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「親子断絶防止法案」の最大の問題点! 本当に「子どものため」なら大人たちがやるべきことは?(2/2)

大塚玲子ライター
親が離婚した子どもの声を伝えるNPO法人ウィーズ副理事長光本歩さん(今月撮影)

離婚・別居後に自分の子どもと会えなくなった別居親たちが推進する“親子断絶防止法案”。反対派との対立が続くなか、現在、修正作業が進められている模様です。

この法案や、日本の離婚後の親子を取り巻く現状は、子どもの立場の人にはどのようにうつるのでしょう? みんな「子どものため」と言いますが、本当の「子どものため」って何でしょうか?

前回に引き続き、自らも親の離婚を経験し、離婚家庭の子どもたちへの支援活動を続けるNPO法人ウィーズ 副理事長・光本歩さん(28)にお話を聞かせてもらいました。(前回記事はこちら

※ご意見は、できるだけコメント欄、または筆者宛にお願いいたします。光本歩さんへの直接のご連絡は、どうかお控えください。どなたさまも、自分と異なる意見を冷静に受け止め、子どものことを一番に考えつつ、議論を深めていただければ幸いです。

※法案はこちら

*親が言う「子どものため」への違和感

――面会交流の話では「子どものため」という言葉が、わりと都合よく使われがちですね。

そうですね。正直、親の立場の人が「子どものため」と言っているのを聞くと、いらっとするときがあります(苦笑)。面会交流は「子どものため」と言いながら、養育費は払っていない大人もいたり、お金は「子どものため」にもらうけれど、面会交流はハナから必要がないと決めつけてしまっている大人もいたりして、矛盾しすぎ。

――いますね……。わたしも「子どものため」はなるべく言いたくないんですが、ときどき言っててごめんなさい(汗)。やっぱり、親が離婚した子どもの立場の人自身が発言することが、すごく重要ですね。でも、声をあげる人はあまり出てこないような。

自分も講演とかやってきましたけど、まあみんなやりたくないよね、と思います(苦笑)。

親が離婚して辛かったときの記憶をいろいろ思い起こして「こういうことが、いやだった」とか言わなきゃいけないのは、辛い作業なので。

わたしなんかもまだ、親の離婚って全然消化できていないんですね。

最初は平気だったんです。19歳のころからこういう活動を始めて、当時は自分で「消化した」と思っていた。でも、ここ数年雲行きが怪しくなってきて(苦笑)、消化してないかも、と気付きました。

先日うちのNPOの講演会で、両親の不仲や離婚について淡々と話してくれた子も「大丈夫です」とは言うけれど、やっぱり傷をえぐっているところはあると思う。この活動をいっしょに始めた友人も、いまは育休中なんですけれど、辛い過去を思い出さなくちゃいけないから復帰をためらう、と言っていて。

ただ、だからといって、子どもの立場の人が何も言わないでいるわけにもいかない。それでは、大人たちだけで物事が決まっていく状況が、結局変わらないし、それで良しとされてしまうので。

だから、子どもの立場の声を届けることが必要だ、とは思っているんです。

いまの日本には離婚後の親子関係をサポートする制度が全然ないようなものですよね。欧米では多少揺り戻しが起きていますけれど、それでも開きがあり過ぎる。そういった海外の例も参考にしながら、「日本ではどうすべきか」ということをちゃんと議論して、もっと子どもの視点を取り入れた制度をつくっていくことが必須だと思います。

――大人たちが子どもの気持ちをもっと汲めていれば、そんな辛い思いをして声をあげなくて済むところ、申し訳ない……。でも現状はやはり、子どもの立場の人たち自身に声をあげてもらう必要があります。でも、子どもの意見を認めない大人もたまにいますね。

説得しようとしたり、味方に取り込もうとしたり、されますね(苦笑)。

そうなってしまうと、子どもも本音を出せなくなってしまう。何も言わないでいるのが絶対ラクなので、どんどんそうなっていっちゃいますよね。

子ども自身も何が自分の本音なのかわかってないことがある、っていうことがわかってない大人もいっぱいいますよね(苦笑)。だから、子どもが言ったことを全部そのまま受け取るのも違うし、全部否定するのも違うんですけれど。

たまに、「子どもは同居親への気遣いがあり、意見を聞くのは酷だから聞かなくていい」みたいなことを言う人もいますけれど、それも全然、違いますよね。意見を聞いた大人がそれをどう使うか、という問題なのに、子どもの気持ちに向き合わないための言い訳にしているような気がしています。

子どもが思っていることと、大人が思っていることが違っていたとしても、そう思うに至ったという事実を一旦全部受け止めて、その時々の意見や気持ちを聞いてほしい。その上でどうしても叶えられないことがあるならば、その理由をきちんと説明してほしいです。

そういったことをナシに「子どものため」と言われるから、違和感があるのかもしれません。

*「子どものため」と言うなら、もっと話し合えばいいじゃない?

――このところ、推進派の人、反対派の人にたくさん会ったそうですが、話してみて、何か気付いたことはありますか?

