺傷力を大幅に増強します。正規の爆弾は外殻がそのまま破片になるのですが、樽爆弾の入れ物のドラム缶は鉄板が薄く破片威力が低いので、別個に金属片が詰め込まれています。

樽爆弾の使用方法

 樽爆弾は原始的な構造で、命中精度が全く期待できません。戦闘機に搭載する事も出来ず、輸送ヘリコプターに積載してドアを開けて蹴落とすという使用方法になります。

 落ちていくのは爆薬の詰まったドラム缶で、輸送ヘリコプターには樽爆弾用の爆撃照準器もありません。精密爆撃など到底不可能で、必然的に無差別爆撃しか出来ません。適当に落としても効果のある目標とは広い市民の居住区に他なりません。小さな戦術目標に命中させるような精度は無いのです。

 樽爆弾の運搬手段が鈍足で装甲の薄い輸送ヘリコプターしかないというのも、この問題に拍車を掛けます。対空機関砲や携行地対空ミサイルが存在していそうな最前線の真上に行って爆撃してくるような運用を、輸送ヘリコプターでは行えません。撃墜されに行くようなものです。ゆえに樽爆弾を積んだ輸送ヘリコプターは最前線を避けて、敵の対空砲火が薄そうな民間人の居住地域を狙いに行きます。

追記:プロパンガスのボンベを流用した小型の樽爆弾も登場、これをヘリコプターの外装ラックに搭載する運用方法も新たに行われています。ただし爆撃方法は従来の樽爆弾と大差はありません。

非人道性の本質

 精密な爆撃は出来ない、運搬手段は脆弱で前線には投入出来ない。樽爆弾が非人道兵器扱いされるのは殺傷力の高さからではありません。殺傷力は正規の爆弾の方が強力です。樽爆弾の非人道性は、市民の居住区への無差別爆撃にしか使えない兵器だからです。問題とされているのは使い方であり、この使い方しかできない兵器だから、存在自体が糾弾されているのです。構造上はただの爆弾であり、国際法に違反した禁止兵器ではありません。(中身に塩素ガスを詰めた場合は禁止されている化学兵器になります。)

 国際社会からの度重なる非難を受けても、アサド政府軍は樽爆弾の使用を止めようとしません。止めさせる手段としてはシリア上空に飛行禁止区域を設ける事が考えられますが、これはシリア上空に戦闘機をパトロールさせて違反した目標を撃墜する事を意味します。アサド政府軍は強力な地対空ミサイルで反撃してくるでしょう、これを排除するために大規模な空爆を行わなければ、飛行禁止区域の維持は出来ません。そして国際社会はその決断を躊躇ったままです。

追記:もう一つの方法として「反体制派武装勢力にスティンガー携行地対空ミサイルを供与」がありましたが、これも選択されませんでした。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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