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北朝鮮はウラン型核爆弾を何発保有しているのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
軍事パレードに登場した「放射能マーク」の部隊

北朝鮮の5度目の核実験が取り沙汰される中、米国の政策研究機関である米科学国際安保研究所(ISIS)が21日、衛星画像を分析した結果、北朝鮮の核施設のある寧辺から約45km離れた場所に未公開の旧ウラン濃縮施設があるとの調査結果を発表したことで、北朝鮮の濃縮ウランの開発に注目が集まっている。

問題の施設は、平安北道亀城市のパンヒョン飛行場から東南側に位置する将軍台山(チャングンデサン)地下にある無人機生産工場として知られる航空機工場内にあったとISISは推測している。

ISISによると、この施設は1990年代から2000年代初にかけて稼働していた模様で、寧辺にウラン濃縮施設が本格的に建設される前に研究開発用として200~300基の遠心分離機が使用され、使われていたようだ。

寧辺のウラン濃縮施設には2010年11月に原子力専門家のヘッカー元ロスアラモス国立研究所長が訪朝し、視察しているが、帰国後「あまりにも立派な施設なので驚いた。1000基以上の遠心分離機があった」と感想を述べていた。その際に北朝鮮の原子力関係者は「寧辺以外には濃縮施設は存在しない」と説明していた。

濃縮ウランの開発を疑われた2004年の時点では北朝鮮は「濃縮ウラン開発計画も、装備も、技術もない」と否定していたが、2009年6月にプルトニウムによる2度目の核実験を行ったことに国連安保理が制裁決議「1874」を採択したことに反発し、外務省声明でウラン濃縮作業の着手を宣言し、早くも3か月後には国連安保理議長に宛てた手紙で「ウラン濃縮試験に成功した」を主張していた。施設が完成し、稼働したからこそヘッカー氏を寧辺に招請し、施設を誇らしげに見せたのだろう

ヘッカー訪朝後、労働新聞は11月30日付に「数千基の遠心分離機を備えた近代的なウラン濃縮工場が稼動している」と報じ、12月29日付では「軽水炉発電所建設を通じた核利用は正当な権利だ」と言い張っていた。

軽水炉については、クリントン、ブッシュ両政権で朝鮮半島和平担当特使を務めたプリチャード米韓経済研究所(KEI)所長がヘッカー氏よりも一週前(11月2~6日)に訪朝した際に北朝鮮高官から「寧辺に軽水炉を建設中」と聞き、米国政府に報告していた。北朝鮮側の説明では軽水炉の出力は25メガ~30メガワットという。軽水炉の製作、建設は、簡単ではない。軽水炉の製作技術を持っている国は米国、ロシア、日本、中国、フランスそして韓国の6か国ぐらいである。北朝鮮はそれだけの高度の技術を手にしていたということだ。

軽水炉の原料はウラン235が3~5%交じった低濃縮ウランが使用される。軽水炉の原料製造のためにはウラン濃縮技術は不可欠で、天然ウランや数パーセント程度の濃縮ウランでは核兵器には使用できない。

しかし、濃度を2~3%度高める技術を取得できれば、ウラン濃度90%以上の核兵器用の高濃縮ウランを生産できる。ウラン濃縮工場で2千基の遠心分離機を1年間フル稼働させれば原子爆弾1個製造するのに必要な25~30kgの高濃縮ウランを手にすることができる。

高濃縮ウランで核爆弾をつくればプルトニウムより工程が簡単で費用と時間も節減できる。またプルトニウム型爆弾に比べて軽量化が可能となる。さらに、プルトニウム型爆弾よりも製造と保管が簡単で、加えて複雑な起爆装置を使ってのプルトニウム方式と異なり単純な装置による爆発が可能である。

北朝鮮はまだ公式的には一度もウラン核爆弾の開発と保有を認めてない。しかし、仮にウラン濃縮工場が2010年の時点で稼働しているならば、6年経った現在、150kg~180kg、即ちウラン型核爆弾6-8個保有していてもおかしくはない。

CIAは2002年に「北朝鮮は年間1~2個の核兵器を製造できる量の濃縮ウランを生産する工場を建設しており、早ければ2005~2006年には稼動できる」と分析していた。仮に北朝鮮が2005-2006年の時点から濃縮ウランを生産しているならば数はさらに増えることになる。これに黒鉛型原子炉から製造されるプルトニウム型核爆弾を加えると、一体全体、北朝鮮は何発の核爆弾を持っているのだろう。

米上院議員のダイアン・ファインスタイン情報委員長は今年2月、上院情報委員会の聴聞会で「北朝鮮は最大で20発の核爆弾を保有している」と発言し、またISISのデイビッド・オルブライト所長は先月(6月17日)「北朝鮮は2020年までに最大で50発手にするだろう」と予測していたが、北朝鮮には無尽蔵のウランが埋蔵されている。

このまま北朝鮮の核の暴走を放置すれば、この予想は当たるかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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