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今の離婚制度では子どもの権利を守れない 「親子断絶防止法」について弁護士・打越さく良さんに聞く(3)

大塚玲子ライター
打越さく良さん(写真撮影:鈴木智哉)

賛否が分かれ、議論が巻き起こる「親子断絶防止法」。今後、どんな点が考慮されていくべきなのか? 

今回は主に、離婚制度に関する問題を取り上げます。日本には、裁判所を通すことなく当事者の合意のみで成立する「協議離婚」という制度があり、離婚の9割がこの協議離婚ですが、そのような簡単な離婚制度で、子どもの権利が守られ得るのか?

前回に引き続き、弁護士・打越さく良さんにお話をうかがいます。(前回(2)はこちら)(前々回(1)はこちら

※ご意見は、できるだけコメント欄(または筆者宛)にお願いいたします。打越さく良さんへの直接のご連絡は、お控えください。今後、子どもの立場や、別居親の立場の方の声も紹介できればと思っています。どなたさまも、自分と異なる意見を冷静に受け止め、子どものことを一番に考えつつ、議論を深めていただければ幸いです。

※法案はこちら

*いろんな事情の人がいることをふまえる必要がある

――子どもと会えなくなっているのは、DV加害者とされる人ばかりではないですよね。たとえば先日別件でお会いした方は被害者側で「子どもはいま一人だけれど、じつはDV加害者の元夫のもとにもう一人いて、会えなくなっている」と打ち明けてくれました。そういう話を聞くと、やはり今後は面会交流の制度化とサポートが必要だと感じるのですが……。

わたしも、そういう辛い案件はありましたね……。でも、そのときは結局、やっと面会交流を勝ち得て、やった!と思ったら、子どもがすごくいやがってしまって。いまお母さんに甘えていたのに、急に「きらい、あっち行け!」と言うとか、両親の間で板ばさみになっている様子が見てとれて、本当に辛い。そういうケースでも、義務付けをしたら解決になるか、というと、そういうわけでもないように思います。

制度化して、上から「やらなきゃだめだよ」と言っても、そういうDV加害者の人たちが、「はいわかりました、やんなきゃね」となるわけがない、と思います。

――わたしが以前取材した被害者の方も、ようやく一度だけ子どもに会えたものの、子どもが同居親(DV加害者)の手前ものすごく怯えていたので、子どもを苦しめるよりはと思い、泣く泣く身を引いたと言っていました(*1)。子どもの本音はどうだったのか。たしかに制度化だけでも足りず、親の意識を変えるための啓発も重要でしょうか。

ほんと、そういうのって辛いですよね……。

でも、これ(いまの法案内容)だけじゃ、こういうケースには全然対応できませんよ。それこそどういうふうに補っていくか、考えないといけないですよね。

やっぱり法律って、個人に義務づけるならば特に、いろんな事情を抱えている人たち全員に、上からばーんと一律に影響する面があるものなので、いろんな事例があるのをふまえないといけないと思います。

*「協議離婚」の仕組みはこのままでよいのか?

――そもそも、日本は離婚後の親子関係や子どもの権利をサポートする仕組みが、欧米や韓国などと比べると、ものすごく何もないですよね。養育費や面会交流をちゃんと取り決めないままでも協議離婚できてしまう今の制度は、すごく問題ではないでしょうか。

協議離婚の仕組みの修正は、わたしとしても、やってほしいと思います。日本では、協議離婚の見直しについての議論もまだ深まっていません。

しかし、とくにDVがある場合なんて、加害者と被害者の間で圧倒的に力の非対称性があるわけで、協議離婚を当事者任せにしたままで、ちゃんと子の利益に照らした取り決めをすることはとても難しいと思う。司法的なチェックが必要だと思います。

協議離婚を維持する場合でも、韓国のように、ガイダンスを設けるとか、離婚までの熟慮期間を設ける制度もいいですし。DV被害者に対する支援の強化も必要です。

――韓国は2008年から、子どもがいる協議離婚には3か月の熟慮期間を設けるようになったとか。その間に親権者、養育費、面会交流などを取り決めて審判を受けないと離婚できない、という。(*2)

そういうのもあわせてね、国のサポートを明確に入れていかなければいけないと思う。

協議離婚のすべてについて、いまみたいに丁寧な調停や審判をすることが困難であるとしたら、丁寧な手続が必要な事案とそうでない事案を振り分け、後者にはチェックするだけの簡単な手続を用意することも考えられるでしょう。

海外に学ぶんだったら、そういうことを入れ込んだらいいのにな、と思いますね。いろいろ検討して、いい制度を採り入れていただけるといいなと思います。

一方で、DV加害者の自己の行為への振り返りの契機もないままです。保護命令の内容のひとつとして、あるいは面会交流実施の前提として、加害者が更生プログラムを受講する国もあるとか。抽象的にDVや虐待に配慮するという条文では物足りません。

司法チェックその他の関与があるといいんじゃないかと思いますけどね。それには、しつこいですが、家庭裁判所のハード面ソフト面を今よりずっと拡充させることが必要です。

――親は当然、なるべく手早く簡単に済む協議離婚を好みますけれど、それだと結局、子どもらにしわ寄せが行くわけですよね。その子が将来得られたはずの財産が、大人の無策によって失われてしまう。それは制度として防ぐ必要があると思います。

そうそう。わたしも、そういうことを入れて欲しいなという気はします。

行政の窓口でそれをやるのは無理だと思うので、これをやるなら家庭裁判所が関与するしかない。家庭裁判所に言いたいことはいろいろありますけど(苦笑)、それでもやはり現状で、子の利益を配慮する制度を備えているのは家裁だけ。それを入れこんでほしい。でもいまの法案には、家庭裁判所という単語が全く出てこない。

――なんででしょうね?

