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北朝鮮は小型化した核弾頭をすでに保有しているのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
公開された核弾頭の模型?

北朝鮮の国営メディアは9日、金正恩第一書記が核弾頭の模型とみられる「銀色球体」と長距離弾道ミサイル「KN-08」を前に「核爆弾を軽量化して弾道ロケットに合致するように標準化、規格化を実現した」と発言していたことを伝えていた。北朝鮮の最高指導者が核の小型化について言及したのはこれが初めてである。

北朝鮮の発表に韓国国防部が「(そのレベルを)確保していない」と評したことから北朝鮮の核弾頭の小型化の有無が国際的な関心事となっている。

核爆弾もしくは模型の公開が、北朝鮮一流の見せかけなのか、それとも、「国家防衛のため実戦配置した核弾頭を任意の瞬間、発射できるよう常に準備せよ」(金正恩第一書記)と口で言ってもわからないから、「本気度」を示すためあえてそれらしきものを見せたのか、評価が分かれるところだが、韓国国防部の「反論」も今一つ説得力がないだけに不安は募る。というのも、2011年6月に当時国防長官だった金寛鎮・現大統領安全担当室長が国会の国防委員会で「北朝鮮が核兵器の小型化に成功したとみている」と証言していたからだ。国防部トップの長官が「成功している」と言っているのに、国防部が「まだまだ」というのも実に変な話だ。

但し、金前国防長官も確証があっての断言ではなく、「北朝鮮が2006年と09年の2度の核実験を行った後、相当な時間が過ぎたので、他国の例から見て小型化に成功しているのではと判断している」と、これまた実にアバウトな発言だった。要は、韓国も本当のところは北朝鮮の小型化能力についてわかってないということだ。

今から7年前の2009年5月に北朝鮮が2度目の核実験を実施する直前、時事通信(3月31日)は北朝鮮がプルトニウムを使用した核爆弾の小型化に成功し、中距離弾道ミサイル「ノドン」用の核弾頭を製造した可能性がある、と米韓情報当局が分析しているとの記事を配信していたことがあった。

当時米国防長官だったゲーツ氏は、この報道の2日前のテレビ番組「フォックス・ニュース・サンデー」で「米国防総省は北朝鮮がミサイルに弾頭を搭載する能力があるとは考えてない」と発言していたが、米国の核専門家らは1回目の2006年核実験から北朝鮮の核弾頭のミサイル搭載能力を指摘していた。

米科学国際安全保障研究所(ISIS)のデイビット・オブライト所長は今から10年前にロイタ-通信とのインタビュ-(06年11月2日)で「我々は北朝鮮が核弾頭をノドンに装着できると評価している」と語り、また、軍事専門シンクタンクである「グロ-バル・セキュリティ」のジョン・バイク所長も「北朝鮮が中距離弾道ミサイルに核兵器を装着できる能力を持っていることをなぜ疑うのか理解できない。北朝鮮はすでに数年前にそうした能力を手にした」とオブライト所長と同様の見解を示していた。

しかし、2006年の段階での北朝鮮の小型化の一つの目安は1,000kgで、米本土を攻撃するICBMの弾頭には500kg~200kgとより軽量化、小型化しなければならずそのレベルに達するには更なる起爆装置の実験や核実験が不可欠であった。

北朝鮮は2013年2月の3度目の実験を「高い水準の核実験を行う」と予告して行ったが、米国の圧力と制裁が加えられる度に「核抑止力をより多角的に強化する」「新たに発展した方法で一層強化する」と外務省声明などで連呼していたことから一部では「高い水準の核実験」がミサイルに搭載するための「小型化実験」ではないかとみられたこともあった。

米国では今では民間専門家だけでなく、軍高官からも北朝鮮がすでに小型化の能力を有しているとの発言が相次ぎ、2014年10月にはカーティス・スカパロッティ駐韓米軍司令官が「実験を通じて検証されてないものの北朝鮮は核弾頭を小型化し、ミサイルに搭載できる能力を有している」との見解を表明していた。

また、米軍戦略司令部のセシール・ハネイ司令官も昨年3月19日、上院軍事委員会の聴聞会で「北朝鮮はすでに核能力の一部を小型化しているとみている」と証言し、さらに米本土防衛を担う米軍北方軍・北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のゴートニー司令官までもが昨年4月7日、国防省内での記者懇談の席で「北朝鮮が核兵器を大陸間弾道ミサイル(KN-08)に装着して米本土に発射できる能力を保有している」との見方を示していた。

北朝鮮の国防委員会政策局は昨年5月20日に「我々の自衛力強化措置に挑戦してはならない」と警告する内容の報道官声明を発表し、その中で「我々の核攻撃手段は本格的な小型化、多種段階に入って久しい」としたうえで「中・短距離ロケットはもちろん、長距離ロケットの精密化、知能化も最高の命中確率を担保できる段階にある」と主張していた。

北朝鮮は「ワシントンも、ホワイトハウスもペンタゴンも我々の攻撃の照準にある」と恫喝し、最近も「米帝の運命に終止符を打つ」とか「米国を墓場にする」との「暴言」を連発している。

金正恩第一書記も昨年7月27日の戦争勝利(停戦)記念日での演説で「もはや米国は我々にとっては脅威でも恐怖の対象でもない。むしろ我々のほうが米国への大きな脅威、恐怖になっているのが今日の現実である」と豪語していたが、この強気の発言を担保しているのがもしかすると、核爆弾の小型化にあるのかもしれない。

単なるハッタリか、それとも本当か?いずれにせよ、次は、グアムを標的にする中距離弾道ミサイル「ムスダン」もしくは米本土を狙う長距離弾道ミサイル「KN-08」の発射実験に米国の関心が向けられることになるだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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