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デング熱関連のデマ拡散中――信じたい記事を疑うことも必要です

小川たまかライター

最近マスコミの報道が過熱する際に必ずといっていいほど持ち上がるのが「陰謀論」です。確かに、マスコミの報道を鵜呑みにするのではなく、ニュースは情報ツールの一つと考え、自分自身で考えることが大切だと私も思います。ただ、マスコミの報道を疑うのであれば、ネット上でどこの誰が書いたかわからないブログの情報については、さらに疑うべきです。

9月5日に公開されたある個人ブログのデマ記事が、Facebookなどでかなり拡散されています。内容は、「去年のデング熱感染者は249人、今年は81人なのに、こんなに報道が過熱しているのはおかしい。何かを隠しているのではないか」というものです。

このデマ記事には、下記のようなグラフが国立感染症研究所(※)の発表として引用されていました。

http://urx.nu/bMFT
http://urx.nu/bMFT

国立感染症研究所に確認したところ、このグラフを載せているページは研究所に勤める研究者の中で有志の方が行っているページだそうです。

データ自体は国立感染症研究所が公表しているものを使っているため間違いではありませんが、国立感染症研究所が発表している最新の情報とグラフでまとめている情報にはタイムラグがあります。

最新の情報は、こちらの国立感染症研究所の公式ページにある「感染症発生動向調査週報」から確認することができます。

デマ記事は、上記のグラフを読み間違えたものです。引用したグラフには、デング熱患者数として2013年は249人、2014年は81人であると書いています。ただし、元のページを参照すると、このグラフの枠外に「2014 年は第26週の報告数です」と書いてあることがわかります。第26週とは6月23日~29日のことです。デング熱患者の国内発生(海外渡航歴がないのにデング熱を発症した患者の発生)が判明したのは8月26日。つまり、このグラフは「戦後初のデング熱患者国内発生」が確認される前のデータです。

ニュースをきちんと読んでいる人にとっては自明のことだと思いますが、今回デング熱が騒がれている理由は、「国内にデング熱患者がいるから」ではありません。デング熱の患者はデータでもわかる通り、昨年までもいました。海外渡航歴のない人がデング熱を患ったことにより、「戦後初のデング熱患者国内発生」と言われています。

このデマ記事がFacebookでシェアされているのを見たとき、それほど広がるとは思っていませんでした。しかし、当のブログは現在までに4.1万いいね!がついています。4.1万って。一方で、ブログ公開翌日の6日には、すでに下記のような注意喚起のブログが書かれています。

デング熱も怖いけどこんなデマが拡がるのも怖い。去年のデング熱の国内での感染者数はゼロだよ!

かなりわかりやすくまとめてあります。でもこちらは8100いいね!ぐらい(どちらも9月9日12時時点)。デマ記事よりは拡散していないと思われます。今朝は、とある芸能人の方がデマ記事の方のURLをTwitterに貼り「政府というのは恐ろしいです…」とつぶやいたそうです。

なんでそうなるのでしょうか。デマ記事にも参照元のURLが貼ってありますから、自分で確認しに行き、データの意味を確認すればデマ記事のブログがそもそもデータの意味を読み間違えていることがわかるはずです。一般の人の書くブログに間違いが多いとは決めつけられませんが、わざとミスリードしようという悪質な場合だけではなくても、専門的なデータを読み間違えるということはあります(今回はそれほど難しいデータではありませんが)。そのブログの書く内容を信じたいのであればなおさら、自分で信憑性を確認してみることが必要です。

デマ記事を検証し、注意喚起したブログに、とても共感した文章がありましたので引用します。

忘れちゃいけないのは、デング熱にかかっている方々や、その拡がりを抑えようと対策を一生懸命考えている方々や、本当に必要な情報を集めて報道している方々や、亡くなったディレクターの方の遺された家族の方々など、色んな立場で当事者として苦しんだり頑張ったりしている方々が、現在進行形で実際にいらっしゃること。自分が考えるステキな社会のために主義主張を伝えようとするのはご立派だけど、そんな方々の気持ちをあまりにも蔑ろにしてる気がしてならないよ。

出典:デング熱も怖いけどこんなデマが拡がるのも怖い。去年のデング熱の国内での感染者数はゼロだよ!(mokuromi.com)

※「亡くなったディレクター」という一節は、デング熱関連ではなく別件についてです。

こちらの週報が、9月9日時点で国立感染症研究所が発表している最新のデータ(8月25日~8月31日までのまとめ)です。国立感染症研究所の集計は、国内で感染したと思われる人、海外で感染したと思われる人両方のデータを発表していますが、厚生労働省のページでは、数日おきに国内感染事例の発生状況を発表しています。

確かに、国立感染症研究所の週報は細かいデータであり、パッと見て読み取りづらいようにも思います。だからこそ国立感染研究所の有志の方は、デング熱報道が始まる前から、誰にでもわかりやすいように情報を提供するべく、グラフを作成していたのかもしれません。それがこんな風に、誤解されてしまうとは。

デマ記事を書いたブログはその後、データの読み間違いに気づいたようですが、謝罪はなく、さらなる独自解釈で自説を補強。最新の記事では「国立感染症研究所と言うのも怪しい組織である」と書いています。上記の検証記事でもデマ記事はリンクされていますので、気になる方はご自身の目で、その真偽を確かめてください。

これまで知らなかった面白いことが書いてある記事や、自分の信じたい内容が書いてある記事を私たちは思わずシェアしたくなります。善良で正義感の強い人ほど、素直にシェアをしてしまうのかもしれません。でも、その善意が利用されることもあります。デマを拡散したくなければ、その人がこれまでにどんな記事を書いているのか過去記事の有無や内容をチェックしましょう。また、その記事について、発信者がその後どんな追記記事を書いているのかもできる限り確認した方が良いと思います。ネット上の記事かそうではないか、書き手が有名か否か、報道関係者であるかないかに関わらず、です。

【9月10日13時50分追記】記事内の一部で「国立感染症研究所」を「国立感染研究所」と表記していました。お詫びして修正いたします。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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