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北朝鮮の港はロシア海軍の軍港となるか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

金正恩第一書記の初の外遊先として5月訪露が日程に上るなど露朝関係が俄然注目されている。

ロシアによる北朝鮮の対露債務の大幅削減、ルーブルでの貿易決済、ロシア沿海州のハサンー羅津間の鉄道開通、羅津港第3埠頭の完工、農業及び水産業への協力強化、北朝鮮鉄道整備事業への2兆6千億円の投資と3兆円に上る電力網の改修・送電事業への協力などで両国は経済分野では急速に関係を深めているが、軍事面でも接近する動きが出てきた。このためウクライナ問題でNATOの圧力に直面しているロシアが米国と対峙している北朝鮮と「対米共同戦線」を張ろうとしているとの見方も有力視されている。

「VOA」(ボイスオブアメリカ)の報道(1月31日)によると、ロシアのゲラシモフ軍参謀総長は1月30日に国防部で開かれた高官会議で北朝鮮、ベトナム、キューバ、ブラジルとの間で国防会談を開く一方で、これらの国々との間で陸海空が参加する合同軍事訓練を行う計画を明らかにした。

ロシアが国連安保理から制裁されている北朝鮮に軍事協力を表明するのは異例のことだが、昨年11月に金正恩第一書記の特使として崔龍海党書記が訪露した際に随行した呂光鉄軍総参謀部作戦総局長がアンドレイ・カルタポロフ軍総参謀部作戦総局長と会い、両国の軍事協力を発展させることについて協議していたのは周知たる事実だ。プーチン大統領及びラブロフ外相との会談では国防委員会副委員長でもある崔書記がロシア側に同盟関係の復活を申し入れたとの情報も流れていた。崔訪露の10日前には玄永哲人民武力相(国防相=大将)もモスクワを訪問し、プーチン大統領に面談していた。

露朝関係は、ロシアが1989年の国交樹立を機に韓国に急接近し、経済協力を拡大したことで相対的に停滞を余儀なくされていた。しかし、旧ソ連時代も含めて初の最高指導者の訪朝となった2000年のプーチン大統領の訪朝と、翌2001年の金総書記のこれまた初の訪ロで両国の関係は徐々に修復の方向に向かっていた。

プーチン訪朝では▲両国間の親善及び協調関係の確認▲侵略行為があった場合の即時相互接触▲NMD(迎撃ミサイルシステム)及びNMD(米本土ミサイル防衛)体系への反対

など11項目に及ぶ共同宣言(「平壌宣言」)が出された。金正日訪ロでも8項目からなる「モスクワ宣言」が発表された。「平壌宣言」に比べて3項目少なかったが、駐韓米軍の撤収問題やシベリア横断鉄道と朝鮮半島縦断鉄道の連結問題の重要性が盛り込まれた。

両国の関係は首脳同士の相互訪問と一連の共同宣言で修復したかのように見えたものの、2006年と2009年の二度にわたる北朝鮮の核実験により再び冷え込んだ。テポドン発射や核実験に反対するロシアが国連安保理で米国主導の北朝鮮非難決議や制裁決議に賛同したことに北朝鮮が猛反発し、ロシアと再び距離を置き始めたことが原因だ。ロシアが拒否権を発動しなかったことから「米国にへつらう国」と烙印を押すほど嫌露感情を露わにした。

ところが、2011年になると、再び関係機運が芽生え、この年の8月には金正日総書記が金英春人民武力相及び軍需担当の朴道春党書記と朱圭昌党部長らを引き連れ10年ぶりに訪露し、東シベリアのウランウデにある航空機工場、アビア・ジャボドなどを視察していた。 アビア・ジャボドはスホイやミグ戦闘機をはじめMI-8,MI-171などの軍用ヘリコプターなどを生産する工場として知られている。

金総書記は2001年の一回目の訪露でもオムスクにあるT-80戦車製造工場を視察したほかスホイ-34戦闘機製造工場を見学していた。当時、両国間ではS-300地対空ミサイルや対空レーダーシステムなど10余種類のロシア製先端武器の売却問題が話し合われていた。 とりわけ、北朝鮮はS―300地対空ミサイルの導入とSU-27戦闘機もしくはMIG-29戦闘機のどちらかの組立生産を要請していた。特に対空防御網の強化のためのS―300迎撃ミサイルは喉から手が出るほど欲しがっていた。しかし、ロシアは北朝鮮の支払い能力に問題があり、武器売却交渉はいずれも不調に終わっていた。

現実問題として、ロシアによる北朝鮮への武器売却は、販売や輸出を禁じた国連制裁決議が撤回されない限り、また38度線を挟んで北朝鮮と軍事的に対峙している韓国が反対している限り不可能である。

仮に北朝鮮がかつてのような同盟の復活を求めているなら、北朝鮮の安全保障の担保も兼ね日本海に面した元山港と黄海に面した南浦港へのロシア海軍の進出が考えられる。というのも、ロシアは過去に元山港や南浦港を軍港として使用できるよう北朝鮮に要請していた経緯があるからだ。

北朝鮮はすでにロシアとの境にある羅津港の第3埠頭をロシア側に50年間の使用権利を与えているが、軍事協力が進めば、日米を牽制する必要性から元山をソ連艦船の寄港地、軍港として使用させる可能性も否定できない。

南浦港もロシア軍にとって重大な戦略的拠点であり、同港をマラッカ海峡と南シナ海をターゲットにしているベトナムのカンラン港の基地と併用することができれば、日米の軍事協力の実効性を損なうことができる。但し、ロシア艦隊が黄海にまで進出すれば、揚子江が完全にソ連の攻撃射程圏に入るため中国が容認しないものとみられるが、中朝関係が疎遠となった今日、南浦港をロシアに開放する可能性もゼロではない。

露朝間では実際に2011年の金正日総書記の訪露直後に海軍代表団による相互訪問が行われていた。

ハバロフスクに司令部を置く東部軍管区のコンスタンチン・シデンコ司令官が率いる軍事代表団が8月22日から訪朝し、2か月後の10月20日には北朝鮮海軍東海艦隊司令官の金明植少将(現在:海軍司令官=上将)が率いる海軍代表団がカムチャッカ半島を視察し、ウラジオストクでは太平洋艦隊所属の艦船や潜水艦などを視察していた。合同軍事演習の問題はこの時から話し合われていた。

金第一書記が5月のロシアの戦勝70周年祝典に出席すれば、8月15日の朝鮮半島解放70周年には朝鮮半島を解放したロシアの艦隊が祝賀・親善名目で元山に入港する可能性も大だ。さらにその延長線上で10月10日の労働党創建70周年にはプーチン大統領の15年ぶりの訪朝も浮上するかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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