北朝鮮は二度目の小泉訪朝の際なぜ「ゼロ回答」だったのか!

北朝鮮は二度目の小泉訪朝の際なぜ「ゼロ回答」だったのか!

スウェーデンのストックホルムで行われた日朝政府間協議(2014年5月29日)で北朝鮮は拉致被害者の再調査に応じることに同意した。これにより、拉致問題の進展が期待されているが、北朝鮮は今度こそ、真相を明らかにするのだろうか?

小泉総理の二度目の訪朝(2004年5月)では金正日前政権は白紙に戻しての再調査を約束したが、その年の11月に通告された調査結果は「ゼロ回答」だった。

なぜ、「ゼロ回答」に終わったのか、その理由について北朝鮮の情報機関に精通している元人民軍偵察局大尉(金国石)に当時、直接聞いてみた。

――北朝鮮が拉致問題を一気に解決できない理由は何か?

「朝日間は日本人拉致問題だけではない。一世紀前に起きた日本の植民地問題もある。北朝鮮はその面で不満を持っている。北朝鮮は日本側の要求を10分の1解決すれば、ボールを日本側に投げてくるはずだ。必ず、過去の補償、賠償問題も持ち出すはずだ。だから、日本政府も知恵を働かせて解決する必要がある。それには対話が必要だ。対話しなければ何事も解決できない」

――北朝鮮が拉致問題を全面解決する用意があるとみているのか?

「金正日委員長は最高指導者で、即効的にすべてを解決できる立場にあるが、この拉致問題は国家安保、国益がかかった問題でもある。特に軽視できないのは、拉致問題の対応への軍部の不満だ。北朝鮮軍部は2002年9月17日の首脳会談以降の日本国内での反北朝鮮世論の高まりや日本国民の北朝鮮を見る視覚が大変、極限的な状況になってしまったことを問題視している。彼らは北朝鮮が大変な失敗をしたと思っている」

――大変な失敗とは?

「日本からの反発が予想外に強かったことだ。拉致を認めたため対外的に窮地に陥ってしまった。特に朝鮮総連はダメージを受けた。実利を手にできるどころか、すべてはめちゃくちゃくになってしまったと、軍部は不快に思っている」

――それで軍部は反発しているのか?

「軍部は金正日委員長をあらかさまに批判することはできない。金委員長個人に対する批判は絶対にありえない話だ。但し、金委員長が日本の首相に対面して、拉致問題や工作を認め、遺憾を表明したことに羞恥心を感じている。軍人ならば当然だと思う。軍部は、金委員長を直接批判できないから、首脳会談を主導した実務者らを公然と批判している」

――どう批判しているのか?

「事前の調査が不十分であったことを問題にしている。また、金委員長が日本の首相の前で謝罪しなければならなかったこともそうだ。別なやり方があったと非難している。例えば、金委員長が謝らず、下級官吏らに対応させればよかったと。結局、金委員長に恥をかかせたと怒っている。まあ、それもこれも金委員長に対する程度を超えた忠誠心によるものではあるが」

――程度を超えた忠誠心とは?

「金委員長は北朝鮮では神格化された象徴のような存在である。自分らが神のように崇拝している金委員長が敵国である日本の首相の面前で謝罪させたしまったと言うことだ。軍部忠誠者らにとってはそれを目にすること自体が辛いわけだ。また、謝罪によって北朝鮮が得たものが何一つなかったことも彼らにとっては大変不満だったようだ」

――ということは2回目の首脳会談は北朝鮮側も用意周到に臨んだということか?

「2度目の会談でも日本側から拉致問題が提起されることを予想し、事前に調査をしたはずだ。但し、日本の総理の前でまた、生存者がいると口に出すのは、一回目の経験から適切ではないと判断したのではないかと思う」

――なぜ、北朝鮮は5人だけを帰国させたのか?

「日本の総理の政治的立場を勘案して日本政府が強力に求めている5人の家族を帰すだけで十分だと計算したはずだ。但し、金委員長が今後、再調査を行うと約束をしたことは、日本にとって大変鼓舞的で、重要な意味があると思う」

――10人の安否不明者に対して再調査を約束したことか?

「必ずしも日本側が提示した10人の安否不明者に限った、死亡したとされた人達に限ってのみ調査するとは思われない。というのも、死亡したと発表した人達を出すことは、北朝鮮としては困る。従って、10人以外の第3の人物が出てくるかもしれない」

――特定失踪者のことか?

「2~4人ほどの新たな人物を北朝鮮が、朝日間の協議の前進や両国間の関係の発展的な流れから出してくる可能性はあると、私は希望的にみている。今後、ボールが日本側に渡れば、日本側が北朝鮮の要求にどう対応するかによって、拉致問題の前進も考えられる」

――北朝鮮が10人を出さない、あるいは出せない理由は?

「特殊工作機関に勤めていた経験からして、例えば金正日政治軍事大学は全的に対外工作員を育成する学校である。学校で数年間日本語を教えていれば、多数の人に顔を知られ、学校のすべての流れや状況も把握できる。日本から膨大な経済支援や金銭の見返りを手に入れることがあったとしても彼らを出すことは、それにひけを取らない損失であると彼らなりに判断しているはずだ。

日本人を利用している機関は、対外情報などを統括する、安保にかかわる重要な機関だ。そこで働いている人達を容易には認められないと思う。今も生存しているとすれば、彼らを生かして返す可能性は薄いとみたほうがよい。現状では不可能かもしれない。但し、過去に一時期いた、と言えるような人であっても無害な人ならば、出す可能性はある」

――どういうことか、もっと具体的に説明できないか?

「ご承知のように二度目の小泉総理の訪朝には軍の関係者は出迎えなかった。前回は人民武力相(国防相)が出た。前回の首脳会談では金委員長は拉致を認めた。拉致を認めれば、おそらく日本が感謝し、朝日関係が前進すると思ったからだ。南北首脳会談のように前進があると思ったはずだ。しかし、全く逆の結果になってしまった。軍部の人は、このことは判断ミスとみなし、金委員長に拉致を認めるべきと進言した会談主導者らを問責している。北朝鮮が一旦死亡したと発表した10人が生存していると発表すれば、収拾できなくなると思っている。

仮に生存者として一人、あるいは二人返した場合、日本側は残りの人も生存していると言うのは間違いない。そうなれば、収拾が付かなくなる。軍部及び情報機関のトップは『生存していると発表してはならない、死んだままにしたほうがよい』と進言し、金委員長もそれを受け入れようとしている。そうなれば、いくら金委員長でも、『生存していた』と発表するのは不可能だと思う。但し、再調査したら、発表してなかった別の人物が出てくる可能性はある。可能性としてはこちらのほうが大きいと思う」

――では、死亡したと発表した人は絶望ということか?

「軍部や労働党連絡所、対外工作員育成所で働いていた日本人はなるべくなら『廃棄処分』にしてしまうのではないだろうか。日本に戻しても大丈夫との判断がつくまでの間は絶対に明らかにしないと思う。労働党、国家安全保衛部、軍部、これは金正日政権を支える守護勢力、基本集団だ。最高指導者とはいえ、彼らの立場は無視できない。北朝鮮なりの国益のかかった問題なので、解決には多くの時間を要することになると思う。

今後認めるにしても、彼らが高齢となるか、記憶が乏しくなるか、もう使い道がなくなった時点ではないか。あるいは、次の体制下(金正恩体制)で明らかにすることはあるかもしれない」