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北朝鮮のサイバー攻撃能力は「米CIAに匹敵」!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

金正恩第一書記の暗殺を題材にした映画「ザ・インタビュー」を製作した米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)にハッカー攻撃が仕掛けられた事件で米連邦捜査当局が北朝鮮の仕業であると断定したことで、北朝鮮のサイバー能力が俄然注目されている。

北朝鮮によるサイバー攻撃が取り沙汰されたのは、今から10年前の2004年4月に韓国の海洋警察庁、議会、原子力研究院など政府機関の235のサーバーを含むパーソナルコンピューターがハッキングされたことから始まる。韓国のファン・ジンハ議員が2006年に入手した「(韓国)陸軍情報保護総合発展計画書」によると、北朝鮮のハッカー能力は米国防総省のシミュレーションの結果「米太平洋司令部の指揮統制所を麻痺させ、米本土電子網にも被害をもたらす」ことがわかった。

実際に米国と韓国は2009年7月にその攻撃の標的となった。独立記念日の4日から始まった米国へのハッカー攻撃はホワイトハウスなど8機関にのぼり、その被害はワシントン・ポストなど大手新聞社や銀行など民間企業にも広がった。韓国では7日以後、大統領府や国防省、保守系メディアや銀行が攻撃され、延べ35機関でホームページに接続できなくなった。

特に韓国は2010年からは毎年サイバー攻撃を受け、2011年3月には青瓦台、議会など30の政府機関、金融機関が攻撃を受けた。昨年3月にもKBSとMBなど韓国の放送局やYTNの社内電子システムが一斉に使用できなくなってしまった。

北朝鮮のサイバー能力について2012年10月にワシントンでの軍事関連セミナーに出席したジェームス・シャーマン元駐韓米軍司令官は「北朝鮮が保有している非在来式の兵器の中で注目すべきはサイバー特殊部隊である」と証言し、2013年3月に開かれた米下院軍事委員会では「北朝鮮は韓国軍の情報、産業施設などを同時多発的に攻撃できるハッカー部隊を集中的に育成している」と述べ、その能力は「米CIAに匹敵する水準にある」と証言していた。約2千人から成るハッカー部隊が朝鮮人民軍偵察局傘下の「121部隊(局)」を指していることは今では公然たる事実だが、その実態は不明だ。

北朝鮮は、経済は後進国だが、ミサイルや人工衛星の製作面では先進国である。テポドン・ミサイルが日本列島を飛び越えてきたのは今から16年前の1998年だ。ミサイル発射には高度な電子・通信技術が不可欠だ。北朝鮮が米大陸を標的にするICBM大陸弾道ミサイルを開発していることは、これらの分野で高い水準の情報技術人力を有していることを意味している。にもかかわらず、北朝鮮のITの実態は外部世界には未知数のままだ。

北朝鮮のITはハードウエアと通信インフラは劣悪な状況にあるが、ソフトウエアと軍事情報技術分野では相対的に高い水準にある。その中の一部のゲームプログラムは世界的なレベルにある。

北朝鮮によるコンピューター分野への進出は今から半世紀前に遡っている。1960年代から金日成総合大学と金策工業大学でコンピューター開発研究を始め、1960年代末には「チョンジン―5500」という第一世代デジタルコンピューターを完成させ、続いて1970年代末には「ヨンナムサン1号」という第二世代のデジタルコンピューターを製造している。1982年には日本から輸入した部品で組み立てた8ビット「ポンファ4-1」の組み立て生産を始めたが、人材不足と半導体産業が遅れていたことから限界があった。そのため1985年から優秀な人材を旧ソ連と東欧にコンピューター留学させることにした。

二年後の1987年に国連開発計画(UNDP)の支援の下、科学院傘下の電子工学院研究所にIC回路試験工場を設立し、89年には平壌にIC生産工場を、海州と端川に半導体工場を設立し、93年には平壌大同江区域に16ビットPC生産のためのコンピューター組立工場を建設した。年間3万台の生産能力を有しており、部品は台湾、香港、中国などから調達しているとのことだ。

COCOMの規制によりスーパーコンピューターの導入は規制されているようだが、北朝鮮の軍事用のコンピューターは高性能のコンピューターが活用されていると言われている。ミサイル軌道を調整し、誘導電波を収集し、解読するのに必要なコンピューター装備を開発するのに成功している。

ハードウエアとは異なり、少ない投資で大きな成果を期待できるソフトウェア産業の人力育成と研究機関の設立に特に力を注いできたようだ。1990年には朝鮮コンピューターセンターを、91年には金策工業大学内にコンピューター要員育成センターを設立している。

北朝鮮のソフトウェア開発は保安認識システム、ワードプロセッサー、経営管理、航空交通指揮システム、各種ゲームソフトなど多様な分野で成果を生んでおり、いくつかのソフトウェアは世界的なレベルにあるとされている。ちなみに1998年と1999年に日本で開かれた世界囲碁プログラム大会で北朝鮮の「銀囲碁」が優勝を果たし、プログラムの実力を誇示している。

故金正日総書記は1993年からコンピューター関連機関を何度も視察に訪れ、1996年に科学院を視察した際には外国コンピューター技術導入の必要性を強調し、外国専門雑誌を各研究機関に普及させた。金日成主席死去から6年目の2000年5月に訪中した際には自ら中国のパソコン工場を視察している。

北朝鮮のソフトウェア開発機関には「朝鮮コンピューターセンター」「平壌情報センター」「科学院」「銀星コンピューターセンター」などがある。中でも平壌の万景台区域にある「朝鮮コンピューターセンター」は1千人のコンピューター技術者を有している。「金日成総合大学」や「金策工業大学」「理科大学」などから毎年20~30人選抜採用し、傘下にそれぞれ30余の研究室を持つ6つの下部センターに配属していると言われている。

「金日成総合大学」と「金策工業大学」だけでなく、十数年前からは「金正淑師範大学」でもソフトウェア開発部門の人材育成に力を入れており、数年間で2千4百件の教育プログラムを開発している。金日成総合大学情報エンターは3D(三次元)映像グラフィック技術開発にも乗り出しており、3Dコンピューター画像処理ソフトウェアである「ファリョン2.0」を活用し、米国のタイタニック映画を真似たコンピューターグラフィック技術を集中的に研究している。

今回は北朝鮮によるサイバー攻撃が脚光を浴びているが、実は北朝鮮も2013年3月13日から14日にかけて何者かによるサイバー攻撃を集中的に受け、労働新聞、朝鮮中央通信など北朝鮮の宣伝媒体が運営しているウェブサイトが接続不能となった。ロシアのイタル通信の平壌特派員は「北朝鮮のインターネットサイトが海外からの強力なサイバー攻撃を受けた」と報じていた。

北朝鮮はサイバー攻撃が米韓合同軍事演習「キー・レゾルブ」期間中に行われたことから米国や韓国などの「敵対勢力による仕業」と断定したが、米韓当局は「政府は関与してない」と北朝鮮の非難を一蹴した。

今回の件で、オバマ大統領が北朝鮮への報復を示唆したことで、米朝サイバー戦が熾烈を極める可能性が大だ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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