Yahoo!ニュース

「問題発言」を繰り返すのは、政府・自民党執行部と伝統的な自民党気質のギャップと考えてみる

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

タイトルは、藤代裕之さんのエントリからのインスパイア。

「問題発言」を繰り返すのは、安倍政権の高度な世論操作プロレスだと考えてみる(藤代裕之)- Y!ニュース

http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujisiro/20150630-00047130/

自民党議員によるメディアでの「問題発言」が相次いでいる。これをどう読み解くのか。果たして、「問題発言」が相次ぐ真意はなにか。マスメディア、新聞紙面、ネット界隈でも議論が絶えない。

藤代さんは、以下のように述べている。

問題発言をもぐらたたきのように目の前に繰り出すことで、安全保障関連法案そのものの議論が忘れさられたり、深く議論されなくなったり、しているのではないでしょうか。通常であればリスクが高い問題発言を、あえて「泳がせ」それに対して遺憾の意を表明することで、まともなポジションを取るという安倍政権の高度な世論操作プロレスなのではないか、というのは考えすぎでしょうか。

出典:「問題発言」を繰り返すのは、安倍政権の高度な世論操作プロレスだと考えてみる

個人的には近しくも、少々そのプロセスについて、異なった仮説を持っている。

政府・自民党執行部と伝統的な自民党気質のギャップを手がかりに考えてみたい。

藤代さんも指摘するように、またこれまで拙著などでも指摘してきたように、自民党が2000年代以後、政党としては、ほぼ唯一、連続する積極的なメディア戦略を採用している。ネット選挙の解禁にきわめてアグレッシブだったことも、こうした文脈のなかに位置づけることができる。『Wedge』誌の6月号が指摘するように、民主党政権のもとでは削減対象であった政府の対外広報予算も、最近では増加傾向にある。現在の政府・自民党執行部が積極的なメディア戦略を採用しているといえそうである。

他方で、伝統的な自民党気質はどうか。これはある種、統治の知恵として、メディアと共犯関係にあったことも、よく知られている。たとえば政治側でいえば岸信介の回顧録には、60年安保の賛成世論を惹起しようとしていた旨の言及があるし、メディアの側ではやはり渡邉恒雄の回想に政治との蜜月関係が赤裸々に言及されている。あるいは、もう少し遡っていうなら、日本の自由民主主義的基盤は総力戦体制下のメディア網を踏襲しつつ、事前事後の検閲によって実現したものであることもまた周知の事実である。その意味では、建前としては「言論の自由を保障」しつつ、実質的には言論に介入するという態度が、伝統的な自民党気質であったと捉えられそうである(この傾向は、表現の自由を定めた憲法21条に制限を追加した自民党の憲法草案とも似ている)。

これらの認識に立つなら、政府・与党執行部は、急速に現代的な戦略PRやメディア戦略に急速に舵を切ったが、個々の議員レベルでは、未だ十分には浸透していない、つまり両者の間にギャップがあると捉えることができるのではないか。

結論としては、藤代さんとはほぼ同種のものである。昨日のエントリの言い方に倣うならば、やはり政治とメディアの関係が共存・協調関係から、対立・コントロール関係へと変容しているという認識に立つことができる。とはいえ現状は過渡期であり、それらが十分に浸透していないという状況ではないか。

さて、これもまた、いつもと同じ結論なのだが、ここまで述べてきたようなメディアと政治の関係の変容を踏まえたうえで、従来のジャーナリズムのメリットを継承しつつ、デメリットを補完する報道手法の開拓が求められる。とくに規模の大きな従来型マスメディアにとって、経営的にも、国民からの信頼という点でも急務だ。だが、そうした試みはなされているだろうか。管見の限りでは、なかなか心許ないものがあるが、どうか。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

西田亮介の最近の記事