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阪神タイガースから、それぞれの道へ。

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
11月10日、合同トライアウト(草薙)で投球練習中の玉置投手です。ブルペンにて。

この秋、阪神タイガースから戦力外通告を受けたのは加藤康介投手(37)、玉置隆投手(29)、藤原正典投手(27)、黒瀬春樹選手(30)、田上健一選手(28)の5人です。そのうち黒瀬選手を除く4人が、11月10日に静岡・草薙球場で開催された12球団合同トライアウトを受験しました。あれから40日あまり。年の瀬も迫ってきたので、それぞれの近況をお伝えすることにしましょう。

西武のスコアラーとして再出発

まずトライアウトを受けなかった黒瀬春樹選手は、古巣の西武に戻りスコアラーとして新しいシーズンを迎えます。10月中は現役続行を視野に入れ鳴尾浜で練習をしていたものの、11月に入って姿を見なくなり、受験のエントリーもしませんでした。練習を続けていた時も、やはり迷いがなかったわけではなく「NPBでやりたいけど将来的なことを考えたら…家族もいるし、年齢的にも」という話をチラッとしていたんですよね。

6月24日、ソフトバンク3軍との練習試合(鳴尾浜)で3ランを放った黒瀬選手。
6月24日、ソフトバンク3軍との練習試合(鳴尾浜)で3ランを放った黒瀬選手。

「あと2年プロでやりたかった。でも12年やったからいいのかなという気持ちもどこかにあって」と複雑な思いを抱えての練習だったのかもしれません。直接話を聞けなかったので詳しい経緯はわからないのですが、ちょうど合同トライアウトの日、黒瀬選手とスコアラーの契約を結んだと西武ライオンズが発表しました。現場で会う機会があればいいなと期待しています。

まだ勉強、この先を考えた選択

加藤康介投手はルートインBCリーグの福島ホープスに投手兼任コーチとして入団することが決まり、18日にコーチ就任会見も行われました。背番号はタイガース時代と同じ『63番』です。

近況を尋ねるメールをした翌日、電話をくれた加藤投手は「福島へ行くことにしました」と明るい声。ちょうど正式契約と就任会見の前日でした。引っ越しは年が明けてからだそうですが「初めての土地だし、雪がねえ。でも郡山はあまり降らないと聞いたし」と話していたものの、心機一転の熱意は雪をも溶かすに違いありません。

加藤投手、11月10日の合同トライアウトでの全力投球です。
加藤投手、11月10日の合同トライアウトでの全力投球です。

兼任コーチになるんですね?「話をもらって、選手というより指導者としての勉強をしたいという気持ちも自分の中でありましたので。ところが球団からは『投げてプレーで見せる。それも指導になるのではないか』と言っていただいたんです。僕の方が学ばせてもらうことは多いと思いますよ。逆に何を見せられるかなと。でも、できる限りのことをやっていくと決めています」。キッパリとした口調でした。

具体的にはどんな仕事になるでしょう?「自分としては、自身の感覚であったり、こうした方がいいんじゃないかといったものを正確に伝えられるかどうか。ただ、苦労した中でそこそこ投げられた部分があったりするので、そういうのを少しでも伝えられたらいいですね。アドバイスできることがあれば。そして野球のことを、自分ももっともっと知識を増やしていかなければと思います」

トライアウトの視察に訪れた、福島ホープスの岩村明憲監督。
トライアウトの視察に訪れた、福島ホープスの岩村明憲監督。

来年7月には38歳となる左腕。福島ホープスの岩村明憲監督(兼球団代表、兼内野手)とは同級生ですね。ともに、その背中を見て刺激を受ける選手たちは多いはず。「来年1年間を無駄だったと思われないように。とにかく有意義な1年にしたい。この先を考えたうえで、自分にとって一番いいんじゃないかと。それで決めました。選手としてはそう長くできないでしょうし」

この先のためのスタートと思っています」。“この先”に、今度は指導者としてNPBのユニホームを着た加藤投手を想像してもいいですか?

必要とされたことに応えたい!

玉置隆投手とも先日、話ができました。進路について事前に情報は得ていたので、確認とその経緯を聞かせてもらったわけです。「社会人野球をすることに決めました。新日鐵住金鹿島です。頑張ります!」と元気な応答。背番号は『30番』だそうです。いいですねえ、しっかり抑えてくれるイメージですよねえ。チェンジアップで三振を取りまくってください。

新日鐵住金鹿島といえば、ことし入団した横山雄哉投手、石崎剛投手の古巣ですね。ということは茨城へ?「はい。年末に引っ越しを済ませて、年明けから合流します」。ここへ来て初の関東暮らしですか。「一回きりの人生、いろんな経験をしてみたい。つらい思いが今あっても、やっていれば新しい環境で新しい自分も見つかる。チャレンジです!」

8月15日、遠征先での試合前練習。玉置投手がいる時は本当に投手陣が元気です!
8月15日、遠征先での試合前練習。玉置投手がいる時は本当に投手陣が元気です!