わたしが、いろんな人に会ってみたいなと思ったのは、「みなさん、どこをめざしてるんだろう?」というのを、直接聞きたいなと思ったからなんですね。

それぞれ見えている景色が違った状態で、この法案に向き合っているので、いろんな人の話を聞くのはだいじだな、と感じたので。

そうしたらみんな、最終的には「子どものため」って、言うんですよ。

「子どものために、法案をこう変えたほうがいい」とか、「子どものために、法案をこのまま通したほうがいい」とか。

だったら「子どものための法案」を作り上げていくために、もっと話し合えばいいじゃん!と思うんです(笑)。

それが、なぜか揚げ足取りみたいになってしまっていて、「法案を通す・通さない」が、「勝ち負け」みたいになってしまっているのが残念だな、と思います。

個々に話を聞いてみて、もちろんわからない部分もあるんですよ。「いやそこは、結局大人の都合ですよね」と思うこともあれば、「ああ、子どものことを思ってそう考えてくれたんだな」とわかるところもある。

ただ、とにかく、誰も「悪い人」じゃなく、みんな子どものことをそれぞれに考えてくれている。

だから、いろんな意見を出し合って、否定するんではなく「まあ、そういうのもあるよね」って言いながら、「じゃあ子どものために、どうしていきましょうか?」って話を進めていければいいんですけれど。

でもやっぱり、みんな“当事者色”みたいなのが強くて、その目線だけで見てしまうところがある。当事者ではない人も、当事者の話に強く影響されていたりして。

「誰か、一歩引いた目で見れる人はいないの?」と思いましたね(苦笑)。

――この問題については、みんな感情が強すぎて、話が平行線になってしまいがちですよね。

一方の話だけ聞いていても、どこまで本当かはわからないですしね。実際にまるっきり同じ体験をしたわけではないから。

だから、いろんな立場の人の声を聞くということを、法案をつくる側の人も、反対する側の人もやらなきゃいけない。

なのに「この人は話がわからない」とか言って、ポイッて議論を放棄しちゃうから、「いやいや、それは結局、子どものためを考えてないじゃん」って、わたしの目にはうつってますね(苦笑)。

――ありますね、お恥ずかしい(顔を覆う)。

法案の作成にかかわる大人たちが、そんなふうに話し合いもせず、ワーワー対立していたら、法案ができたところで、その法案のもとで動く両親は、絶対うまくやれるわけがないですよね(苦笑)。そこで子どもたちが巻き込まれることも、目に見えているのではないかと思います。

*最大の問題は「理解者を増やす努力の放棄」

――ところで今回の法案って、なぜか推進派のHPには載っていませんね。反対派のHPにしか載っていない。なんででしょうね? 国会で審議するような法案が、どうして一般に公開されていないのか? すごく不思議です。

いや、ほんと、そうなんです。

わたしは今年の春に、この法案のことを初めて知ったんですね。連絡会の方から資料をいただいて、「こういう法案を作ろうとしてるんです」、と聞いたんですけれど。

そのとき「いま、これを“水面下”で進めていて、いついつの国会で提出する予定です」みたいなことを言っていたんですよね。

そこでまず、「なんで水面下??」と思って(苦笑)。

「反対派がいろいろ言ってくるから」と言っていたんですけれど、でもいい法案だと思っているんだったら、しかもみんなにかかわることなんだから、もっとオープンにやればいいじゃん、と思って。

――本当にそうです。反対派や推進派内の対立意見を避けたかったのかもしれませんが、それでいいわけがない。反対派のなかには、そういった経緯に対して怒っている人も多いのでしょうね。もちろん経緯より法案の中身を見なきゃいけないんですが、そんなやり方では、不信感が募って対立が深まるのは当然です。

その部分については、この方たちも、反省しなきゃいけないんじゃないですかね。

理念法であったとしても、法律をつくるのであれば、理解者を増やす努力をする責任はあるわけじゃないですか。それを放棄してしまうというのはどうなのか。

「いやいや、法律つくるんだよね?」っていう(苦笑)。

今回の法案は理念法ですけれど、反対派の人のなかには、法案がすごく強制的なもののように言う人が多いですよね。それも問題ですけれど、もとは推進派が“水面下”で進めようとして、法案をちゃんとオープンにしなかったからじゃないんですかね。

――そうですよね……。今後は、推進派と賛成派がもっとちゃんと話し合いながら、進めていかなきゃいけないですね。子どもに向き合う大人の責任として。

(了)

光本 歩(みつもと あゆみ)

NPO法人ウィーズ副理事長 家族支援カウンセラー

1988年大阪府大阪市生まれ。13歳のときに両親が離婚。自らが父子家庭に育った経験から「子どもが育つ環境によって、抱く希望や夢に制限がかかってはいけない」という思いを強くし、2009年に低価格学習塾を立ち上げた。これまで延べ500名以上の子どもの声を聞き、様々な子どものための支援活動や親をはじめとする大人たちを啓発するための講演・執筆活動を行う。第三次静岡県ひとり親家庭自立促進計画委員。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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