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北朝鮮 今年は何発ミサイルを発射するのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

米韓合同軍事演習がスタートした3月2日、北朝鮮が日本海に向け「スカッドC」とみられる弾道ミサイル(射程500km前後)を2発発射した。米韓合同軍事演習開始日に合わせてミサイルを、それも弾道ミサイルを発射したのは今回が初めてのケースである。

北朝鮮の核実験(2月12日)で一触即発寸前だった2013年は米韓合同軍事演習開始(3月11日)一週間前の4日に7発、2014年もスタート(2月24日)3日前の21日に4発発射されていた。発射されたのはスカッド・ミサイルではなく、新型の300mm多連装ロケット(放射砲)で欧米諸国は「KN-09」と命名している。射程は200km前後と推定されている。

昨年は2月21日の4発を引き金に6日後の27日に射程距離300km程度の弾道ミサイル「スカッドB」4発発射している。スカッドの発射は2009年7月4日以来、5年ぶりであった。国連の北朝鮮制裁決議は北朝鮮に対して弾道ミサイル技術を使用した発射を禁じている。

3月に入るとさらに増え、3日に再び弾道ミサイル2発を発射。500km以上飛行したことから韓国軍当局は「スカッドC」と推定。翌4日もKN―09を7発発射。16日から23日にかけては射程60~70kmの短距離ロケット弾を計81発も発射している。

さらに26日には中距離弾道ミサイル「ノドン・ミサイル」を2発発射した。飛距離は約650キロで、移動式発射台を使って平壌北方の平安南道・粛川付近から発射された。日本海に面した江原道・元山や旗対嶺にある基地以外の地点から発射されたのは黄海(西海)に面した平安北道・東倉里の発射基地から発射されたテポドンを除けば、これが初めてのことである。今年3月2日の「スカッドC」も平安南道・南浦から発射されている。

昨年の北朝鮮のミサイル発射は2月から3月の一か月間で100発に上ったが、6月になってもミサイル発射は続いた。26日に元山から「KN-09」が3発発射されている。この日の発射について北朝鮮は金正恩第一書記の参観のもとで行われた「超精密誘導弾の試験発射であった」と公表した。人工衛星と称するテポドン以外は過去に一度もミサイルの発射事実を認めたことがなかったことを考えると、極めて異例の発表であった。

さらに3日後の29日にも同じく元山から今度は「スカッド・ミサイル」を2発発射。これまた北朝鮮メディアは「金正恩第一書記が戦略軍の戦術ロケット発射訓練を指導した」として「訓練は個別目標と集団目標を消滅するための精密誘導及び散布射撃方法で行われた」と報道した。

北朝鮮は7月に入ってもミサイル発射を止めず、7月2日には元山から「KN-09」を2発発射したのに続き、一週間後の9日には黄海北道・平山から「スカッドC」を2発発射した。軍事境界線から40kmも離れてない地点からの発射であった。500km飛行して、束草方面遠海に落ちた。3月26日の平安南道・粛川付近から発射に続き、国土を横切って弾道ミサイルが発射されたことでその気になればいつどこからでもミサイルを撃てる能力を見せつけた。13日にも黄海南道・開城から「スカッドC」が2発発射された。明け方1時20分から1時間半の間に軍事境界線20kmの場所から発射されたことが確認されている。

極め付きは7月14日の100発で、金正恩第一書記が見守る中、38度線に近い南東部から砲撃訓練を実施し、日本海に向けロケット弾など計100発余りが撃ち込まれた。飛距離は3kmから長くて50kmでいずれも北朝鮮の近海に着弾している。朝鮮半島有事の際の米韓の上陸作戦を阻止するための訓練の一環とみられるが、北朝鮮による軍事境界線付近での実弾発射訓練はこれまた異例であった。

さらに7月27日には金正恩第一書記参観の下、軍事境界線から100km離れた黄海南道・長山串付近から日本海に向け「スカッドC」1発が、30日には平安道の妙香山から「KN-09」4発が日本海に向け発射されている。北朝鮮が「KN-09」を内陸で発射したのはこの日が初めてだった。北朝鮮は8月にも14日に元山付近から「KN-09」とみられるロケット弾5発を日本海に向けて発射したが、最大射程距離120kmの従来の「KN-2」と比べて「KN-09」が220km余りを飛んだことから3軍本部がある鶏龍台、平沢・烏山米軍基地だけでなく大田の空軍基地への打撃も可能となった。

この年は、9月1日に中国に近い北部の慈江道・龍林付近から日本海に向けて「KN-09」1発が発射されたが、発射地点は中国との国境から60キロあまりで、龍林付近からの「KN-09」の発射は今回が初めて。発射地点の龍林にはスカッド・ミサイルの発射基地が地下に建設されているとみられている。6日にも3発元山から日本海に向け発射された。

北朝鮮は昨年だけで延べ19回、計200発以上ミサイルやロケット弾を江原道の元山や旗対嶺からだけでなく、移動式発射台を使って、それも平安南道の粛川、黄海南道の開城、黄海北道の平山、黄海南道の長山串、平安北道の妙香山、慈江道の龍林など様々な地点から発射することでいつでも、どこからでも発射が可能であることを誇示してみせた。

今年もすでに先月は6日に射程100km程度の艦対艦ミサイル4発、8日に「KN-09」5発、さらに20日には南浦一帯で地対艦ミサイル「シルクワーム」と地対空ミサイル「SA-2」の発射訓練が行われている。

今年の北朝鮮のミサイル発射回数が何回、何発に上るのかは予想が付かないが、グアムとアラスカを標的にした中距離ミサイル「ムスダン」と、米本土をターゲットにした三段式の大陸間弾道ミサイル「KN-08」の発射は一度も行われてない。

「ムスダン」については2013年に米韓合同軍事演習に対抗して金正恩第一書記が3月29日に作戦会議を緊急招集し、「ミサイル射撃待機」の指示を出したことで4月に一度だけ日本海に面した基地に配備されたことがあったが、衝突が回避されたこともあって、撤収している。今回初めて発射されるのか、それが最大のポイントだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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