先方からの話があったのは?「戦力外を言われた次の日です。考えてみてほしいと」。決めたのは?「今月になってからです」。その間、トライアウトを受けてNPBからの打診を優先していいとの配慮もあったそうですよ。結論に至った決め手は「やっぱり求めてもらったっていう喜びと、一番先に声をかけてくれたこと。この2つ」だと言っていました。

しかも正社員としての採用らしく「よかったです。これからの人生は長いんで」と。家族のある身ですからね。結構長く現役でいる選手も多いでしょう?「でも社会人としてはもう終わりの年ですよ。そこで声をかけてくれた。会社として僕を必要としてくれたわけで、それに応えたいと思いましたね。体は元気ですし」。なるほど。ちなみにチーム内で玉置投手より年上の選手は2人だけ、投手陣では最年長です。

「自分のためっていうのはありますけど、今まで以上にチームのためという気持ち。自分が失敗したら、そこで全部が終わってしまう。次はないので。さらに、自分を必要としてくれたことが大きいです。必要とされる感覚も初めてでした。それを背負って…いや自分が勝手に背負ってるだけなんですけどね。背負っていきたい」。タイガースでも必要とされていましたよ。本当は鳴尾浜でなく、甲子園であればよかったんですけど。

来年は新日鐵住金鹿島で、背番号30のユニホームに。
来年は新日鐵住金鹿島で、背番号30のユニホームに。

話を聞いていると、失意の戦力外通告直後に「来てほしい」と声をかけてもらったことが、どれだけ大きかったかが伝わってきます。そして、NPBのチームだったらまた違ったかもしれませんが…と前置きして、こんな言葉を続けました。

最後になるかもしれない。必要とされるところで、熱い野球をして終わりたかった

新日鐵住金鹿島は都市対抗が2年、日本選手権は3年続けて本大会出場を逃しています。プレッシャーがかかるでしょう?と聞いたら「いやもう、やりがいしかないんで」とキッパリ。それでこそ玉置隊長、さすが鳴尾浜の防波堤!(ってのは私が勝手に名づけたものですが…)。じゃあ東京ドームの都市対抗、京セラドームの日本選手権で会えますね?「行きますよ~!待っててください」

何かの形で恩返しをするために

次は「まだ何も決まってないんですよ」という田上健一選手。「現役でやりたいけど、話がないので…」とのことです。それは予想外でした。独立リーグからの話はあったと思われますが「自分ひとりだったら行けます。でも子供もいるし、それは難しいから。クラブチームでもやっぱり同じで、そこでやってもう一度NPBにというのは無理だろうなと思って」と、苦しい胸のうちを明かします。

トライアウトが全部終わったあと、笑顔で取材に応じてくれた田上選手。
トライアウトが全部終わったあと、笑顔で取材に応じてくれた田上選手。

「本当は今年中に決めたかったんですけどねえ。もうここまで何もなかったら無理でしょう?これから現役以外のことも考えます」と田上選手。周りの我々にとっても、まさかの戦力外でしたから本人は言わずもがなでしょう。「そろそろかな、と思いながらシーズンを終えたなら違ったかもしれませんけど、まったく頭になかった状況で言われたもんで…そのまま終わってしまうってのが辛い」

トライアウトでヒットを放った最後の打席です。
トライアウトでヒットを放った最後の打席です。

確かに、それなりの覚悟をしていても完全燃焼はなかなか難しいもので、それもないままでは悔いが残ります。あまりにも。田上選手は今月12日で28歳になったところです。まだ28なのか、もう28なのかは一概に言えませんが、何とか彼自身の野球人生をいい形で締めくくれる場所があることを祈るのみです。とはいえ、話しているとやはり現役続行以外の進路も模索中のようでしたね。

そのためというわけではなく「受けておいたらいいかなと思って」と、プロ野球関係者が大学や高校で野球の指導をするのに必要な『学生野球資格回復研修会』を受講しました。11月28日に『NPBプロ研修会』、そして今月19日と20日の『学生野球研修会』を経て、きのう修了証をもらったそうです。いつかは、これを生かす道もあるでしょう。でもまだ白球を追い、バットを振り、土を蹴って走るところが見たい。そう言うと

タイガースに恩返ししたいんですけどねぇ

という言葉が返ってきました。もう一度「タイガースに恩返ししたい。何らかの形でできればと思っています」と繰り返した田上選手。どういう形になるかはまだわからないけれど、その時が早く訪れるよう祈ります。

現役引退を選択した左腕

トライアウトでの藤原投手。次の42番はもう決まったけど…忘れません!
トライアウトでの藤原投手。次の42番はもう決まったけど…忘れません!

最後に、藤原正典投手も今回の『学生野球資格回復研修会』を受講しました。返事はまだですが、修了証を受け取ったと思われます。進路については「内緒」らしいので書けなくてすみません。またいつかお知らせできれば。ただ「現役引退ってことですか?」と聞いたら「引退なんてかっこいい言葉は使えませんが、そんな感じですね」という返事でした。野球にかかわっていくのか、全然違う道へ進むのか、いずれにしても多才な人なので今後の人生を楽しみにしています。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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