不明ですが、家裁のマンパワーやお金の問題とかでしょうか。いまだって家裁はパンクしてるんだから、と言われちゃうし。司法予算もすごく少なくてね。

9条にある「特別な配慮」とか、いま検討されている子どもの意向表明とかも、どうやって行政で判断するのか、全然わかんないじゃないですか。結局は、家裁をかませる、協議離婚を見直す、ということしかできないんじゃないかしら。

家裁はいま、面会交流とか子の監護に関する事件がわーっと増えて、パンクしてますよね。わたしの実感としても増えてますよ、家裁の待合室とか、人があふれてるし。

いまだってものすごく大変なのに、ここへさらに、いままで関知してなかった協議離婚まで、全部家裁を通してくださいね、なんて言ったら、家裁の本音は「もう無理、できません!」でしょう。

だから、これ(今の法案)くらいなら、上から目線の「啓発」、予算もポスターとか、そんな程度で済むからいけるんじゃない、みたいな。手軽にやろうとしてしまう。

――結局は、予算、お金ですね……。というのを考えると、これくらいの内容でもしょうがないね、ということには?

いや、みんながそんなにものわかりよくなっちゃったら、それもダメ。いいものにするためには、やっぱり協議離婚をどうするのかとか、そういうことを言い続ける人がいないと。

――それも、とてもだいじですね。全肯定でもなく、全否定でもなく、修正して前に進んでいけるといいのですが。

わたしは、いまのままの法案だと全然だめだなと思うけど、こことこことここをいじって、こうしてくれれば、っていうふうには思います。

とはいえ、修正といっても、やっぱりすごく、お金もかかるし人もいることだから、腹をくくってくれないといけない。だから、立案者は頭をひねらせるところだとは思うけど、でも、子どものためって言うんだったら、国にはそこらへんまでやる気概をもってほしいなと思います。ポスターやしおりくらいでお茶を濁す、というんじゃなくて。

――ただ、100点じゃないと認めないというのも、どうでしょう。それもまた、話が進まなくなってしまうかと。

全部「せえの!」って一斉に揃えないとダメかっていうと、そうでもないですしね。

でも、今のままではDVで痛めつけられた人にも、「監護者や面会交流の取り決めをしないまま出て行ってはいけない」ということになりかねず、私は賛成できないです。

*世の中のすべての子どものことを考えて

――最後に少々、お子さんに会えない方たちにお伝えしたいことを失礼します。ときどき精神状態がすごく悪い方がいらして、よく自分と違う意見の人を攻撃し続けたりしてしまいます。本当にお気の毒だと思うのですが、それはやめませんか。そのほうが話が前に進みやすくなると思うので。

個人的に辛い思いをしていると、余裕がなくなることは無理もありません。しかし、罵声を浴びせられた側も不快になってしまうのも無理はないですよね。

辛くて思い詰めていると、二項対立で考えがちで、ちょっとでも反対といわれると、その相手が悪魔のように思えたりするのでしょうか。自戒をこめて、いろいろな経験をしている人のことを想像しないといけないと思います。

私の場合、とても苛酷な経験をしたDV被害者親子の依頼が多いし、まだ痛手が生々しい人たちは発言が難しく、代弁者にならなければいけないと感じています。しかし、会えなくなって辛い側の相談も受けますし、会えない親の身になったらどうだろう、といつも考えるようにしています。

そして、もちろん、個別の子どものためを考えたい。そして、各国はどう工夫しているのかも勉強しなければいけないですね。

あと言い残したこととしては、法案が、非婚家庭など多様化した家庭の中にいる子どものことを考えていないことが気になります。

両親から愛情を受けることが子の健全な成長及び人格形成のために必要、なんてことを、国が無邪気であれ高らかにうたってしまったら、ひとり親からだけ愛情を受ける子、あるいは親から愛情を受けない子は、あらかじめ何か「欠損したもの」があるかのように聞こえるので、ぎょっとします。

児童相談所の仕事もさせていただいている中で、様々な状況にある子どもたちと出会ってきただけに、切実に思います。

――そこはわたしも、一番気になります。世の中には、親と死別した子や、親が消息不明の子とか、施設にいる子も大勢いる。離婚家庭だって事情はいろいろで、どうしたって親と会えない子、また会いたくないという子もたくさんいます。だから、両親と会えないと健全に育たない、みたいな言い方は本当にやめてもらいたいです。公に発言すれば、そういう子どもたちの耳にも入るので。

そうですね、視界を広げて、世の中のすべての子どものことを考えてもらえたらうれしいです。

(了)

(*1)このDV被害者の方の取材内容は『養育費実態調査 払わない親の本音』に収録されています

(*2)参考:棚村政行編著『面会交流と養育費の実務と展望 子どもの幸せのために』日本加除出版 2013年

プロフィール

打越さく良

(うちこし・さくら)

2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。離婚、DVなどの家事事件を多く取り扱う。日弁連両性の平等委員会委員、同家事法制員会委員。夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。mネット・民法改正情報ネットワーク呼びかけ人、憲法24条変えさせないキャンペーン呼びかけ人。都内児童相談所非常勤嘱託弁護士。単著に『なぜ妻は突然、離婚を切り出すのか』(祥伝社新書)、『レンアイ、基本のキ―好きになったらなんでもOK?』(岩波ジュニア新書)、『改訂Q&A DV事件の実務―相談から保護命令・離婚事件まで』(日本加除出版)、共著に『親権法の比較研究』(本山敦、床谷文雄編、日本評論社)等。ジェンダー関係の裁判例等を扱うサイトgender and law(GAL)編集。ウイメンズアクションネットワーク(wan)やラブ・ピース・クラブに執筆、連載中。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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