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部活動で日焼け止め禁止?! 積極的な使用への転換を!

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

■学校での使用を禁止

つい先日のこと、知り合いの教員が、「部活動で、日焼け止めクリームが禁止されている。家からつけてくるのだけは認められているけど、学校で使うことは許されていない」と嘆いていた。

屋外の部活動の顧問であるため、その先生自身が日焼け止めを必要としている。だが、「生徒に使用を禁じている手前、自分も使うわけにはいかない。生徒も自分も暑いなかで、肌を真っ赤にしてしまう」と、本当に困っている様子であった。

そのような学校は、ほんの一部であると信じたい。だが、一部だからといって見過ごすわけにはいかない。なぜなら、まさにその学校の先生や生徒たちは、この暑い日々に、毎日そのような状況にさらされているからだ。ほんの一部の学校だとしても、そこにいる当事者にとっては大問題であり、今日すぐにでも改善されるべき事項である【注】。

■健康上の理由がある場合のみ許可

いまどき日焼け止めの持参を禁止している学校があることに、驚く読者も多いことだろう。だが、以下に例示するとおり、いまも少なからぬ学校でそれが支持されているということを、私たちは直視しなければならない。(学校の匿名性を確保するために、文意を損ねないかたちで文章を大幅に編集した。)

●A中学校 通信(2014年)

日焼け止めや制汗剤は、原則として家で塗るのみとし、学校での使用は認めません。健康上の事情により学校での使用が必要と認められる場合には、担任または部活動顧問に「使用理由書」を提出してください。

●B中学校 学年通信(2015年)

学校生活に必要のないものは、持参しない。

例)リップクリーム、制汗剤、日焼け止めは原則禁止とする。薬用で健康上必要な場合には、担任の許可を得る。

●C中学校 学年通信(2014年)

▽体育大会の練習について

制汗剤、汗ふき用シート、日焼け止めなどを学校に持ち込むのは禁止です。皮膚の病気などの理由で日焼け止めの使用を医師が勧めている場合には、担任に申し出てください。

これらの事例の類似性は高い。第一に、学校での使用を禁じている(自宅であらかじめ塗るのは認める)。そして第二に、健康上の理由がある場合のみ許可するとしている。

■日焼け=健康的、 美容は不要

出典:「写真素材 足成」
出典:「写真素材 足成」

従来、日焼けは健康の象徴のようにとらえられていたが、いまは養護教諭をはじめ多くの教員の間で、紫外線がもたらす健康リスクへの関心が高まっている。日焼け止めの使用は多くの学校において、一定のマナー(例:無香料・無着色、使用場所の限定など)のもとで、使用が認められている。

他方でいくつかの学校が、日焼け止めの持ち込みに抵抗を示すのも理解できる。その理由の一つは、上に述べたとおり、(子どもの)日焼け=健康的という考えがいまだに支持されうるからである。

もう一つの理由は、おそらくこちらのほうが重要だと思われるのだが、学校にオシャレや美容に関連するものを極力持ち込まないという考えが支持されうるからである。

いずれの理由も、とても「学校的」「教育的」であり、それが日焼けの健康リスクを見えなくさせている。

■積極的な使用への転換を

現時点の学校側の対応としては多くの場合、日焼け止めの使用を「認める」という姿勢であるように思われる。だが、「認める」という発想から、私たちはさらに一歩進むべきである。

すなわち、やむなく認めるという姿勢ではなく、積極的に推奨するという姿勢である。実際に学校や教員によっては、そこまで踏み込んで使用を推奨している場合もあると聞く。健康上の特別な理由がある場合のみ許可するという態度は、もはや論外であると言えよう。

日本臨床皮膚科医会は学会の統一見解として、「学校生活における紫外線対策に関する具体的指針」(2011年10月)において、「サンスクリーン剤を上手に使う」ことを提言し、「たっぷりと均一に」「2、3時間ごとに重ね塗りする」ことを勧めている。

真夏の部活動ともなれば、汗の量も多いだけに、自宅で1回塗るだけではまったく不十分である。また、自宅で塗るだけにすると、長時間効果のあるもの(「SPF」の値が大きいもの)を選ぶことになり、それは肌への負荷を大きくしてしまうことにもなる。

これらのことを踏まえたうえで、日焼け止めの積極的な使用へと転換していくことが求められる。

■子どもの肌を守る

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WHO(世界保健機関)は2003年の時点で、「日焼け防止と学校」(Sun Protection and Schools)という冊子を作成している。そこで強調されているのは、子ども時代に紫外線を浴びることが後の人生に大きな負の影響をもたらすということである。炎天下での部活動は、肌をやけどするだけでなく、長い人生においても健康リスクを高めてしまう。

たしかに「学校的」な対応にも意義はあるだろうが、それ以上に健康リスクの面から子どものことを考えるべきであろう。私たちが声をあげることで、いま炎天下で苦しんでいる生徒や先生が救われるかもしれない。「一部の学校のこと」と一蹴するのではなく、学校保健の取り組みが積み重ねてきたものを、すべての生徒と教職員に行き渡らせるべく、この問題に向き合っていくことが求められる。

【注】

7月15日のこと、『女性自身』の「学校のプールで『子どもの日焼け止め禁止』…あなたは賛成?」という記事が、ウェブ上で大きな反響を呼んだ。

そこでは、プールにおける日焼け止めの使用が、プールの水質を汚染するのではないかという点が懸念されていた。本記事は、陸上における活動での日焼け止め防止に関するものであり、水質汚染は論点にはない。その点は混同せぬよう留意してほしい。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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