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「崔順実逮捕」で収拾か?エスカレートか?「朴大統領スキャンダル」の行方

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
崔順実容疑者と朴槿恵大統領を揶揄する市民(写真:ロイター/アフロ)

「韓国版ウォーターゲート事件」を模倣して「崔順実ゲート事件」と呼ばれる朴槿恵大統領にまつわる一大スキャンダルが渦中の人物、崔順実氏が電撃逮捕されたことで急転収拾に向かうのか、それとも、さらにエスカレートするのか重大な局面を迎えている。

朴槿恵政権が早期収拾、幕引きを図ろうとしているのは明らかだ。何よりも事件の主役である崔順実容疑者が事実上逃亡先のドイツから急転直下帰国し、検察の事情聴取に応じたことがそのことを示している。

崔容疑者は帰国直前の「世界日報」とのインタビューでは「ドイツに移住するため来た」と長期滞在を示唆していた。また、韓国の検察に召還された場合、帰国する考えはないかとの質問に「今は飛行機に乗れないほど神経が衰弱しており、心臓も悪く、治療を受けている」と語っていた。それが一転、帰国となった。

ドイツは崔容疑者にとっては1979年から85年まで留学し、住み慣れた言わば「第二の故郷」である。家もあり、成人になったばかりの一人娘もいる。それでも大騒動の中、帰国を決断したのは、窮地に立たされている朴大統領を救う思いがあるのだろう。

崔容疑者は昨日中央地検に出頭する際に「死ぬほどの罪を犯してしまいました」との言葉を発し、国民に謝罪していた。「死ぬほどの罪」とは一連の容疑への謝罪ではない。

崔容疑者は前出のインタビューで「大統領は立派な人だ。そんな人に物議をかもすようなことをしてしまって申し訳なく思っている。死にたい気持ちだ」と語っていたところをみると、朴大統領に対して罪を犯したという意味のようだ。この言葉とおりならば、朴大統領を庇うつもりで帰国を決断したといえる。自分が表に出ることで朴大統領への風当たりを少しでも弱めることができると考えているに違いない。

崔容疑者には▲「ミル文化財団」と「Kスポーツ財団」の不法設立と基金募金疑惑と韓国とドイツで設立した「ザ・ブルーK」など私的な会社への流用疑惑▲青瓦台文書流出疑惑▲娘の不正入学疑惑など様々な疑惑が掛けられている。容疑だけで横領、背任、脱税、外為法違反など10件ぐらいあるとされている。叩けばいくらでも埃が出る。

検察も逮捕した限り、容疑を固め、起訴に持ち込むだろう。さらに、崔容疑者に関連した人物らを逮捕して事件の早期決着を図る構えだ。その中には出国禁止措置を取った財団の創設に関わった安鍾範・政策調整首席秘書官や大量の内部文書を崔容疑者に提供したとされるチョン・ホソン秘書官ら青瓦台関係者らも含まれるだろう。

朴大統領は収拾策として青瓦台(大統領府)の人事を一新している。これで収まらない場合は、次に内閣改造に踏み切るだろう。また与党「セヌリ党」をまとめるために党籍離脱にも応じるかもしれない。次期大統領候補の選出に関与させないため非主流派(非朴槿恵派)は朴大統領に脱党を迫っているからだ。さらに、挙国中立内閣の要求を呑む可能性もある。

与野党が合意して中立内閣を組閣し、選出した新総理に大統領の権限を委譲させる。この場合、朴大統領は国家元首という象徴的な存在に留まることになる。任期終了の2018年2月までお飾り的な存在になることに抵抗はあるかもしれないが、弾劾や退陣に追い込まれるよりもベターな選択だ。

仮に与党の要求を拒否すれば、40人近くいる非主流派が造反する可能性もある。国会(300議席)で多数を占める野党に仮に与党から29人が離反し、同調すれば、3分の2の多数(200議席)で弾劾が成立してしまう。盧武鉉大統領が過去に弾劾にあった前例があるだけに可能性はゼロではない。

大統領弾劾訴追案が可決されれば、可否を審議する憲法裁判所の判断が出るまで大統領の職務を一時停止しなければならないし、憲法裁判所が国会決議を有効と認めれば、韓国史上初の任期途中の辞任となる。まさに「ウォーターゲート事件」で辞任したニクソン大統領の二の舞になる。

挙国中立内閣は当然、野党が同意しなければ成立しない。しかし、そもそもこの案は第一野党の「共に民主党」と第二野党の「国民の党」が揃って真っ先に主張していたものだ。従って、野党が賛成すれば、朴大統領は受け入れざるを得なくなるだろう。

というのも、仮に国会での弾劾を防げたとしても、今は朴大統領に弾劾や下野は求めてない野党が一転、朴政権退陣の院外闘争に打って出る可能性もあるからだ。野党が街頭に出て市民主導のデモに合流すれば、2万人でスタートしたデモの規模は大規模なものになるだろう。それが連日続けば、退陣に追い込まれる可能性もある。

弾劾も、退陣も避けたいならば、結局のところ挙国中立内閣を受け入れざるを得ない。今の15%前後の低支持率では18年2月の任期まで持たないからだ。

与党が一転、挙国中立内閣に舵を切ったことから、事態が収拾するか、エスカレートするかは、朴大統領がこの案を受け入れるかどうかにかかっているようだ。

(参考資料:「死に体」の朴大統領 弾劾か?下野か?居座りか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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